4話 転校生「明空 龍乃心」
「今日から学校だな。緊張するかもしれないけど、頑張っていきなよ」
「別に緊張なんか…」
龍乃心は今日から地元の小学校へ通う事になっていた。
ここから歩いて30分の所にある「緑居第一小学校」である。
「じゃあ父さんは先に出るから、戸締り頼んだよ」
「うん、行ってらっしゃい」
そう言うと父親は家を出て行った。
程なくして、龍乃心も戸締りを入念に確認した後、家を出て行った。
龍乃心の通う学校は、小学校5年以降はランドセルの着用が自由となっている為、わざわざ今からランドセルっていうもあり、リュックで登校する事に決めた。
しばらく歩いて行くと、ここに越して来た時にあった商店街が見えて来た。
この村のメインストリートとも言うべきこの商店街は、八百屋、魚屋、薬局、肉屋、酒屋、服屋等、一通りの店は揃っていた。
丁度、開店準備中の時間帯だった為、営業中の店は殆ど無かった。
商店街の中を真っすぐ抜けた所に、緑居第一小学校があった。
龍乃心は校舎の中に入ると、事前に父親に言われた通り、職員室に入っていった。
そこに朝の準備に慌ただしくしている先生達の姿があった。
「お、待ってたよ明空君!!」
元気良く龍乃心に声を掛けてきたのは、龍乃心のクラスの担任となる先生だった。
「おはよう明空君! 僕が、今日から君が入るクラスの担任をしている、『坂本 昭』! これから宜しくな!」
「おはようございます、明空 龍乃心です。宜しくお願いします」
「はっはっは、ダメだよ最初なんだから、もっと元気よく行かないと!」
「はぁ…」
坂本先生はいかにもな熱血漢といった感じで、龍乃心は早くも苦手意識を持ってしまった。
「じゃあそろそろ朝の会が始まるから、そろそろ行こう!」
龍乃心は坂本先生に連れられ、職員室を出て二階に上がり、左手にある教室に入っていった。
「おーい、みんな席着いたかー? これから朝の会を始める前に、今日からお前らのクラスメートになる子がいるから、その紹介をするぞー! 明空君、自己紹介してくれ!」
「あ、はい…」
龍乃心は言われるがまま、黒板の前に立ち、自分の名前をチョークで書いた。
「えっと…俺の名前は『明空 龍乃心』って言います。ロンドンから来ました。どうぞ宜しく…」
龍乃心は非常に簡潔な自己紹介を終えると、とっとと下がった。
「龍乃心だって! 名前めっちゃかっこいいな!」
「なんか結構イケメンじゃない? しかもロンドンから来たって! 帰国子女って事?」
「じゃあ英語ペラペラなのかな? 結構ステータス高くない?」
「でも、あまり喋らなそうだね」
クラスメートたちは、龍乃心に対して好き放題の感想を、各々垂れ流していた。
そして、龍乃心はふと、一番後ろの席にいる元治を見つけた。
元治は唖然とした顔でこちらを見ていた。
「あれ…あいつ…同じ学年だったんだ」
龍乃心がポツリと呟いたと同時に、元治は大声で叫んだ。
「み、明空ぅ!? なんでお前がここにいんだよ!!」
「そりゃあこの村に引っ越してくりゃこの学校に転校してくんに決まってんじゃん。ここしか学校ないんだし…」
元治の斜め前に座っていた朝倉達也が、呆れながら言った。
「なんだと!? 達也、なんでそれを早く教えてくんねーんだよ! 俺、一昨日会った時『また会えたら会おうぜ』とかめっちゃ恥ずかしい事言っちゃってんじゃん!」
「いやさ、いくらなんでも元治だってそこまでバカじゃねぇと思ったから言わなかったんだよ。そしたらまぁバカだったって訳だよ」
「お、お、お前ぇぇぇぇぇ!!」
「何人かは既に知り合いになってるみたいだな! 何はともあれみんな仲良くしてやってくれよ!」
「はーいっ!」
「じゃあ明空君は、元治の後ろの席に座ってくれ」
「はい」
龍乃心は、坂本先生に指定された席に着席した。
すると、速攻で元治が話しかけてきた。
「なんだよ、明空、これからクラスメートになんのか! 改めて宜しくな!」
「あ…うん、宜しく」
「なんだよ朝から元気ねーな! もっと元気よくいこーぜ! 坂本先生に怒られちまうぞ!」
席に着くなり、マシンガントークを仕掛けてきた元治にうんざりしつつも、龍乃心はリュックに入った教科書を机の中に入れていた。
すると、クラスメートが続々と龍乃心の周りに集まってきた。
「え…何、なんで俺の周りに…?」
急に取り囲まれてしまったためか、龍乃心は若干ビックリしてしまった。
「ねぇねぇ、明空君…だっけ? ロンドンから来たってホント?」
