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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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43話 優しさと恥じらいと嘘

「ここでみんな立ち止まっても仕方ねーか。早く入ろうぜ」


達也は率先して神社の中に入ろうとすると、神社の係員らしきお姉さんに止められてしまった。


「申し訳ございません。中に入るには入り口左手の券売機で、拝観料をお買い頂く必要がありますので、まずはそちらで…」


そう言われて、達也はトボトボと龍乃心達の元へ戻ってきた。


「…だってさ」


「当たり前じゃないの! 昨日、坂本先生から説明受けたでしょ! なんなら今朝も先生からは拝観料も受け取ってるし!」


「んだよ、先言えよー。恥かいたじゃんかよー」


「完っ全にあんたが悪いんでしょーが!!」


また始まったという感じで龍乃心と神来社は、達也と櫻井を苦笑いしながら見ていた。

すると神社の出口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「はー…なんだって神社なんか行かなきゃ行けねぇんだよ…全然面白くもねぇ」


「俺はそれなりに面白かったけどな」


「マジかよ、健太おっさん趣味かよ。俺は退屈で仕方なかったけどなー」


「はっ、神社の歴史や素晴らしさを理解する脳みそが無かっただけじゃねぇのか?」


「おーおー、健太くーん、それは悪口ですかー?」


「止めてくださいな、二人共公然の前で…。神社が理解出来る出来ないなんて私にはどうでもいい事ですわ。何よりも明空様にここでお会い出来ない事が辛くて辛くて…」


「お前、ほんっとそればっかだな! 或る意味神社よりもお前の事の方が理解出来ねぇよ!」


「何か言いまして…?」


なんと元治達のチームが丁度神社から出てきた所だった。


「やっべぇ、おい明空、お前ら先に入場券を買って、中に入ってろ!!」


「えっえっ、なんで急に…」


龍乃心は聞く間もなく、達也が買ってきた二枚の入場券を渡されると、入り口に行く様に促されてた。幸い、入り口と出口は少し離れていた為、こちらの事は元治達にはまだ気付かれていない。


