7話 祭りの後
「明空ぅぅぅぅ!! お前、流石だわ!! 俺はお前を信じてたよ! やっぱ天才だわ、うん!」
元治は龍乃心の所へすっ飛んできて、これでもかという位の褒め言葉を並べて見せた。
「いや、お前いの一番に明空の事、戦力外通告してたろ?」
「バカ野郎、あれは明空を奮い立たせる為に、明空に厳しい言葉をかけただけだよ!」
「うわー、こいつ嘘くせー! とんだペテン師だよ」
「それにあんた何の役にも立ってなかったじゃない?」
「バカ、達也に澄玲、俺が孤軍奮闘してたの見てなかったのか? 窮地にたった明空が覚醒するまで俺は持ち応えようと踏ん張ってたじゃんか!」
「いや、元治君、僕が外野に来てからそんなかからない時間で外野に来ましたよね?」
「言うなよぉぉ! 俺だって頑張ったんだよ! 少しは労りの言葉を投げかけてくれてもいいんじゃないの!?」
「はいはい、元治も頑張って!! お前、流石だわ!! 俺はお前を信じてたよ! やっぱ天才だわ、うん!」
元治は龍乃心の所へすっ飛んできて、これでもかという位の褒め言葉を並べて見せた。
「いや、お前いの一番に明空の事、戦力外通告してたろ?」
「バカ野郎、あれは明空を奮い立たせる為に、明空に厳しい言葉をかけただけだよ!」
「うわー、こいつ嘘くせー! とんだペテン師だよ」
「それにあんた何の役にも立ってなかったじゃない? 結局、全部龍君が一人で勝ったようなもんだし」
「バカ、達也に澄玲、俺が孤軍奮闘してたの見てなかったのか? 窮地にたった明空が覚醒するまで俺は持ち応えようと踏ん張ってたじゃんか!」
「いや、元治君、僕が外野に来てからそんなかからない時間で外野に来ましたよね?」
「言うなよぉぉ! 俺だって頑張ったんだよ! 少しは労りの言葉を投げかけてくれてもいいんじゃないの!?」
「はいはい、元治も頑張ってたのなんてみんな分かってるって。あんたもお疲れ様」
すると龍乃心も若干照れ臭そうにしながら口を開いた。
「いや…元治が多少踏ん張ってくれたおかげで、みんながボールを投げる所を見て覚えられたから…。助かった」
「え、投げる所を見ただけであれだけ投げれるようになったのかよ!?」
「なんか漫画みたいな話しだな…」
すると健太が龍乃心の所にやってきた。
「な、なんだよ、健太! 負けたからって俺達に仕返ししに来たってのかよ!」
「バカタレ、お前と一緒にすんじゃねぇ」
「いや、俺だってそんなことしねぇよ!」
「おい、明空」
「…なんだよ?」
「最後のボール…なんで俺が足元に投げるって分かった?」
「…目線」
「目線?」
「お前って、投げる直前まで、必ず投げる方向を見続けてるだろ?」
「え…?」
健太は予想外の返答に言葉が出なかった。
「その様子だと…自分でも気付いてなかったみたいだな。勝負の中でお前のその癖に気付いたってだけだよ」
「達也、お前気づいてた?」
「いや、気付くわけないだろ、あの投げ合いの中で…」
「僕は気付きましたよ」
「え、春樹マジで!?」
「確かに春樹動体視力はいいからな…」
「でもそれは安全な外野に身を置いて居たから気付けた事。しかも、それを利用するなんて芸当、とてもじゃないけど僕には出来ませんよ…」
「そこはまぁ…みんな分かってるから期待してないけど…」
周りがあぁだこうだ言っていると、健太は少し笑みを浮かべた。
「今回ばかりは俺の完敗だ、明空。…でも、次は絶対に負けねぇからな…」
「…また返り討ちにしてやるよ」
そう言い残して、健太はさっさと教室の方へ戻って行った。
「よーし、俺達もとっとと教室戻って着替えようぜ! 明空、行こうぜ!」
「うん」
こうして波乱含みのドッチボールは幕を閉じた。
「おーい、お前らせめて片付けから戻れー! おーい、聞いてんのかー!? …あれ、ちょっとお前ら無視か! 俺が全部片づけろってか! 先生泣くぞー、泣いちゃうぞー!」
みんなは坂本先生の悲痛な叫びを聞こえぬふりをして、教室に戻ってしまった。
「…おい、いいのか? 先生、すごい泣きそうな声だけど」
「仕方ない…仕方ないんだよ明空、何事にも犠牲は付き物なんだ…」
「いや、何の為の犠牲…?」
教室に戻って来た坂本先生は当然の様に不貞腐れてしまっていたが、給食の時間になる頃にはすっかり元に戻っていた。
片付けを押し付ける生徒も生徒だが、時間が経ってケロッとしている先生も先生である。
