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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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8話 伍蝶院 苺

「伍蝶院…?」


龍乃心は周りのみんなの様子が一変したのを見て、何がめんどくさそうな予感がした。

みんなが伍蝶院と呼ぶ女の子は、フリルのお洋服に縦ロールの髪というこれでもかという程のお嬢様全開だった。


「お、おいお嬢様、俺達ゃ何もしてねぇぞ! 一体なんの様だ!?」


「別に何もしないわよ! あなた私の事、なんだと思って!?」


「高飛車お嬢様」


「あなた…後で覚えておきなさい…!!」


「はい、すいませんでした」


(こいつは一々余計な事を言わなきゃ気が済まないのだろうか…?)


伍蝶院と呼ばれるお嬢様は元治を睨め付けつつ、龍乃心の前に立った。


「あなた…明空 龍乃心と言ったわね…?」


「うん…そうだけど…?」


龍乃心は内心何を言われるのかとうんざりしていると伍蝶院は、突然龍乃心の手を握った。


「明空様! あぁ明空様! これは神の思し召しとでも言うのかしら!? 運命なのですか!?」


「えぇっと…え、何?」


龍乃心は、伍蝶院のご乱心の様子に、咄嗟に言葉が出なかった。

正直、何を言っているのか全く分からなかった。


「あぁ、わたくしとした事が取り乱してしましましたわ! 申し遅れました、わたくしこのクラスの委員長の伍蝶院(ごちょういん) (いちご)と言いますわ! どうぞ宜しくお願いしますわ!」


「あ…うん、宜しく…」


(よくわからないけど…とりあえず悪い人じゃなさそうだ)


「はぁぁ! 明空様からお返事をしてもらいましたわぁぁぁ!! わたくし感激ですぅぅぅぅ!!」


(悪い人じゃなさそうだけど、やばい人かも…)


「で…結局、何の用?」


「わたくしとした事が、申し訳ございません! 実はわたくし、あなたに運命を感じていましてよ!!」


クラス中が一気に静まりかえってしまった。


「あの…元治、この子はさっきから何を言ってるんだ? 名前が伍蝶院って事以外、さっぱり分からないんだけど」


「安心しろ明空、俺も含めたクラス全員もれなく分からん!」


「由比浜さん? あなた下賤の身で明空様と気安く喋らないでくださる…?」


「げ、下賤て! まさか現実で下賤なんて言われる日が来るなんて思いもしなかったんですけど!」


「明空様は、わ・た・く・しと会話しているの! 会話に入って来ないで欲しいのだけれども?」


「いやー、今明らかに明空から話しかけてきたよね!? 俺、それに対して返事しただけなんですけど!」


「元治…なんか悪い」


「先程の明空様…見ていて痺れましたわ…。どこか欧洋を思わせる端正な顔立ち、そしてしなやかな肢体から繰り出される豪速球…。わたしく、見事に明空様の豪速球と言う名の矢でハァートを撃ち抜かれましたわぁぁぁ♡ あぁぁぁぁ、思い出しただけでわたくし、どうにかなっちゃいそうだわぁぁぁぁ♡」


