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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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44話 達也の憂鬱

車椅子を押しながら、龍乃心達は敷地内を巡っていた。


「明空君、なんだかキョロキョロしてるね。神社って初めて?」


「あ…うん、ずっと前に父さんに連れられて来た事はあるみたいなんだけど…」


龍乃心の父から、小さい頃にとある神社に連れられて来た事があるという事は聞いていたが、無論覚えてなどおらず、龍乃心は興味津々で回りを見渡していた。


「神来社さんは神社って来た事ある?」


「あ、うん、あるよ! 私、神社って好きなんだ! 実はこの神社にも前に来た事があって…」


急に神来社は今まで聞いた中で、一番大きな声で喋り出した。


「何て言うんだろう…神社に来ると神聖な気分になるって言うのかな? どこかで神様が見てくれてる様な気がするの。勿論神様に会った事なんて一度も無いけど…なんだか元気になるの。あ、勿論古い建物も見てて面白いの♪ ずっとずっと昔からその土地を見守っててくれたんだなって思うと…」


凄い勢いで喋ったかと思うと、急に我に返った神来社は、顔を赤らめて黙ってしまった。


「…神社、好きなんだね」


「あ、あの…うん、はい…」


「じゃあ…神来社さんに神社の中を案内して貰った方が良いかな。俺、イマイチどこから回って良いのか分かんないから…」


実際、龍乃心は先程から回りをキョロキョロするだけで、どこに行って良いかよく分からず、困っていた。


「え、あ、その…私の案内で良ければ…じゃあ…」


そのまま龍乃心は、神来社の指示に従ってゆっくりと車椅子を進めて行った。

敷地内にある建物や鳥居の近くに行っては、知っている知識を神来社が披露し、龍乃心は興味深そうに聞いていた。


「おほほほ…見てあの二人…車椅子デートかしら? 可愛らしい事」


「ホントだわ、楽しそうな顔をして喋ってるわね~。私達にもあんな時代があったのかしら…」


お年を召した婦人方にそんなヒソヒソ話をされている事は露知らず、それなりに二人は神社の見学を楽しんでいた。





場面は変わってこちらは、篤が運び込まれた病院の一室。


「…あれ、ここは…?」


篤はゆっくりと目を開けると、病室の天井が目に飛び込んできた。


「お、篤目が覚めたか?」


声がする方に目を向けると、何故かそこには坂本先生が丸椅子に座ってこちらを見ていた。


(あれ…確か博物館の中に居たはずじゃ…?)