「明空って給食とかって初めてだったりする?」
給食を受け取る列に並びながら、元治が明空に話しかけた。
「初めて。まぁ事前にどんなものかは父さんから聞いてたけど…」
「ふーん…。じゃあこの学校に代々伝わる『給食の一戦』って知ってっか?」
「給食の一戦…? なんだそれ?」
「はっはっは、なんだ知らないのか? じゃあ後で俺が親切に教えてやるよ」
「なにー? 元治、また龍君にいらん事吹き込んでるでしょ?」
「おぉーい! 澄玲、てめぇ、ワカメスープちゃんよそえや! ワカメ一枚も入ってねぇじゃん!」
「んな細かい事でぎゃーぎゃーと…小さい男はモテないんだからね」
給食当番の澄玲は、元治のわかめスープの器に、乱暴にワカメを投入した。
「いや、俺が小さいとかじゃねぇだろ! 明らかにお前の配分ミスだからね!」
「はいはい、もう入れたでしょ? 気が済んだらとっとと行く」
給食の献立を全て受け取り終わると、龍乃心と元治は自分達の席に戻った。
どうやら、班ごとに席を並べてくっつける形式に、龍乃心は若干戸惑っている様だ。
やがて、全員が席に着いた後、「いただきます」の掛け声と共に一斉に食べ始めた。
「ロンドンじゃこういうの無かったのか?」
達也は気を使って、龍乃心に話しかけた。
「いや、訳あって俺、あっちでは学校に通えてなくて…。毎日家庭教師が来てて、その人に勉強を教えてもらってたから」
「すげーな、家庭教師って…。ここら辺じゃ家庭教師に教えてもらってた奴なんていないよな? で、家庭教師ってどんな人なんだ?」
「俺に教えてくれた人は…20歳の女の人で、リリーって名前の人だったよ」
「な…なんだと!? イギリスの若い女の人に勉強教えてもらえるとか…羨ましいぃ!」
「元治うるさい。でも確かに気になるなぁ。なんか先生と禁断の恋とか無かったの?」
澄玲も澄玲で、龍乃心とリリーなる女性の関係に興味深々になっていた。
「いや…別に何もないよ」
龍乃心は素っ気なく答えた。
「そうなの? えー、なんか詰まんないー」
「澄玲も、あんま元治の事言えないからな。なんかあって欲しいのかよ?」
「だって、20歳のイギリス人女性と部屋で二人きりなんでしょ? 何もない方がおかしくない?」
「いや、給食の時間にいかがわしい言い方すんな!」
達也に一喝された澄玲はしぶしぶ黙って、給食を食べ続けていた。
「学校に行かないんじゃ、友達も中々出来辛いよな」
「…別に友達が居なくて辛いと思った事は無いし…俺には家族が居たから」
「おいおい、そんな寂しい事言うなよ! …だって、お前の友達はここにいるだろ…?」
そう言いながら、元治は自分の事を指さしながら決め顔をして見せた。
「…あ、うん」
「おい、なんだその間は! アレか、俺が友達じゃ不服ってか!」
「いや、別にそうじゃないけど…友達っていた事無いから、よく分からなくて」
「そ、そっか、それもそうだな! まぁその内分かるんじゃね?」
「確かに今は分からなくても、時間が立てば友達ってこういうもんなんだなぁとか分かってくるかもな」
「…そういうものなのかな?」
「きっとそういうもんだ! よし、給食後の昼休み、一緒にドッチボールしよーぜ!」
「おまえ、またドッチボールすんのかよ! さっき体育でやったばっかだろ?」
「うるせぇ、何回でも面白いもんは面白いんだよ! な、明空、良いだろ!?」
「俺は別に良いよ。元治に負ける気はしないけど…」
龍乃心は表情を崩さずに、無自覚に元治を挑発した。
「い、言ってくれんじゃねーか…! よーし、達也、春樹! 後、健太! みんなでこのバカ野郎をギャフンと言わしてやろうぜ!」
「1対4かよ! お前、どんだけ汚ねぇんだよ!」
「バカ野郎、それくらいしないと俺、勝てないんだよ! っつーか、俺ここ最近何に関しても勝ててないんだよ! 勝ちを味わいたいんだよ!」
「そんな泥塗れの勝ち方で得た勝利なんか味わったって、虚しいだけだぜ?」
「良いんだよ、俺は泥水だろうとなんだろうと幾らでも啜ってやるよ!」
元治が相変わらずバカな事で騒いでいると、龍乃心達の班に、絵に描いた様なお嬢様の雰囲気全開の女の子がやって来た。
「あなたたち、ちょっと宜しくて…?」
「ご、伍蝶院…」
龍乃心以外の一同、めんどくさそうな顔をしていた。
※次の更新は10月21日(月)の夜頃となります。