第四章 彼岸への序章
夜。俺は何か腹が減ってコンビニに出かけようと思った。時計の針は午後九時を指していた。
玄関へと向かい、外へと出て、ゆっくりとした速度で歩き出した。
こんなことなら食べ物をもっと買いだめしておくべきだった。
少し離れた場所に人影が見えた。俺の行く道の先に立っているものだから、少し不審に思う。だがその人影は少女ほどのもので、別段脅威にはならないと思った。
その姿に目もくれずに、俺はその横を通り過ぎようとした。
ーーその通り際、大げさに顔付近に向けて振り下ろされた光を見て、俺はその陰から素早く距離を取った。
その手にはナイフが握られていた。
フードを被っていて、顔がよく見えない。
その影はすぐに距離を縮めてくると、そのナイフを慣れた手つきで俺へと薙いだ。少し擦れて傷みが走った。
「これでは面白くないわ」
ーーどこかで聞いた声だった。
「だれだ、おまえ」
「帆坂文香と言えばわかるかしら」
俺はぞくりとした。
帆坂は死んだ。それは間違いない。
つまりーー俺が帆坂を殺したことを、こいつは知っているのかーー。
だが、どうしてだ。あの夜の連中の誰かが、第三者に漏らしたのか……いや、それも考えにくい。
じゃあこいつは一体ーー。
影が真っすぐに駆けだしてきた。俺は身構えて臨戦態勢に入った。
影は俺の攻撃が届かないところで一度止まると、軽快な動きで俺の死角へと飛んだ。
俺は慌ててその陰の行った方向へと、蹴りを入れるが、読まれていたのかそれはすらりと躱された。
ーー腹部に痛みが走った。腹部を見るとナイフが突き刺されていた。影はナイフを抜くと、後ろへと身軽に飛び退き。俺から距離を取った。
俺は腹部を抑えて後ろへ数歩下がった。怪我を見ると、血が出ているだけでそれ程傷は深くないようだ。
これはわざとだーー俺は確信していた。俺は遊ばれているんだ。
だが、これ程の相手が、一体俺に何の用なんだろう。間違いなくただの通り魔ではない。とうとう俺もお役御免ということだろうか。
影はフードをゆっくりと外した。綺麗な長髪の黒髪が揺れた。
「おーーまえーー」
俺はその正体を見て愕然とした。
「幸川ーー叶江ーー」
その言葉を聞いて、影はいつもの機嫌の悪そうな表情をした。
「一体ーーどういうことだ」
「そんなに驚かなくてもいいわ」
幸川はそんなことを平然と言った。
「話はあなたの家でしましょう」
そう言うと幸川は俺の家の方向へと向かった。
「おい……人を刺しておいてなんて言い草だ」
「これくらいのことをされて仕方のないことをあなたはしてるの」
そう言うと幸川は俺の家へと入っていった。
俺は理解が追い付かなくて嫌々自分の家に入ることにした。
彼女はいったい何者なんだ。そのことだけが頭をぐるぐると回っていた。
家に入ると、幸川はソファの上で面倒くさそうにくつろいでいた。
「さあ、話を始めるわ」
「……俺は怪我人なんだ。治療ぐらいさせろ」
「そんなもの放っておけば治るじゃない」
「おまえはいつもそんな感じだな……」
俺は一通り怪我を治療すると、ソファに腰を掛けた。
「それで、おまえ、一体何者なんだ。俺の知っている幸川はクールで、ちょっとツンデレで、友達思いの一学生なんだが」
「……必要のないことは言わなくていいわ。それと私は、偵察役と言ったところかしら」
幸川は不審なことを平然と言う。
「おまえ……俺が帆坂を殺したことを知っているのか」
「知っているわ。それだけじゃないの。あなたがどのような組織に属していて、どのような過程を送ってきた人間なのかも知っているわ」
俺は愕然とした。正直、これ程人生で驚いたことはなかった。
俺は言葉を選べないでいた。
「力づくで聞き出そうとしても、あなたでは私には勝てない。それと、ここに来た理由は、あなたにお仕置きをするためだったの」
