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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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45話 香り

達也達が自分達の事でてんやわんやしているなどとは露知らず、龍乃心達はのんびりと神社の中を観光していた。


「あ、そこの大木はね、桃城神社が建てられる前からずっとここにあって、ここに住んで居た人達の事を見守っていてくれてたんだって!」


「この神社が建つ前から…? この神社だって1000年以上前からあるんじゃなかったっけ?」


「すごいよね…1000年よりもっと前からずっと変わらず存在してて…この土地の移り変わりを見続けてきたんだと思うと、浪漫があるっていうか…」


神来社はそこまで喋り続けたのち、ハッと我に返った様に顔を赤らめた。


「ご、ごめんね、私、一人でずっと喋っちゃって…」


「あ、いや、別に謝る事じゃ…」


「じ、神社もそうなんだけど、歴史が好きで…その事になると、夢中で喋っちゃうから…」


「そうか。まぁ好きな事を夢中で喋れるっていうのは…その…俺は良いと思うよ」


「あ…うん、その、ありがとう…」


趣味らしい趣味を持たない龍乃心にとって、好きな事を一生懸命、嬉しそうに話す神来社は、少し羨ましくもあり、同時に尊敬すべき人に見えた。

そして無意識ではあったが、神来社が少しづつ心を開いてくれた事に、少なからず嬉しく思っていた。


龍乃心達はまた少し歩いて行くと、とうとう神社の目の前に辿り着いた。


「これが本命の桃城神社か…。目の前で見るとやっぱりデカいなぁ…」


恐らく一般的な神社の大きさと比較しても、かなり大きい部類に入るだろう。


「うん、何度来てもそう思う! なんか緊張しちゃうよね」


「これ…車椅子で入って良いのかな?」


龍乃心が若干の挙動不審気味でキョロキョロと周りを見渡していると、先程車椅子を貸してくれたおじさんが再登場した。


「おぉ、君達はさっきの! どうだ神社は楽しんでるか?」


「ええと、あ、はい。えーと、あの、この神社って車椅子で…」


「あーはいはい、勿論大丈夫だよ! そこにスロープになっている所があるから、そこを渡って行きなさい」


「あ、はい、ありがとうございます…」


ぎこちないながらも受け答えをすると、どうにかスロープを使って神社の中に入る事が出来た。


「こっからは…そのまま入っちゃっていいのか…」


車椅子の前輪を軽く上げて、段差を乗り越えると、龍乃心は履いていた靴を脱いで下駄箱に入れた。


「神来社さんも靴貸して。車椅子だから多分脱がなくてもいいかもだけど…」


「あ、ありがとう…」


神来社は慌てて靴を脱いで渡すと、龍乃心はそれを受け取って下駄箱に入れた。


「えっと…こっちから進むのか…?」


「あ、あの、明空君、そっちはお手洗い…」


「あぁ、しまった…」


初っ端から迷走しかけるも、神来社のフォローでなんとか正しい方向に戻った。

どうやら龍乃心は方向感覚があまり強くない様だった。


少し進んでいくと、いきなり巨大な像が出現し、龍乃心達を出迎えた。

その表情は金剛力士像を思わせる様な迫力を持っていた。


「なんか…うちのひい爺さんみたいな顔してるな…」


「明空君の…ふふ、確かに少し似てるね」


「あれ、うちのひい爺さんの事知ってるの?」


「辰お爺ちゃんでしょ? 私は少し怖くて直接喋った事無いけど…緑居村じゃ有名人だよ」


「そうなんだ…。でもなんで俺のひい爺さんって…」


「明空君、お祭りの時、寒河江君と競争してたでしょ? あの時私も居たからその時に…」


「あぁ、あの時か…。やっぱり目立っちゃってたんだな…。そっか神来社さんも祭に居たのか」


「あのお祭りは村の一大イベントだもん。私も毎年楽しみなんだ♪」


「うん…確かに良い祭りだったな。まぁ健太の奴に負けたのが癪だったけど…」


「ふふふ、明空君意外と負けず嫌いなんだね」


「あー…いや、うん…なんだろう、競争とになるとつい…」


龍乃心は照れ臭そうにしながら言い訳した。


「でも…私…明空君が羨ましいな…」


「…俺が?」


「この村に来たばかりなのに、すぐに打ち解けてみんなと仲良く出来てるからすごいなぁって…。私、人と話すのがずっと恥ずかしくて、仲の良い友達も利美ちゃん位しか居ないから…」


「利美…あぁ、櫻井さんの事か」


どうやら神来社には、櫻井以外に友達と呼べる様な親しい間柄のクラスメートは居ないらしかった。

仮に今回の遠足で、櫻井が同じ班ではなかったら悲惨な事になっていたであろう。


「俺だって最初は全然喋れなかったよ。今はだいぶマシになってきたけど…」


「明空君が…?」


「ロンドンのずっと郊外に居た時は家族が居たし、正直友達を必要だと思った事も無かった。その…ひい爺さんに言わせれば『殻に閉じこもった』感じだったのかな」


「そう…だったんだ…」


神来社は意外そうな感じで明空の横顔を見ていた。


「でもこの村に来た時、最初に元治、達也、澄玲、春樹に会って少しずつ変わっていったって言うか…。特に元治は遠慮なく、ズカズカと俺の領域に入ってきて。最初は鬱陶しく思ってて…いや、いまでもたまに鬱陶しい時はあるんだけど…」


