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「――マリー、どうした、なんで泣いてるんだ」
「……ぐすっ……うぅ……」
「どうしたんだ、言ってみろ」
マリーは首を振った。
かけつけたレオは彼女が言いたくない、あるいは口にしたくないほどの心の傷を負ったのだと察して、女子トイレの前でしゃがみ込んで涙をぬぐう彼女の背をなでながら、小声でこう言った。
「ヘイズか、ミシェルか」
マリーは首を振る。
「……エンダ?」
マリーは首を振らず沈黙した。
「わかった」
レオは女社会になれていた。いちいちいじめっ子の女集団のところに行って文句を言いに行くことは彼の使命だった。
多少煙たがられても、気にせず堂々と、「マリーに謝れ」と言いに行くことができた。ふだんは女の子と話そうとしない(話が合わないから)レオだったが、そういうときだけは熱心だった。
レオは自分の髪のことをあまり好きではなかったが、その金髪と言うにはあまりに色素の薄すぎる銀髪のことを女孤児たちは美しいと思っていたおかげで、レオへの報復は考えなかった。
もちろん男はそれを気にくわないと思っていたし、銀色とコントラストするような濃い褐色の健康的な肌にも嫌悪感を持っていた。有色人種は孤児院全体の二パーセント程度だった。
「――やめろぉ!」
「あ、レオンのやつだ、返りうちにしてやれ!」
細くて白くて華奢なロイが胸ぐらを捕まれて泣いているのを見つけたとき、レオは大してけんかが強いわけでもないのにいじめっ子に飛びかかって、徹底的にやり合った。
これには密告者がいて、たいがいあとでシスターたちに取り押さえられて、やめさせられることになるが、血のつながっていないロイのことを自分の弟だとつねづね口にしているレオは自分が正義だと確信したときに限り少しだけけんかが強くなる。
勇気なのか正義感なのかわからないが、得体の知れない力がわいてきて、レオはものすごく元気に暴れ回ることができる少年だった。
「だいじょうぶか、ロイ」
「……うぐっ、ひっく」
線の細いロイの体はところどころ出血していた。泣きすぎたのか怖かったのか横隔膜が痙攣しているらしい。レオもただではすんでいなくて、鼻血が出て、目の上が青くなっていた。
ロイはぼろぼろのくせに、レオのことを心配して、垂れてくるレオの鼻血をぬぐい、青く膨らんでしまったまぶたをいたわるようにして言った。
「ぼくはだいじょうぶ、レオのほうが痛いよ……うっ、っぐ」
「こんなのかすり傷だ」
「……まほう」
「え?」
「まほうがつかえたら、っんぐ……、この傷もなおせるのにね……」
レオはうまく答えられなかった。早く魔法を使えるようにならなければと内心焦っていたが、彼らはまだ10歳で、魔法についてほとんど無知だった。