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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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46話 終幕

神来社を背負った龍乃心は、早速階段に足を踏み下ろした。

階段は急勾配の為、足元に気を付けながら一段一段駆けあがって行った。


「神来社さん、足は大丈夫? 痛くなったら言って」


「あ…うん、大丈夫…ありがとう」

正直、足よりも周りの視線の方がよっぽど痛かったが、何故か神来社は口に出しては言えなかった。

その一方で、龍乃心に背負われている今の状態が、どこか心地良く思っていた。


(明空君の背中…とても大きくて逞しくて…何より暖かい…)


階段を上り終わると、1階とはガラっと変わり、様々な骨董品の様な物が沢山並べられていた。

どれも見た事無いような動物や植物の模様が描かれているが、下に飾っていた絵の様な名前や詳細の説明は一切無く、これが一体何に使われていた物なのか分からなかった。


「これって…花瓶とかかな…」


「いや…花瓶…うーんどうだろう…」


十中八九、花瓶ではないだろうと思われるが、龍乃心があまりにも真顔で言っているので、神来社もなんて答えて良いのか分からなかった。


「一体どんな花生けてたんだろう…」


あくまで花瓶説を押し続ける龍乃心は、目の前にある骨董品にどんな花が合うのかを想像していた。

その様子がおかしく感じた神来社は、思わず笑みを零した。


「昔の人も、今みたいに説明書を残しておいてくれれば良かったのにね」


「…説明書か。その発想は無かったな」


「また何百年とか経ったら、私達の作った物がこうやって展示されたりするのかな?」


「何百年後…か。じゃあ今の内に、夏に元治達と作った釣り竿にも説明書を書いとこうかな」


二人は顔を見合わせると、今の会話のバカバカしさに堪えきれなくなったのか、お互いに噴出してしまった。

その光景を見ていた周りの人達から「爆ぜろ」と思われていたのは、また別の話である。


結局二人はおんぶスタイルを貫き、中の展示物を全て見終わってしまった。

階段を降り、車椅子が置いてある場所に戻ると、龍乃心は神来社の怪我に響かぬよう、最新の注意を払って車椅子に乗せた。


「大丈夫? 足の怪我は痛んだりしてない?」


「うん、大丈夫だよ! ホントにありがとう!」


「よし、じゃあ出るか」


そう言って龍乃心は車椅子を押して外へ出た。長時間薄暗い建物の中にいたせいか、少し目が眩んだ。


「う、眩しい…ん…?」


陽射しを手で遮りながら、徐々に目を開いていくと、そこには何故か鬼の形相をした伍蝶院が立っていた。


「うお、ビックリした! …なんでここに伍蝶院が…って元治に健太も?」


よく見ると伍蝶院の後ろに、何故か疲れ切ってた表情をしている元治と健太の姿もあった。


「み・よ・く・さ・まぁ~~~~!!」


「ご…伍蝶院…なんか怒ってる…?」


伍蝶院のあまりの迫力に、珍しく龍乃心は動揺していた。

それから程なくして、達也と櫻井が到着した。達也は目の前の光景を目の当たりにして、時すでに遅しな事を悟った。


「遅かったか…。っつーか、先に入ったはずの澄玲はどこ行ったんだ?」


周りを見渡しても、澄玲は何処にもいなかった。それもその筈である。

当の澄玲はというと、入り口近くにあるアイス売り場を見つけるや否や、直行してアイスを購入し、呑気に貪っている最中だからだ。


「全く、この私という存在がありながら、神来社さんと仲睦まじく神社デートに現を抜かすだなんて、一体全体どういうおつもりなんですのぉ!!?」


「…神社…でーと??」


残念ながら、伍蝶院の言っている事の9割は理解出来ていなかった龍乃心だったが、どうやら神来社と一緒に神社を回っている事に腹を立てているらしい事は、辛うじて理解出来た。