「あ…うん、ホント」
「生まれも育ちもロンドンなの?」
「ずっとロンドンで住んでたから…日本に来たのは今回が初めてで…」
「でもその割には日本語、すごく上手だよね?」
「家の中じゃずっと日本語で会話してたから…」
「えー、じゃあ日本語と英語を両方話せるの!?」
「まぁ…外に出たら英語喋るしかないから…」
「すっごい!」
「こっちには家族全員で来てるの?」
「いや、父さんと二人だけ」
「他にご家族は?」
「えーと母さんと双子の妹がロンドンに残って生活してて…」
「双子の妹ちゃんだって! 絶対可愛いよね~♪ お母さんも美人そう!」
留まる事を知らないクラスメートからの質問攻め。
龍乃心には、なんでこんなにも自分に興味を持つのかが全く分からなかった。
「ホラホラ、お前ら! そろそろ授業の準備しろー! 1時間目は体育だから、とっとと着替えろー!」
坂本先生のおかげでやっとクラスメート達から解放された。
龍乃心は、昨日父親から渡された体操服に着替えていると、元治が話しかけてきた。
「明空、今日の体育はドッチボールなんだけど、一緒のチームになんねぇ?」
「一緒のチーム…?」
「おう、一昨日の明空の運動神経を見て確信したのよ! こいつと体育同じチームだったら、絶対負けないって!」
「え、何々元治、お前人に助けて貰っといて、そんな事考えてんの?」
「うるっせぇ、達也! 今日こそはあのバカ健太の野郎をギャフンと言わせてやんだよ!」
「へぇ…人の手を借りて?」
「良いんだよ、勝ちゃよう!! 手段なんか選んでる場合じゃねぇんだよ!」
「なんかもう元も子もない事言い出したんだけど、こいつ」
「人の風上にも置けないですね」
「なんだよ、寄ってたかってお前ら! 春樹はまたそうやって達也に乗じて俺の悪口を言う!」
「まぁ…別に同じチームで構わないけど」
「よっしゃあ!! 見てろバカ健太ぁ!!」
元治が雄たけびを上げていると、背後から図体の大きい少年がやってきた。
「おい、元治ぃ。俺がなんだって?」
「で、出たぁぁぁぁぁ!!」
「オイコラ、人をお化けみたいに呼ぶんじゃねぇ」
「おい明空、こいつがバカ健太っつって、ドッチボールでいっつもやられてんだよ!」
「オイコラ、バカ健太ってなんだ。ちゃんと紹介しやがれ」
「こいつは寒河江健太。通称、バカ健太っつーんだ」
「オイコラ、そんな通称認めた覚えねーぞ」
「いや…健太も一々つっこまなくてもいいから」
すると、寒河江健太少年は龍乃心の前に立ち、顔を睨みつけた。
「おい、お前明空っつったな? 転校生の分際で随分とでけぇ面してんじゃねぇか」
「おいおい、健太、何もいきなり突っかかんなくてもいいだろ?」
達也が止めに入ると、龍乃心はじっと健太の顔を見つめていた。
「なんで黙って人の顔を見てやがんだよ。なんかとか言え」
しばらく黙っていた龍乃心はやっと口を開いた。
「でかい面ってなんだ? 俺は別に顔でかくないし、お前の方がよっぽど図体でかいだろ…」
「おい、明空ぅ! 健太はそういう事言ってんじゃないから!」
「どいつもこいつも舐めやがって。ドッチボールでぶっ潰してやるからな」
そうセリフを吐き捨てると、健太は先にグラウンドの方へ行ってしまった。
「はっ!! そうやって余裕ぶってんのも今のうちだからな! 見てやがれこの腐れデブが!」
「もう元治がスゲー勢いでクズに成り下がっていってるんだけど」
「成り下がるも何も、元からな気もしますけど…」
元治と龍乃心達も着替え終わると、グラウンドの方へ移動した。
グラウンドでは既に坂本先生が、ドッチボールコートを白線で引き終わっていた。
「よーし、全員いるなー! じゃあ今からドッチボールを始めるぞ! チームは自由で男女混合、元外野は2人で、顔面はセーフな! 男子はくれぐれも女子に対して、あんまり強くボールをぶつけたりすんなよ!
他になんか質問はあるか!?」
すると元治が勢いよく手を挙げた。
「はい、先生!」
「ん、元治なんだ?」
「男子に対する股間への攻撃もセーフですか!?」
「よーし元治、次バカな事言ったらお前の股間目掛けて全力で先生がボールぶつけるからなー!」
元治は顔を青くしながら股間を押さえた。
今度は龍乃心がぬぅっと手を挙げた。
「おぉ、明空君! どうした!?」
「あの…ドッチボールってなんですか…?」
龍乃心から出た衝撃の言葉に、みんな唖然としてしまった。
※次の更新は9月30日(月)の夜頃となります。




