42話 畢竟
龍乃心が元の中継地点に戻ると、何故かクタクタになっていた達也達がベンチに座っていた。
「あれ…みんな早かったね」
「おー明空、その台詞が口から出るって事は自分の走る速度が普通じゃねぇって事に気付いてたって事か」
「俺は篤君を早く病院に連れて行かなきゃいけなかったから…。みんなはゆっくりで良かったのに」
「いや、まぁそうなんだけど…なんかつられちゃって…」
「俺のせいみたいに言うんじゃないよ」
すると足首を押さえ、今にも泣きそうな顔をしているから神来社の姿が龍乃心の目に飛び込んできた。
「神来社さんどうしたの…?」
「あ…うん、ちょっと足を挫いちゃって…」
どうやら達也達と走ってこの中継所に向かう途中で足を挫いてしまった様だ。挫いた足が痛々しく赤みがかっていた。
「ごめんね、私また足ひっぱっちゃって…」
今にも泣きそうな顔で、今にも消え入りそうなか細い声で呟いた。
「別に杏が謝る事ないよ。私達こそ変に急いで杏を焦らせちゃったから…」
「そうそう、気にする事ないからさ。元はと言えばバカみたいなスピードで突っ走ってった明空が悪ぃんだからさ」
「なんで俺…」
すると達也が龍乃心の耳元でそっと囁いた。
「良いからここは話合わせとけって。神来社ってああいう性格だから、こうでもしねぇと塞ぎ込んじゃうんだよ。だからここは明空に責任の流れを押し付けて…」
「いや、だったら達也達が走った事に責任を…」
「それは…ちょっとなんかやだ」
「なんだそれ…」
龍乃心は達也の謎理論に呆れつつも神来社の元へ歩み寄った。
「明空君…ごめんね、迷惑かけて…」
「あ…いや別に…櫻井さんも言ってたけど、神来社さんのせいじゃないから」
「でもどうしよう…杏の足を変に動かせないし、坂本先生は病院に行っちゃってるし…」
龍乃心は仕方ないといった感じで神来社に背を向けた状態で屈んだ。
「み…明空君…?」
神来社含め、3人は龍乃心のしている事がよく理解出来なかった。
「乗って。俺が神来社さん背負ってく」
「えっ…えっ? み、明空君何言ってるの!?」
龍乃心から発せられた予期せぬ言葉に、神来社は当然の様に大混乱しだした。
「お、おい明空…? 急に何言い出してんだよ?」
「何って…神来社さん足ケガして歩けないんだろ? だから俺が背負っていく」
「いやいや、神社までどんだけ距離あると…思って…」
達也は途中まで言いかけたが、龍乃心なら神来社を背負って数キロ歩くなんて訳ない事に気付いた。
「あぁ…そうだね、行けそうだね…。じゃあそうするか」
「ちょ、ちょっと朝倉、本気で言ってるの!?」
「あ、うん、明空なら余裕っしょ? つーかよく考えたらあっちゃん抱えて爆走してたの忘れてたわ」
「それは…まぁ…私も見てたけど…」
一見すると突拍子も無い発言であっても、龍乃心が発すると実現が容易であると思ってしまうのが恐ろしい所である。
「じゃあ神来社さん、乗って」
「えぇ…でも…私、軽くないし…」
「大丈夫だよ、さっきだって篤君背負って走って来たし」
「えっと…うん…じゃあ…」
ようやく観念したのか、神来社は恥ずかしそうにしながら、龍乃心の背に体を任せ、そのまま龍乃心は神来社を背負ったまま立ち上がった。
「大丈夫? 重くない? 無理しないでね…」
「重くないから大丈夫だって」
結局神来社を龍乃心が背負いながら、4人は歩き出した。
周りには民家が家々が並び、道路は比較的広かった。都会とは言えないものの、緑居村に比べれば一目瞭然にシティ感があった。
達也はずっとチラチラと龍乃心の方を見ていた。やがて達也が口を開いた。
「明空、これ大丈夫か?」
「達也までなんだよ。重くないから大丈夫だって」
「いやいや、そうじゃなくて、これ伍蝶院に見られたら殺されんじゃねーか?」
「怖い事言うんじゃないよ…。なんで俺が伍蝶院さんに殺されるんだよ?」
「…いやなんでも無い」
龍乃心にぞっこん中の伍蝶院が、神来社を背負う姿を見たらどうなるかは容易に分かりそうではあったが、残念な事に龍乃心にはよく分かっていない様だった。
それから暫く
「ねぇねぇ」
「? なんだよ」
櫻井が小声で達也に声かけた。
「私、今まで明空君の事よく知らなかったけど…意外と女の子誑しなの?」
「うーん、否定できない。しかも本人は無意識ときてるから性質が悪いな」
「杏なんて、緊張しすぎて、逆に明空君の首元ぎゅっと抱きしめちゃってるもん。あれ息できてる?」
「…基本ポーカーフェイスだから、表情が読めねーからな」
こんな感じで達也と櫻井は、しばらく喋りながら歩いていた。
「…あの二人、喧嘩ばかりしてるから仲悪いのかと思ったけど、そうでもないのかな?」
二人の会話を知ってか知らずか、呑気な事を言っていた。
「神来社さん、足大丈夫? 響いたりしてない?」
「あ、うん、だ、大丈夫だよ!」
神来社は声が翻る勢いで返事をした。
「そう? なら良いけど」
龍乃心としては何か話しかけた方が良いかとも考えていたが、そもそもが龍乃心も口下手であったので、それっきり会話は途切れてしまった。
その代わり、時折龍乃心の耳元に神来社の吐息がかかり、それが龍乃心にとって絶妙にむずがゆくて辛かった。
「あ、もしかしてあれじゃない?」
櫻井が指差す先には、かなりでかい鳥居と、その奥に聳え立つ神社らしき建物が見えた。
「すっげぇ、でっかい神社だな…。これ全部回り切れるかぁ…?」
「確かにしおりに載っている写真よりずっと大きく感じるわね…」
龍乃心はじーっと神社の方を見つめていた。
「…ここが『桃城神社』…」
そんなシリアスな雰囲気になっている中、神来社は誰かに見つかりやしないか(特に伍蝶院)ひたすら肝を冷やしていた。
※次の更新は2月22日(月)の夜頃となります。