「さっきも言ったけど、お前ら伍蝶院にその姿を見られたら、また面倒な事になり兼ねないからな! とっとと行け!」


「…? なんで俺が神来社さんを伍蝶院さんに背負ってる姿を見られたら、面倒な事になるんだ…?」


「あーもう、今更そこら辺の説明をお前にして分からせる時間はもう無いから、とっとと先に行け!」


「…わ、分かった」


「杏も良い? しっかりと明空君に掴まってるのよ?」


「え…あ…うん」


龍乃心と神来社は、よく事情を呑み込めぬまま、神社の入り口の方へぶち込まれていった。

その僅か数秒後に、元治達は達也と櫻井の存在に気付いた。正に間一髪の所だった。


「あ、達也達じゃねーか!! なんだお前ら今から神社入るのか?」


「あ、うん、そうそう!! いやー奇遇だなぁ!」


「という事は…明空様もいらっしゃいますの!!? …あら、その明空様は何処へ…?」


「あ、あぁ明空は先に行ったぜ! いやー、あいつ神社楽しみ過ぎて我慢できなかったらしくてさー! 全く、しょうがない奴だよなー!」


「明空が? そんなテンション高くなる位神社好きだったっけ…?」


「そ、そうなんだよ! あいつも渋い趣味持ってるよなー!」


達也はかなりボロボロの演技でなんと誤魔化そうとした。


「という事は…中に明空様がいらっしゃいますのね!!? では私、もう一度神社の中に入って明空様をさが…観光致しますわ!!」


「いやいやいや、何言ってんだ伍蝶院! 明空なら、結構先に行っちまってるし、今から行っても間に合わないから!」


達也は滅茶苦茶焦りながら、再度神社への入場を試みようとする伍蝶院を必死に止めた。


「おい伍蝶院、そもそも入館料は1回分しか先生から貰ってねぇから、入れねぇだろうが」


「おほほほほ、御心配なく! 私こんな事もあろうかと、ご両親から1万頂いておりますの!」


「オイコラ、伍蝶院、何さり気なく遠足のルール破ってやがんだ。先生の許可無く大金持って持って来て言い訳ねぇだろ」


健太は至極当然の言葉を伍蝶院に向けた。


「全く図体がでかい癖に変に真面目なんですから! 良いですわ、じゃあここで待つ分には文句ありませんでしょ?」


「はぁ…好きにしろ」


健太は呆れながら、近くのベンチに座り込んだ。


「いやいや、こんな所で待ってねえで先に戻ってろって! 明空、多分全然戻って来ねぇから! 多分、めっちゃ楽しんでるから!」


「おほほほほ、御心配ご無用ですわ! 私、明空様の為なら何十分でも何時間でもお待ち致しますわ♡」


達也は必死に説得するも、もはや聞く耳を持たなかった。


「そうだなー、折角だから明空達と合流して行こうぜ!」


「うっせぇクソ元治、てめぇまで余計な事言うんじゃねぇぞコラ!! てめぇ等先に帰ってろや!!」


「なんでだよ、そんな急にボロクソに言う事ねぇだろうが! 俺、泣くぞ!?」


暫くすると、元治は辺りをキョロキョロしながら達也に尋ねた。


「そういや、お前らの班ってあっちゃん居なかったっけ? あいつも先に神社は入ったの?」


「あー…あっちゃんなら今病院。途中で立ち寄った博物館で体調悪くしちゃってさ。明空があっちゃん背負って坂本先生の所まで知らせに行ったから、まぁ何とかなったけどな」


「そ、そっか、なら良いけど…。でも最近体調を崩すペース早くねぇか…?」


「うーん…まぁ確かにそうかもな…」


確かに篤は元々体が弱く、ちょくちょく体調を崩しており、入院する事も珍しく無かった。しかし、一度回復すると、少なくとも1ヶ月は問題なく学校に登校は出来ていた。しかし、今年に入ってからは体調が良くなっても、すぐにまた悪くなる事が多くなっていた。


「あら…そういえば明空様の班には、神来社さんも居らしてましたわよね? 先程から姿が見えませんが…」


「あ、あ、いや、神来社はその…」


達也はまたしてもしどろもどろになり始めた。


「ま・さ・か! 明空様とご一緒に神社の中に入られているのではなくて…?」


急に伍蝶院は物凄い形相で達也を睨み付けながら、詰め寄った。


「あ、杏ならトイレに行きたいって言ったから、神社の中のトイレに行ってるわ!」


櫻井は咄嗟の嘘で誤魔化した。


「あら、そうでしたの…? なら良いですけど…」


「?? 別に明空と神来社が一緒でも良いだろ? なんでそんなに怒ってんだ?」


元治は空気を読まずに、無神経に疑問を伍蝶院に投げかけた。


「なぁぁぁにを呑気な事を言ってますの、このお馬鹿は!! 班での行動ならまだしも、ふ・た・り・き・り!なのですよ!!? もしそんなシチュエーションになってみなさい! 明空様から溢れ出る魅力に魅了されたら、どんな女性も虜になってしまいますわ!!」


達也はそっと櫻井の所へ駆け寄った。


(おいやべーぞ、もしも明空が女の子と一緒にいたらってだけで、この有様だ。明空が神来社を背負ってたなんて知ろうもんなら、事件が起こんぞ?)


(ちょっと、そんな怖い事言わないでよ! 大体、明空君と杏のあれは不可抗力でしょ?)


(それはそうなんだけど…伍蝶院が納得するか…?)


(それは…)


「なーにお二人共こそこそと話してるんですの?」


「い、いやいや、何でも無い! あっちゃん、心配だなぁーって! なぁ櫻井!」


「え、えぇそうね、法華経君、早く良くなると良いなぁー!」


「…おかしな人達ですわね…」


(てんめぇにだけは言われたかねぇんだよ、このお花畑女ぁ~…!!)