「……」
「あなたの上の連中は許したかもしれないけれど、私は身勝手にだれかを殺したあなたの行動を許したわけじゃない。圧力をかけたのだって、あなたの組織のリーダーの言う〝オヤジ〟がしたことなのでしょうが、それも許したわけではないわ。本当は、一上官としては今頃あなたを組織から追放して抹殺しておきたかったほどだわ」
「おまえ……本当に一体……」
幸川のあの、理解の追いつかない眼に見すくめられて、俺は口をつぐんだ。
「私がなぜこれほどまでに怒っているか解る? 詩原くん」
「解るわけない」
「あなたの任務はもう、あなたのミスで九割は失敗しているからよ」
「ーー」
俺は言葉を失った。
「相手を甘く見すぎたのよ、あなたは。私はこういうミスが一番嫌いなのよ」
幸川はすねるようにした。
「あなたの能力も確かに評価しているわ。だからこそあなたはこの任務を任された。観察力、洞察力。あなたは組織の中でも、その両方に関しては最も優秀。敵の心理的動向、人格、趣味嗜好。特定の人物を相手にする時は、そういうモノを冷静に、そして確実に読み取ることが必須だった。けれど、あなたは失敗したわ」
「まだそう決まったわけじゃない」
俺は内心で焦燥を感じていた。俺は自分の過失を悔やんだ。
こんな失敗、今までは一度もなかった。
帆坂を排除したことは今でも悔やんでいないーーだが、自分の欲求を優先してしまったのは確かだ。
「私は二年前から対象を観察してきたわ。情報もあなたたちに全て伝えた。だから私の役目はこれで終わり。
ーーそれに、正直私はこの国がどうなろうと気にしていないの。命も心も、最後はなるようにしかならということを私は知っている」
幸川の方を向くと、彼女はいつもの冷たい眼をしていた。
「幸川……おまえはリーダーと同じ感じがする」
俺は絶望の感情を、幸川の姿に映し出していた。
彼女はきっと、俺以上に波乱の過去を持っているに違いない。どのような過程をもってして今の立場に至ったのかは知らないが、俺の予想では、彼女は間違いなく俗に言う上層部の連中の内の一人だ。
俺にとってはリーダーもそのうちの一人だ。だがリーダーは〝オヤジ〟という人物に今のところ仕えている。しかし、幸川はその〝オヤジ〟を対等の存在のように扱った。
俺が所属している組織も十分に異質で、謎だ。しかし、彼女が所属、もしくは経由しているモノに関しては全くと言っていいほど想像がつかない。
俺はこの組織に所属していて、罰を与える側の人間だと思っていた。なのに、まだその上に、俺たちを罰する存在がいるとでもいうのか。
その可能性については考えたくもなかった。俺は、いや俺たちは、違法に非道をする立場において、絶対に正しい視点を持っておかなければならないのだ。排除する相手は、どのような観点から見ても明確な、害でなくてはならないのだ。
「私が一体どのようなモノを後ろ盾に持つ存在なのか、気になる?」
冷たい声が部屋を見たした。俺は心の奥底がひんやりと凍えていくのが解った。
「私は〝彼岸〟を後ろ盾に持つ存在なの。ーーそれは、あなたもよ」
「彼岸ーー」
「そう。前にあなたは言ったでしょ。束縛がなければこの世界に存在することさえできないって。確かに私もそう思う。だけど、世界はどうかしら、人なんているだけで迷惑でしょうね。人間は世界にとって、もう不純物でしかないのよ。それでも私たち〝彼岸〟に属する人間はーー人間が世界に認められるように、必死に人間を良いモノへと改善しようとしている。人間に仇名す害を排除しようとするのも、人間には〝まだ生きる価値があるという希望〟を捨てていないからよ。
私の言っていること、わかるかしら」
冷たい笑みを幸川は浮かべた。