「確かに…元治はいつも元気いっぱいで積極的にみんなに話しかけてるもんね」


「でも…今考えれば、アイツが俺が閉じこもっていた殻を強引にぶち破ってくれたおかげで、俺はこうやって友達と呼べる存在が増えていったっていうか…」


「…そっか、じゃあ元治君のおかげなんだね」


「…まぁ…うん…すぐ調子乗るからあいつには言いたくないけど…」




「ぶえぇぇぇぇぇっくしゅっ!!!」


「ちょっと、あなた!!!」


「うわ、きったねぇなてめぇ! クシャミする時は口を手で塞げよ!」


伍蝶院と健太は汚いものを見る目で、鼻水をズビズビしている元治を睨んでいた。


「はいはい、すみませんねぇ~! 言っとくけど、その目は俺にゃあもう通じねぇから。鋼のメンタル手に入れてますから」


「まぁ~なんて忌々しい男なんでしょう!! 明空様の爪を煎じて飲ませてやりたい位ですわぁ!!」


「つーか、明空達はどこ行ったんだよ。ってよく見りゃ達也達も見当たらないじゃん」


「あいつ等なら、さっき神社の中に入って行ったぜ」


「え、神社の中に? 何で黙って…?」


「んなもん、俺が知るかよ。大体あいつ等の目的地はここってんなら、別に神社の中に入ろうが不思議じゃねぇだろ」


「まぁそれもそうだな…。あれ、じゃあ俺達なんでこんな所で待ってんだ?」


「てめぇの頭には脳みそが詰まってねぇのか? 伍蝶院が、明空が中から出てくるまで待つって聞かねぇからだろうが」


「あー、そうだったわ! おーい、伍蝶院、もういいんじゃねぇか? どうせ帰りの集合場所で会うんだから、先に帰って…って伍蝶院が居ねぇ…あれ、アイツ券売機の前で何してんだ? あ、中入っていったぞ?」


「いや、どう見ても明空達を追って、また勝手に中入りやがったんだろうが!! ったくどういつもこいつも好き勝手しやがってぇ!!」



どうやら健太にとって、今日は厄日の様である…。



こちらは戻って龍乃心達が居る桃城神社…。


しばらくまた会話が途切れて、ゆっくりと神社の中を見て回って行った。

今度は、壁一面に大昔に描かれたであろう日本画が飾られていた。防犯と劣化防止の為と思われるガラスに覆われていたが、小学生がそこからなんとなく歴史を感じ取るには十分であった。

そこには雷神と風神を思わせる様な大男二人が争う様な絵も飾られていた。


「なんだろう…これだけ他の絵と雰囲気が違う様な…」


確かに他の絵が一般的な日本画の様な画風で描かれているのに対して、その絵だけは何故か中世ヨーロッパの時代に描かれた様な画風であった。


「うん…私も同じ様に思う。これだけ描かれた時代が違うのかな…?」


絵の下に記された詳細説明を見ても、「年代不明」とだけ記載されていた。

他の絵は年代含めて、事細かに記されているので殊更目立った。


「これだけ、外国の偉い人から送られたものなのかな…」


「あー…画風も日本っぽく無いし、そうかもなぁ…」


とりあえず龍乃心は神来社の意見を支持する事にした。いや、実際そう考えるのが一番自然なのかもしれない。

それきり二人は例の絵について考えるのは止めて、先に進んでいった。


暫く車椅子を押して歩いて行くと、2階へ上がる階段と、庭園が一望できる縁側へ出る道の二手に分かれていた。すると係員の女性が龍乃心の所へやって来た。


「大変申し訳ございません。現在2階に上がる為の階段がバリアフリーに対応出来ておらず、車椅子で2階には上がれない状態となっております」


係員の女性は非常に申し訳なさそうにしていた。

聞く所によると、バリアフリーもカバー出来ていた元々使用していた階段が現在点検中で使用出来ないらしく、バリアフリー未対応の階段しか2階に上がる手立てが無いらしい。


「そっかぁ…じゃあ仕方ないね。せめて明空君だけも2階に行ってみてもらえたら…。私は庭園が見える所で待ってるから」


神来社は若干残念そうにしながらも、龍乃心に2階に上がる様促した。

すると龍乃心はしばし考えこむと、神来社に背を向け、しゃがみ込んだ。


「…あ、あの、明空君…?」


神来社は困惑していると、龍乃心はじっと神来社を見て呟いた。


「おんぶして行くから、神来社さん背中に乗って」


龍乃心の真面目から発せられたとんでもない発言に神来社は顔を真っ赤にした。


「え、その、あ、え、明空君!? 突然何言って…?」


「いや、車椅子じゃ上行けないなら、俺が背負って行けばいいだけだろ? 絶対落としたりしないから大丈夫だよ」


神来社は心の中で「いや、そういう問題じゃないから!」と絶叫していたが、龍乃心の曇りなき真剣な目を見ると、何故か言われるがままに龍乃心に背負われる他無かった。


(私…何やってるんだろう…こんなみんなが見ている所で男の子におんぶされて…)


「よし、じゃあ今から上がってくからしっかり掴まっててね」


「あ、う、うん」


「あ、後、車椅子はどこに…」


「車椅子でしたらこちらでお預かりいたします。こちらの車椅子、入り口近くで貸し出されている物ですよね?」


「はい、お願いします」


こうして神来社を背負った龍乃心は、神来社への振動が最小限になる様に、慎重に階段を上がって行った。


この光景を係員の女性を含め、神社への観光客が優しい眼差しで見守っていたのは、また別の話…。

※次の更新は3月15日(月)の夜頃となります。

→大変お待たせしました。7月中の投稿再開を予定しております。

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