どうやら博物館で体調を崩す前後の記憶があまりはっきりしない様子だった。

但し、ぼんやりとした頭が徐々に起動し始めて、少しずつ今の状況を理解し始めた。


「ごめんなさい…僕また…」


篤は俯きながら坂本先生に謝罪の言葉を呟いた。すると、坂本先生は「やれやれ」といった様子で篤の頭をガシっと掴んだ。


「なーにしょうもない事で謝ってんだ! 先生の事は気にするな。生徒が危ない目にあったら助けてやるのが俺の仕事だ。篤は黙って元気になる事だけ考えてれば良いから」


「はい…」


それから坂本先生は、篤の意識が戻った事を病院の先生、及び篤の親に知らせる等していた。

病院の先生曰く、特に問題はないとの事だったが、念の為1日だけこの病院で入院する事になった。


「先生」


「ん?」


「僕…あまり覚えていないんですけど、ここまで僕を連れて来てくれたのって…」


「あぁ、明空か? あいつなら朝倉達と合流して、元のルートに戻ったぞ」


「そうですか、なら良かった…」


篤はほっと一息ついた。どうやら自分の事で、同じ班である明空達に迷惑をかけてしまった事を気に病んでいたらしかった。


「明空、すごかったぞ。お前を背負って猛ダッシュで、先生のいた中継地点まで突っ走って来たから。一瞬、猪かなんかかと思ったよ!」


「そうなんだ…。明空君にも次学校で会ったら、謝らなきゃ…」


「だから謝らなくて良いって言ってるだろ? 多分、明空はお前に謝られてもどうせ困るだろうし、伝えるんだったら、感謝の言葉だな!」


「感謝の言葉…そうですね!」


ようやく篤の顔から笑顔がこぼれた。少しして坂本先生は生徒の監督に戻るべく、篤の居る病室を出る事にした。


「じゃあ、篤! まぁ今回の遠足は残念だったけど、気持ちを切り替えて体を休めろよ! また学校で会えるの楽しみにしてるからな!」


「はい。今回は本当にありがとうございました!」


「へへへ、その意気だ! それじゃあ!」


「あ、先生!」


「ん? どうした? あ、まさか土壇場になって先生が居なくなる事が寂しくなったか? ははは、駄目だぞ、先生だって篤だけの面倒を見る訳には…」


「あ、いえ、カバンと上着とお茶のペットボトル、忘れてます」


「あ…はい、すみません…」


最後の最後で、どうにも締まらない雰囲気になってしまった。





再び場面は戻って、こちらは龍乃心達が居る桃城神社…の近くにある『橘ヶ原(たちばながはら)神社』。

そこには澄玲と春樹がいる班が見学を終え、神社の敷地内から出て来た所であった。


「はぁ~やっと終わったぁ。なんていうか、神社って退屈」


澄玲は開口一番、かなり罰当たりな発言を漏らした。


「そうでしたか? 僕個人としてはかなり満足しましたよ」


対照的に春樹は、非常に満足そうな顔をしていた。


「まぁー春樹はああいう歴史系のものって昔から好きだもんねぇ。春樹のお父さんそっくりっていうか…」


「そうですね、確かに父親の書斎で本を読んでいたので、影響を受けるというのは否定できませんね」


「あーあの部屋ねぇ。難しい本ばっかりで私よく分かんなかったなぁー」


「澄玲さんの場合は、本が難しいかどうかはあまり関係無いんでは…」


「なーに、私を本嫌いの馬鹿だった言いたいの?」


「いえ何も…。それはそうとあそこで元治君達は一体何をしてるんですか?」


「元治? …あれ、本当だ。よく見れば達也達もいるじゃん。みんな集まって何してんだろうね」


春樹と澄玲達は不思議に思いながら、元治達の元へ歩いて行った。


「おーい、元治! 達也ぁ! あんた達こんな所で何してんのー!?」


その声を聞いた達也と櫻井は、物凄い形相で澄玲達の所へやって来た。


「何々、そんな深刻そうな顔して、利美まで…」


「いやいや、深刻な顔する事態が起きてんだよ!」


「そ、そうなの? あれ、そう言えばあんた達なんで二人だけ? 篤と龍ちゃんと…そう、杏も居なかったっけ?」


「えっと、全部説明するからちょっと待て!」


そこで元治達(特に伍蝶院)に悟られぬ様に、篤の容体の事、龍乃心と神来社が物凄く面倒な事になっている事を説明した。


「あらーそんな事になってるのー。龍ちゃんもモテモテなのねー」


澄玲はニヤニヤしながら言った。意外とこういう色恋沙汰には興味がある様だった。


「笑い事じゃねぇーって…こんなん伍蝶院に気付かれたら、どうなるか分かったもんじゃねぇよ!」


「はいはい、要はあの二人と苺ちゃんを鉢合わせにさせなきゃいいんでしょ?」


「ホントに分かってんのかよ…」


達也はイマイチ澄玲を信用しきれないでいた。


「篤君の事も心配ですね…」


「うーん…ここんところ体調崩す事が増えてるしなぁ…。まぁ明空の話だと、とりあえずは大丈夫だって言ってたし、信じるしかないだろ」


「そう…ですね」


春樹は普段あまり見せない様な曇った表情を見せた。やはり篤の事が気に掛かるのだろう。


「春樹、心配し過ぎだって。大丈夫だって言われたんだから、私達はいつも通りにしてて、篤が帰って来たらまた温かく迎え入れれば良いの」


「…えーっと…すっごい良い事言ってる所悪いんだけど、お前何買ってんの…?」


澄玲はもの凄く事前な感じで拝観料を支払い、神社への入場券を買っていた。


「何って、この神社の入場券。大丈夫、私が全部説明しといてあげるから♪ じゃあ行ってくる」


そう言って、澄玲は神社の中に入って行ってしまった。


「ふっざけんなアイツ、一体何するつもりだぁ!! 元治に喋った方がマシだったわ!!」


「おーい、俺の事呼んだかぁ?」


「うっせぇわ、おめぇの事なんか呼んでねぇわ、ボケぇ!!」


「人の名前呼んどいて、その言い方はひでぇだろう!! 俺なんか悪い事しましたか!?」


達也と元治がわちゃわちゃ話している内に、澄玲は神社の中に入って行ってしまった。


「あぁ、あの馬鹿もう中に入りやがった! 仕方ねぇ、俺達も行くぞ!!」


「えぇ、私も!?」


「そうだよ! 元々神社の見学は予定にあったんだし! 春樹、悪いけど元治達の食い止め頼む!」


「え、あ、はい…」


こうして達也達も急いて入場券を購入し、神社の敷地内に入って行った。

果たして、達也達はクラスの学級崩壊を防ぐ事は出来るのだろうか…。

※次の更新は3月08日(月)の夜頃となります。

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