「でもあくまでその希望は、諦観からくるものなの。もう本当は無意味で無価値なモノだという諦観から、その希望はやってきている。つまりーー〝彼岸〟に属する存在というのはね、人間の未来を祈りながらも、その人間自体が最終的には救いようのないものだという諦観を前提に生きている、終わりから訪れた存在なのよ」
俺は幸川の話を聞いていて、全く理解できていなかった。
彼女の話は抽象的なのか、それとも具体的なのか判然としない。いや、抽象的なんだ。なにか明確な答えを言っているように聞こえたから疑問に思わなかったが、彼女の言っていることは抽象的だし、脱線している。多分これはきっと、思いを伝えようとする言葉ではないのだ。彼女は自分の私情にひどく寄った言葉を吐いたんだ。
後ろ盾はなんなのか、それとは〝彼岸〟だと彼女は言った。それにしても、そんなものこの現実世界に物理的に存在しないではないか。俺はどのような目的を持って、そしてどのような過程を持った組織に所属しているのかということを、明確に教えてもらいたいだけだというのに。
だがーーそれについて問いただすような強い意志を俺は持ち合わせてはいなかった。いやーーそんな表面だけのことなど、全く無意味なモノではないのかという気さえしてきていた。
俺に残された手段は、正体不明の存在である幸川の話を黙って聞くことくらいだった。
彼女の話を聞いて一つだけ解ったが、〝彼岸〟に属する存在というモノーーつまり幸川叶江のような人物は、常人と呼べる人間にとっては全く理解できないものであるということくらいだ。彼女の話を聞いて、明確に思う。彼女のようなタイプの人間を、俺は山ほど組織で見てきた。リーダーも、たまにこんな風に意味の解らないことを言う。それは俺も同じことだ。
だから、常人ではない俺は、彼女の相手に相応しかった。
「本来の話に戻るわ。
理由は判らないけれど、対象はあなたの正体に気づきながら、身を隠していないわ。だから排除するとしたら今しかない。作戦実行日は明後日だけれど、明日にでも対象と対峙するべきだと断言するわ」
「わかっている」
「本来、対象があなたに気づいてるのなら、あなたに何らかの刺客が来ていてもおかしくない。けれど、何も攻撃を仕掛けてきていない。あなたは今、対象に生かされている」
「ーー」
数秒の沈黙があった。
「対象は誰もが震えあがるテロリスト集団の元リーダー。対象をこのまま生かしておくと、近々他国との戦争が起こる可能性が浮上してくるわ。それに面倒なことにこの件には、政界の人間が一枚噛んでいる。どのような策略をもってして戦争を起こそうとするのかは、あなたの所属する組織のリーダーに聞いた通り。
詩原達見、高級特権を持つ〈オール〉の一人である私が命じます。
命に代えても対象を排除しなさい」
冷たい眼で、感情の全くない話し方で幸川はそう言った。
「ーー了解」
俺は内心で自嘲気味の笑みを漏らした。
彼女が何らかの権力を持っているのは確かだ。彼女はあまりに組織の内部事情に精通しすぎている。俺の経歴を知っているのなら、俺と同等の立場では間違いなくないだろう。俺の経歴を知っており、そして作戦内容を知っているのはリーダーだけ。組織に階級もない。だがリーダーに認められている修也にいならその情報を知っている可能性はある。つまり、彼女は俺たちの発砲許可を握り、そして報酬を払うリーダーと同等、もしくはそれ以上の存在だということだ。
俺たちの組織は公式なものではない。ある特定のモノたち、もしくは権力者によって作られた秘密組織だ。
しかし、それほどの権力を、一女子学生が所有しているだと……。そんなふざけた話があるのか。
俺はリーダーのことを思い出していた。あのリーダーの存在が、眼前の幸川という非現実が、真実なのではないのかという思いを強めていく。
幸川は不敵な笑みをした。