「そうですわ!! 男と女が二人きりで歩くという事は、つまりデートと言わずしてなんと言うんですの!?」


「んな訳ねぇーだろうが!! じゃあ今朝、坂本先生と秋葉先生一緒に歩いてたけど、あれもデートっつーのか? ちげぇーわバァカ、そんなん不倫になるわぁ!!」


「あんたも落ち着きなさいよ、一体なんの話してんのよ!」


自分の素知らぬ所で、不倫疑惑を吹っ掛けられてしまった坂本武27歳と秋葉千代子34歳(既婚者)。


「あ…あの…」


いよいよ収拾がつかなくなりそうだった時、神来社はか細い声で呟いた。


「ごめんなさい…私のせいで…私がケガしたから…」


「怪我…? あら、そういうえば神来社さん、あなたなんで車椅子なんかに乗ってますの?」


少し冷静になった伍蝶院は、ようやく神来社が車椅子に乗っている事に気付いた。


「私…ここに来る途中で足を怪我しちゃって…正直、みんなに迷惑掛けたくなかったから、入り口で待ってようって思ってたんだけど…」


段々と神来社は涙声になって、目からも涙が頬を伝って流れ始めた。


「でも…明空君は優しいから…私が神社の敷地内を回れる様にって…わざわざ車椅子まで借りてくれて…それから一緒に回ってくれたの…。全部私のせいなの……だから…お願いだから明空君を怒らないであげて…」


とうとう神来社は声をあげて泣き出してしまった。


「そう…でしたの…。私、てっきり明空様が浮気したのかと…」


「浮気も何も付き合ってねーだろうが…」


ボソッと達也が言うや否や、伍蝶院の鋭い眼光が達也を貫いた。


「いや、こいつ怖ぇよ! ガン飛ばして来やがったよ!」


「これ以上伍蝶院さんを刺激しない方が良いわよ…」


櫻井は達也にそうアドバイスをすると、達也は悟った様に黙ってしまった。


「明空様…私…感情に身を任せてつい明空様を疑う様な事…悔やんでも悔やみきれませんわ…!!」


伍蝶院は今にも泣き出しそうな、絶望の表情を浮かべながら、龍乃心に謝罪の言葉を述べた。

一々感情の起伏が激しい女子であった。


「あ…いや、別に俺は気にしてないというか…まぁよく分からないけど、伍蝶院も気にしないで」


そう言って龍乃心は優しく伍蝶院の頭にそっと手を乗せた。

思わぬ龍乃心の行動に、伍蝶院は漫画の如く急激に顔が真っ赤になり、そのまま漫画の如く気絶してしまった。


「え、あれ、伍蝶院? ちょっと大丈夫か?」


龍乃心は慌てて伍蝶院を抱きかかえると、伍蝶院はどことなく幸せそうな顔をして、昇天してしまっていた。


「明空、お前ホント天然女たらし!! しかも、あの伍蝶院を一発で黙らせるなんて、大したもんだな!」


達也は茶化しながら龍乃心の肩を小突いた。


「ちょっと、馬鹿言ってないで大人の人呼んでよ! ホラ、健太君と元治君も!!」


「えっ、俺らもかよ!」


櫻井に促され、達也達はしぶしぶ係員の人を呼びに行った。


「あれー、なんだ龍ちゃん達、結局みんな合流したんじゃん」


そこにアイスを頬張りながら澄玲が呑気にやって来た。


「す…澄玲さん…」


最早櫻井はツッコみを入れる気力も無かった。

龍乃心はこのドタバタの光景を見ながら、神来社に話しかけた。


「なんか…みんな賑やかで良いな…」


龍乃心の、これまた呑気な言葉に神来社はポカーンとしてしまった。


「ふふっ、そんな呑気な事言ってるの、明空君だけだよ」


あまりの可笑しさに、神来社は噴出してしまった。


「…それもそうかも」


龍乃心も珍しく笑った。


「一先ず、伍蝶院が目を覚ましたら…戻ろうか」


こうして龍乃心にとって初めての秋遠足が終わりを迎えようとしていた。

1年以上間が空いてしまい、申し訳ございませんでした。

これから無理ない程度のペースで投稿していきます。

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