ユング編 1
レオは現実主義者に育った。今では魔法使いなんて言い方はしない。必ず国際公認魔導師という言い方をして、それを目指すための勉強をしなくてはいけないと思っていた。
専門的な知識はなくて、では魔導師育成の専門学校に通おうかと思ったが、どこのスクールも高額費用がかかり、全く金が足りなかった。
一発で国家試験を通過すると一番安くすむが、それには医者ばりの高い知性と豊富な知識、そしてBランク以上の魔法能力が求められる。
その点、国が指定するスクールの卒業証書を持っている奴らはそれほど頭がよくなくてもいいし、ついでにCランクの魔法能力をお披露目するだけで資格が得られるという。
レオは船で到着した大国ユングは公認魔導師輩出率が最も高い国として知られている。魔法による犯罪も残念ながら必然的に世界一位の件数を出してしまっているが、しかし魔法を学ぶならばユングだとレオは思っていた。
レオは今ユングの首都ヘカテーで、本屋によって買ってきた「公認魔導師の現代的実情」という本をぺらぺらめくりながら、喫茶店でコーヒーをすすっていた。
レオの所持金は田舎でバイトをして稼いだ金とシスターに持たせてもらった金を合わせて32万ギルである。コーヒーと本を合わせて1000ギルだった。
都会で最も安いとされるリンドバーグ魔道士育成ハイスクールでも入学金は50万ギル、年間授業料160万ギルだった。それを三年間、生活費も込みだと軽く800万ギルは必要になる。レオは無理だと即断し、違う道はないかと考えた。
ユングは世界的に見ても魔法が普及していて、実用性のあるEランク魔法は一般市民が日常で使っているほどだ。
煙草に火をつけるのにライターはいらず、ちょっと水分がほしいときに水を出してのどを潤したり、暑いと思ったときに服の中に風を起こして涼んだり、土木建築関係の人間が塗装をするときに土魔法で塗装を簡単に終わらせたりするぐらいは当たり前だった。
レオは自分のふるさとに魔法を使えるような人間は一人もいなかったなと思い苦笑した。魔道士の総数は、その国家がどれくらい豊かで近代的であるかを示す大まかな指標となる。
「公認魔導師の現代的実情」によれば、小国シトラスはノーデータで、ようするにほぼ0人ということだ。かわいそうな国である。
「本当にかわいそうなのは、俺だ」
魔導師がいない弱小国家の社会的最底辺である孤児院の教室の中で、将来の夢は魔法使いになることです、というのはあまりに滑稽だった。何も知らない子供の戯言でしかなかった。
三十年前に出版された古い型の本を貪るようにして読みあさり、当時の記述で魔法学校という魔法を学ぶための学校が他国の都会に多いという浅知恵だけをたよりにここまで来て、一ヶ月前に出版された新品の本を読み、正しくて厳しい現実をはっきり認識させられたのだから、ちょっと残酷だ。