「ーーあなたの彼岸への歩みは、まだ序章でしかない。その命、戻れないところに行くまでに、早々に絶っておくことをおすすめするわ」
幸川は、それからはまるで何事もなかったようにソファの上でくつろいでいた。
俺は嵐のような彼女が理解できなかったから、されるがままだ。
ただ、彼女は束縛などないような立場にいる人間だと、俺には解った。彼女はその束縛を排除する術を持っていたんだ。けれど彼女は、俺たちのような人間を使ってその束縛を山ほど排除してきたにも関わらず、あらゆる束縛が煩わしいと嘆いていた。なんて残酷でーー自分の決定した害に対して、容赦のない話だろうか。
彼女も俺も、この〝盲目〟の世界で、壊したいものをモノを壊し続けて、最後はやはり何もこの世界から取り戻せなかったと絶望するのだろうか。いやーーするのだろう。
なぜなら、誰かが喜ぼうと、誰かが怒ろうと、誰かが哀しもうと、誰かが楽しもうとーー誰かが死のうと、誰かが消えようと、気にしないのがこの世界なのだから。世界は俺たちに祝福や救済を与えまいと、その人生に奇跡を与えることもない。ならば、そんな世界で生きている俺たちは、最後はただ壊れていきながら、目を瞑ることしか選択肢を持たない。ーーけど、最後には結局、眼を瞑るということを知っているからこそーー俺は、早々に目を瞑るという行為をしようとは思わない。なぜならーーあまりにもそれは哀しすぎるし、惨めすぎると思うからだ。
ーー救いようのないほどに哀しいこの世界で、自分が生まれてきた意味がなかったとしても、自分が愛した存在だけは、自分だけの記憶の中にある。世界にも、他人にも解らない、眩い奇跡であったと叫んでいたい。言葉に表せないような大切なことを、絶対に忘れない、心の奥底に、脳裏に、最後まで刻み付けておきたい。それだけでいいんだと俺は思う。。
修也にいがいつも言っていた。強敵を相手にする時は〝心を諦観で埋めろ〟と。それは〝自分の自我を希薄にする〟という意味だ。そうすれば、死への恐怖が無くなるからだ。自我がなければ、それはただの空っぽの操り人形だ。それは人を抹殺するときにも用いられるこの業界の掟のようなものだ。
だが、その修也にいの言いつけを、俺は聞いたことがない。他の言いつけは全て聞いたが、それだけは聞いたことがなかった。
なぜなら、俺は初めから自分の意志で人を殺してきたからだ。
俺には、対象を抹殺する明確な理由がいるのだ。明確な自我がいるのだ。明確な意志がいるのだ。
リーダーと初めて会った時も、俺は組織が追っていた殺人犯を自分の手で殺して、それがきっかけでリーダーと出会った。両親はその殺人犯に殺された。両親は殴られていいような人間ではあったが、殺されていいような人間ほどではなかった思う。
「ねえ」
横で幸川が言う。振り向くと、幸川はこちらに向き直った。さっきまで俺の顔の近くで足がひょこひょこと上下していのだが、彼女は意外に人懐っこいのかもしれない。まあでも、知羽たちと仲良くなってから、幸川も少しだけ変わったような気がする。
ほぼほぼくっついているような距離だから、少しだけ俺は緊張した。綺麗な長髪が輝いている。
「私の境遇は、相反しているように見えてあなたの境遇と少し似ているの。私の場合は殺したのが両親だったけれどね。両親はお偉いさんだったんだけれど、私はその両親にあまりいい扱いを受けていなかった。私の何が紛らわしかったのかは、今でも想像さえしたくないわ。私が愛して、そして友達だったのは私と同じような思いをしてた人だったの、けれど彼女は自殺してしまったわ。彼女は動物が好きで、私はよく彼女に連れられて公園に住み着いている人懐っこい野良猫にご飯をやりに行った。彼女が好きだったから、私もすぐに猫が好きになったわ。彼女が死んだときは、私の世界は灰色になった。けれど彼女の残した命、あの猫、最後の希望がいたから私は生きようと思ったけれど、その子も死んだ。両親には秘密で部屋で飼っていたら、見つかってしまってねーー連れていかれてしまったの。