その頃、神社の中に無理やり押し込められた龍乃心は、神来社を背負ったまま歩いていた。


「…? なんかみんなこっちを見ている様な…」


龍乃心は、周囲の人達がこちらを見ている状況を不思議そうにしていた。


「み、明空君、私もう大丈夫だから、降ろして…」


神来社は赤面しながら、消え入りそうな声で龍乃心に訴えた。


「え、でも神来社さん足が…」


「も、もう大丈夫! 一人で歩けるから…」


「…そう? じゃあ降ろすけど…足気を付けてね」


そう言うと、龍乃心はゆっくりとしゃがみ込み、神来社の足が地面に届いた。


「ごめんね明空君…ありがとう」


そういって神来社はそーっと足を地面に付け、一人で立とうとしたが、その瞬間神来社の足に激痛が走った。


「…っっん!!」


神来社は声にならない声を上げて、顔を歪めてその場にへたり込んでしまった。


「だ、大丈夫…?」


龍乃心は神来社に聞いたが、その表情を見るに、全く大丈夫ではなさそうな事は明白であった。

但し、神来社を背負って歩く事が周囲の視線を引き付けている事、それを神来社がもの凄く恥ずかしがっている事は、龍乃心もようやく気付いてきたので、一旦神来社を近くにあったベンチに座らせる事にした。


「まだ足がだいぶ痛む…?」


「うん…ごめんね、迷惑ばっかり掛けて…」


「あ、いや、別に迷惑なんかじゃ…」


「み、明空君一人でも見ておいでよ! 私はここで待ってるから…」


「いや、流石にここに神来社さん一人で置いては…」


龍乃心は弱っている人を一人置いて離れるなんて事は最初から考えられなかった。


(だけど、神来社さんを背負って歩き回ったら、多分また(何故か)注目を集めちゃうし…)


龍乃心が頭を悩ませていると、神社内の職員らしきおじさんが声を掛けてきた。


「おや、お嬢ちゃん足を怪我してるのかい? 随分と痛そうな顔をしているねぇ」


「あ…はい、そ、その、途中で足を挫いてしまって…」


龍乃心も最近は緑居村の人達とも、だいぶ打ち解けられてきてはいたが、知らない人と喋るのはまだまだ苦手であった。


「立つのも難しいのかい?」


「え、あ、は、はい、とても…あの…足が痛んでしまって…」


「成程、その足じゃ神社の敷地内を自由に回れないから、困ったね。ふーむ…よし、ちょっと待ってなさい」


そう言っておじさんは、近くの案内所の中に入って行ってしまった。

少しして、車椅子を押しながらおじさんはやって来た。


「ほら、この車椅子を使いなさい。ここの敷地内だったら自由に使っても大丈夫だよ」


「え、でもこれ…」


「ははは、車椅子ならまだまだ沢山あるから遠慮しなくても大丈夫だよ! 帰る時はまた私に声を掛けなさい。ちなみに先生はどこかにいるのかな? 君達社会科見学か何かで来たんだろ? それともデートかな?」


「で、で、で、で、デートなんかじゃないでしゅっ!」


神来社は顔を真っ赤にして、噛みながら全力否定した。


「あ…えっと、先生は今病院で…」


「おや、今は近くには居ないのかい? じゃあ帰る時どうするんだい?」


「帰りは…また自分が背負ってくんで大丈夫です」


「はっはっは、背負ってくと来たか! 随分と頼もしい子だな!」


おじさんは悪気の無い大笑いをしていたが、何故だか龍乃心は少しイラっとした。


「まぁ帰りに関してはおじさんも協力してあげるから、どちらにせよ帰りはここに車椅子を返しがてら寄りなさい! じゃあ楽しんできなよ!」


「あ…はい、ありがとうございます」


渡された車椅子に神来社を乗せると、龍乃心はゆっくりと車椅子を押した。

少し古い型のものだったので、見た目よりも重く感じられたが、龍乃心には何の問題も無かった。


「乗り心地は大丈夫? 足に響かない?」


「あ、う、うん、大丈夫だよ!」


周りから注目される心配がなくなったのか、神来社は先程よりはだいぶ落ち着いている様だった。


「そっか、じゃあ行こうか」


龍乃心はそう言うと、車椅子を押しながら真っすぐに神社の鳥居を目指して歩き出した。

※次の更新は3月01日(月)の夜頃となります。

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