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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
40/49

40話 足跡

昨日更新できなくてすみません。。。

「へぇー中も結構広いなぁ…」


達也と櫻井が先に入り、少し遅れて篤と龍乃心、神来社も建物の中に入っていた。

中はごく一般的な資料館といった所で、赤ヶ山市とその周辺の昔の暮らしぶりを示す資料や、実際に当時使われていた農耕道具等が納められていた。


「ふふふ…どれもこれも本で読むのと実際に、自分の目で見るのとでは全然違うわ♪」


「び、ビックリするから、急に気持ち悪ぃ笑い声をたてんなよ…」


「き、気持ち悪いとは失礼でしょ!」


「悪かった、気色悪いの間違いだ」


「言い方の問題じゃないわよ!」


すると後ろから係員らしき女性がやってきて、二人は優しく注意された。

建物に入って数分でこの有様である。


「あの二人、顔合わせると喧嘩してるな…」


龍乃心はあきれ顔でそう呟いた。


「あはは、あの二人は家も近所で幼馴染だからね。ずーっとあんな感じだよ」


「へぇ…じゃあまぁ仲は良いのかな…」


「んな訳あるかぁ!!」


龍乃心が呟くや否や、ふたりとも見事なタイミングで否定してみせた。


「いや…息ぴったしだし…」


それから、5人はそれぞれのペースで回った。篤も少し楽になったのか、顔色が先程よりだいぶ良くなっていた。


「えーっと明空君、ずっと気になってたんだけど、何故に神来社さんの手を握ってるの?」


「あー、これは神来社さんが迷子にならない様に…」


「あははは、そうだったんだ! やっぱり明空君は優しいね♪」


真っ正面から篤に褒められてしまい、龍乃心は思わず照れてしまった。

そして龍乃心と神来社は、相変わらず二人で回っていた。


「あ…あの…明空…君」


「ん?」


「さっきからずっと…手…」


「あ…ごめん、もしかして嫌だった?」


「そ、そ、そんな事ないよ! ただ…」


「?」


「ううん…なんでもない…」


それから二人は無言で館内を回った。意外にも神来社は展示されている農耕の道具に興味があったらしく、僅かながら目を輝かせて見入っていた。それを察した龍乃心は、悟られない程度に神来社のペースに合わせた。


「…うちの爺さんも昔は、こんなのを使って仕事してたのかな…」


「明空君の…?」


「あー…うん、あの村じゃ辰じいって呼ばれてるみたいだけど…」


「辰おじいさんの事? み、明空君のおじいちゃんだったんだ…」


「まぁ正確にはひいおじいちゃんだけどね。ろくでもない爺さんだよ…」


「そうだったんだ…」


またしばらく沈黙が流れた。但し、最初に比べると僅かではあるが、会話が続く様になっていた。

二階に上がると、今度は図入りの歴史が沢山記されており、小学生にも分かりやすく解説していた。

櫻井と篤は熱心に展示されている資料を眺めていた。達也は早くも飽きてしまったのか、とっとと三階の方に上がってしまった様だ。


「町ひとつとってみても、こんなに歴史があるんだなぁ…」


龍乃心は、自分の遠い先祖達もこの歴史の中に含まれているのだと思うと、なんだか不思議な気持ちになっていた。


「み、明空君は今までずっとロンドンに住んでたんだよね…?」


「うん、ずっとロンドン。まぁ正確にはロンドンの郊外の方の、田舎町なんだけどね」


「あ、そうなんだ…」


「なんか…ロンドンって言った方が分かりやすいからさ」


「…ふふ、確かにそうだね」


この時、龍乃心は初めて神来社の笑う顔を見た様な気がした。そして、なんだか龍乃心も少し嬉しくなった。


「…じゃあ明空君は、英語と日本語が喋れるって事?」


「まぁ…そうだね。昔からだから、あまり気にした事ないけど」


「すごいなぁ…明空君…色々な事が出来て…。わ、私は勉強も運動も苦手だし、人と喋るのも苦手で…。何もできないから、いつも迷惑かけちゃう…」


そう言うと、神来社は今にも泣きそうな顔で俯いてしまい、龍乃心は戸惑ってしまった。


「えっと…」


龍乃心は改まって神来社に語り掛けた。


「これは…死んだ俺のおじいちゃんが良く言ってた言葉なんだけど…。出来ないっていうのは、言い換えると伸びしろが沢山あるって事なんだって。今は出来なくても、数日後、数か月後、もしかしたら数年後になるかもしれないけど、出来る様になるかもしれないって」


神来社は目を丸くして龍乃心の顔を見つめた。


「だからその…自分の伸びしろに期待していこう」


龍乃心は急に恥ずかしくなり、顔を背けた。

すると僅かに龍乃心の手を握る神来社の手の力が強くなった。


「…うん、明空君ありがとう…。ちょっとだけ…勇気が出たかも…」


そう言った神来社は今日一番の笑顔を見せた。


「私…もうちょっとだけ頑張ってみる…! 方向音痴も…克服する…!」


そう言って神来社は、龍乃心と繋いでいた手を離すと、一人で館内を見て回り始めた。

その様子を見ていた龍乃心は、なんだか温かい気持ちになった。


「…頑張れ、神来社さん…」


すると数分後、誤って関係者口に入ってしまい、連れ出されてきた神来社の姿が見えた。


「…み、明空君、また間違えちゃった…」


今にも泣きそうな顔で龍乃心の元に戻って来た。まだまだ先は長そうだ。

※次の更新は11月2日(月)の夜頃となります。

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