自分を世界に誕生させた存在が、自分から一番大切なモノを奪うなんて、なんて皮肉話なんでしょうね。
両親に泣きながら聞くと、両親は笑いながら言ったわ。〝あいつは殺した〟と。その翌日に両親を殺してやったわ」
感情の無い声でそう言うと、彼女は言葉を切った。
「上官として今は話しているの。そのつもりで聞いてもらっていいわ。それで、どこに共通点があるか、まだわからないわよね。でも私は知ってる。あなたが無類の猫好きだということを」
「なんでそのことを知ってるんだよ」
「あなたのリーダーから聞いたのよ。彼女は私という存在があなたの傍にいることを知らないけれどね」
ますます謎だ。
「あなたは両親を好いているわけっじゃなかった。ただ大切な命を奪う人間を憎んでいた。だからあのような行動に出た。私は大切な命を奪われた哀しみで人を殺したけれど、あなたは先に大切な命を失っていて、その哀しみの経験から命の大切さを知っていた、だから身近でそのような行為に及んだ人物を許さなかった」
「そうだよ。俺も猫を飼っていた。孤独な日常での唯一の友達であり、何よりも大切な存在だ。そうか……孤独と、それを救った存在の死か」
「そうよ」
幸川は俺に顔を寄せてきた。ドクドクと心臓が鳴った。
「闇から闇。それが世界の真実だわ。あなたは私と同じよ」
そう耳の近くで言われる。
「あなたに興味を持って途中から経歴に目を通して、あなたたちのリーダーにも声を掛けたのだけれど、リーダーさんにはすごく不審がられたわ。でも私は、上級特権の〈オール〉を持っているから、それを示すと彼女は指示に従うしかない」
「その〈オール〉とは一体何なんだ?」
「それは聞かない方がいいわ」
「そうかよ……」
幸川はソファから降りると、玄関へと向かった。
「帰るのか?」
「あら? もう少しいてほしいのかしら」
そう言うと少しいたずらっぽい笑みを幸川は浮かべた。
「なんか今日のおまえはやっぱり少しおかしいな。酔ってるのか?」
「酔ってないわよ。失礼ね」
すねるように幸川は言った。いつもより今日は数段ツンツンしているようだ。
「詩原くん。これで最後になるも知れないから言っておくわ。
上官としては私はあなたを評価していないけれど、クラスメイトとしてはあなたのことを評価しているわ」
そう言うと、幸川は帰っていった。
俺は二階に上がって、部屋に入ると、タンスを開けた。
中からホルスターを取り出すと、それを体に装着した。サプレッサーを取り出してポケットに入れると、次は殺傷性の高い拳銃を選び取り、ホルスターの中にそれを入れた。マガジンポーチを取り出して、太ももに着けると、今度はマガジンを取り出して二つほどポーチに押し込んだ。最後に、持ち運びやすい折り畳みナイフをポケットに入れた。
ーー制服はまずいかと思ったが、まあいいかと諦めた。
ーー今夜終わらそう。俺はそう思っていた。
幸川は明日にはと言っていたが、今日でも変わりないだろう。
一階に降りて、ソファに投げ捨ててある携帯を見た。リーダーから三回ほど電話がかかって来ていた。何事だろう。
俺はリーダーに電話を掛けた。対象を今日排除することも伝えなければならない。
電子音がなると、すぐにリーダーは出た。
「達見ーー」
不穏な気配の声が聞こえてきた。
「修也のやつを見たかーー。今、おまえと同じ場所にいるはずなんだが」
そう小さな、冷たい感情の感じられない声でリーダーはそう聞いてくる。
「いないよーー。どう、したんだ?」
俺は何があったの気になって、耐えきれずそう聞いてしまった。
沈黙があった。
「あの馬鹿やろう……組織を裏切った」