「あーあー、あれだ、要は伍蝶院は、明空に惚れたっつー事か? だったらまどろっころしい事言ってねぇで、そう言やぁ良いのによ」


「わたくしのこの想いを伝えるのに『惚れた』だなんて、そんな一言で済むとでも思っていて? ()はおだまりなさい!」


「下ってなんだ下って! 蚊みたいに言うんじゃねぇ、この高飛車変態女!」


「こ、このわたくしに、へ…へ…変態ですって!? なんという下劣な男なの!? あぁ忌々しい!」


「いや、明空の話しながら興奮するとか、変態以外の何もんでもないだろ」


「な、な、そんな事は…」


そう言いながら、伍蝶院は龍乃心の顔をチラッと見ると、みるみる顔が赤くなっていった。


「あ、あ、そ…その…明…明空…」


すると伍蝶院は一瞬フリーズしたかと思うと、猛ダッシュで教室を出て行った。


「いやぁぁぁぁぁぁ、明空様あぁぁぁぁ!! そんな澄んだ瞳でわたくしの事を見つめないでぇぇぇぇ!! 身が持ちませんわぁぁぁ!!」


「いや…あの伍蝶院…給食中なんだけど…」


坂本先生は悲しそうな顔をしながら、伍蝶院の後ろ姿を見送った。


「え…俺、あの子の顔見たのそんなにまずかったの…?」


龍乃心は不安になって元治に尋ねた。


「あいつが頭おかしいだけだから、気にすんな。ったく、俺の事下賤だの、下だの言いたい放題言いやがってぇ!」


「高飛車お嬢様も相当な悪口だと思うけどな。顔は可愛いんだけどなぁ…伍蝶院」


「んー苺ちゃん、前はあんな喋り方じゃなかったんだけどねぇ…。去年位から急にお嬢様キャラになって…」


「何その急なキャラ変。去年、伍蝶院に何があったのさ?」


「さぁ…」


給食の時間が終わっても、伍蝶院お嬢様は教室に戻って来なかった。

龍乃心達はドッチボールに興じていた。


「いくぞオラァ! 必殺サンダートルネー…」


「なんだそのクソダサイ必殺技。つーか、んなもん叫びながら投げるとか…」


「うるせーバカ達也、最後まで言わせろや! これ言う言わないで威力が変わんだよ!」


「意味分かんねーよ。…ってなんかすごい視線を感じんだけど」


「視線…?」


龍乃心達が振り向くと、校舎の窓から双眼鏡でこちらを監視しまくっている伍蝶院の姿があった。


「いや、怖ぇな! 完全に変質者じゃねぇか、アイツ! 何考えてんだ!」


「いやー明空もエライ奴に目を付けられたもんだな」


すると伍蝶院の所に坂本先生がやって来て、何やら話している。

伍蝶院は何か頷くと坂本先生と一緒に何処かへ消えてしまった。


「坂もっちゃんと伍蝶院、どこ行ったんだ?」


「あれじゃねぇの? アイツの変態行為を止める様に言ったんじゃないの?」


「成程ね、さすがは坂もっちゃん、教師の鑑だわ」


元治と達也は勝手に納得して、勝手に感心していると、伍蝶院が昇降口から現れて、真っ直ぐ龍乃心達の居る所へ向かっている。


「明空様ぁぁぁ!!」


「何々、怖いんだけど!」


一同唖然としていると、伍蝶院はあっという間に龍乃心達の目の前に現れた。


「明空様ぁ♡ わたくし遠くから見てましたわ! 明空様の手から放たれる美技! はぁ、わたくしどうにかなっておりますしまいそうですわぁ♡」


「伍蝶院…さん…だっけ? 校舎の窓の所に居たんじゃ…?」


「まぁ、明空様ったら、わたくしの事をずっと見てくださったのですね♡ はぁぁ、感激で身が震えましてよ♡」


「いや、だから明空の質問に答えろよ!」


「おだまり! このケダモノ風情が!!」


「俺にだけスゲー辛辣! 俺、お前に何かしましたか!?」


「えーと…さっきの質問だけど、なんでここに居るの?」


「わたくし、遠巻きから明空様の事を御拝見致してましたら、坂本先生が『なんか用があるなら、直接話せば?』と助言くださいまして、満を持して参上した次第でありますわ」


「ダメだ坂もっちゃん、変態の加担者だった!」


「もう先程の様な失態は致しませんわ! 明空様! わたくしと一緒に愛の旋律を奏でましょう♡」


「いや、さっきから何ひとつ言ってる事が意味分からな…」


龍乃心が言い終わりかけた時、クラスの男子が投げたボールが伍蝶院の顔面にクリーンヒットして、そのまま伍蝶院は仰向けで倒れてしまった。


「おい…高飛車変態お嬢様、白目向いて倒れちまったぞ…」


一同、立ち尽くす以外になす術が無かった。

※次の更新は10月28日(月)の夜頃となります。

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