39話 手を
すみません、いつもより少ないです。
来週は頑張ります。
バスは無事に駐車場に辿り着き、停車した。1時間あまり密室に拘束されていた子供達は一斉に外に脱出した。
「いやー、着いた着いた~。やっぱ1時間ずっと座りっぱってのは大変だな」
達也も若干草臥れた様な様子で、バスから降りてきた。
龍乃心は比較的余裕そうな表情で続いた。
「明空は全然平気そうだな。俺、すげぇ疲れたよ」
「あーうん、ロンドンに居た事からバスには乗ってたから」
「へぇー。あそこには既に瀕死の奴がいるけど…」
達也の指差す先には、いつぞやの時の様な青ざめた顔をして、健太に肩を担がれている元治が居た。
「ったくおめぇは何してんだよ…。まだ着いたばっかりじゃねぇか」
「う…うるせぇ、吐かなかっただけマシだろうが…。踏みとどまった俺の根性を褒めてくれてもいいんだぜ…?」
「減らず口が叩く余裕があんなら、自分で歩け」
「すみませんでした健太君、もうちょっと優しくしてください」
「全く、先が思いやられますわ…」
それからみんなは、駐車場から近くの広場に移動し、学年主任から出発前の挨拶が行われた。
そして、程なくして各班ごとに出発した。
「じゃあ行くわよ、みんな」
「なーんで、櫻井が仕切ってんだよー」
「いやなんでって、私班長だから! この間決めたでしょ! なんなら私班長会議とかも結構出てたんだけど?」
「あーそうだっけー? だってさ、明空」
「いや…俺も知ってるから」
「マジかよ。まぁ良いか出発しよう。おーい神来社ぉ、そっちじゃないぞー。速攻で迷子になろうとすんなー」
何故か神来社は、てんで反対方向の方へ歩いて行っていた。
「あふぁ、ご、ごめんなさい、私、方向音痴で…」
「まだ出発もしてないけどね! ちゃんと固まって行くぞー」
「あ、うん、ありがとう…」
こうして龍乃心達の班も無事に出発した。班長である櫻井の誘導で歩いて行った。
「櫻井、最初はどこ寄んだ?」
「そうね、まずは赤ヶ山博物館に向かうわ。ここから歩いて20分って所かしら」
「結構歩くなぁ…」
「何言ってんの、緑居村じゃあもっと歩いてるでしょうに」
「俺んちは学校とか商店街の近くだから、普段からそんなに歩かないの」
「全く軟弱なんだから…」
「なーんか言ったか?」
しばらく歩いていると、篤の足取りが重くなっているのに龍乃心は気付いた。
「篤君大丈夫? なんか辛そうだけど…」
「だ、大丈夫だよ! ちょっと疲れちゃっただけで、博物館に着けば回復するよ♪ セーブポイントみたいなもんだからね!」
「そ、そうだね…」
言っている事は良く分からなかったが、篤が明らかに無理をしている事は、龍乃心にもはっきりと分かった。
そして、歩く事20分、最初の目的地である赤ヶ山博物館に到着した。
中々どうして立派で大きい建物である。
「へぇー、結構でかいなぁ」
「ここらじゃ有名な博物館みたい。赤ヶ山市だけじゃなく、近隣の町とか村の歴史や文化も学べるみたい」
「緑居村も? あの村に歴史とか文化なんてあんのか? どうせ『昔からずっと芋とか食ってました』とかしか記されてねぇんじゃーの?」
「そんなざっくりした歴史な訳ないでしょ! バカ言ってないで中入るわよ。後、杏はどこ行くの!? こっちだから!」
「はぅぅ、ご、ごめんなさい~」
神来社は入り口から入ろうとしたつもりが、関係者口から侵入しそうになっていた。
「ここに思いっきり『正面入り口』って書いてあんだろ…。何をそんなにパニくってんだよ」
「その…」
神来社は申し訳なさそうな顔をして、いつもの様に俯いてしまった。
少し不憫に思ったのか、龍乃心は神来社に声を掛けた。
「えーと、神来社さん大丈夫?」
「ごめんなさい…私、昔から迷子になりやすくて…気付いたらいつも、全然違う所にいたり…。迷惑掛けてごめんなさい…」
神来社は今にも泣きそうな顔になりながらポツリポツリと呟いた。
「あーそうなんだ…。うーん…仕方ないな」
そう言うと、龍乃心は神来社の手を取った。
突然の出来事に神来社は、顔を真っ赤っかにして龍乃心の顔を見つめた。
「み、み、み、明空、君、急に何をっ!!?」
「何って…こうすれば迷子にならないかなぁって…。その、俺の双子の妹も目を離すと、よくあっちこっち歩き回って迷子になるから、よくこうやって手を繋いで歩いてて。こうすれば迷子にならないだろ?」
「いや、あ、その…そうかもしれないけど…」
神来社は恥ずかしさのあまり気絶しそうになっていたが、不思議と嫌な気持ちはしていなかった。
「おーい、お前ら何してんだよー…って、手ぇなんか繋いでホントに何してんだ、明空!」
「あ、いや、神来社さんが迷子になりやすいって言うから、こうしてれば大丈夫かと思って…」
「ひぇー無自覚プレイ~…。良いけど、元治に見られたら絶対にうるせぇから気を付けろよ~」
「元治に…? あーうん、分かった」
イマイチ龍乃心は達也の言う意味を理解していなかった。
乙女心、いざ知らず…。
※次の更新は10月26日(月)の夜頃となります。




