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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
38/49

38話 バス

秋遠足の朝。まだまだ残暑を引きずりつつも、少し涼しくなった秋風が心地よかった。

龍乃心は日課のランニングから帰ってきた。秋遠足の当日だろうが雨風が吹こうが、毎日欠かさず行っている。


「ただいまー…」


「おいおい、遠足の当日なのにまた随分と走ってきたな。途中で疲れるんじゃないか?」


「別に大丈夫だよ。寧ろ、変にしないと調子が狂う」


「ははは…なんかランニング中毒みたいだな…」


それから龍乃心は軽く朝食を済ませ、身支度を整えた。


「龍乃心、ホラ」


「これは…?」


龍乃心は、父親から弁当箱を渡された。


「今日はクラスのみんなお弁当持ってくんだろ?」


「父さんが作ったの?」


「まぁ今日は割と朝ゆっくりだったし…。あれだ、最近料理でもしようかなって」


龍乃心の父親は、どこか照れ臭そうにゴニョゴニョ喋っていた。


「…ありがとう。じゃあ行ってくる」


「うん、気を付けてな」


龍乃心もまた、照れ臭そうにお礼を言うと、そそくさと家を出て行った。

なんだかんだ似た者親子である。

龍乃心が家を出ると、なんと目の前に伍蝶院が立っていた。


「あら、明空様、おはようございます♡ 今朝も心地良い朝ですわね♡」


「ご、伍蝶院? なんでこんな所に…学校まで全然反対方向じゃ…」


「わたくし、秋遠足では願い叶わずご一緒の班になれなく…だったら、せめて朝の登校だけでもご一緒出来ればと…」


「は…はぁ…」


「では行きましょう、明空様♡」


こうして何故か龍乃心と伍蝶院は一緒に学校に向かって歩いて行った。

なんだかんだお人好しである龍乃心は、特に何も言わなかった。


「今回、明空様の班はどこに行かれるんですの?」


「えーっと確か、なんとか神社に行くだっけ」


自分で気になって決まったのに、名前は全く覚えていなかった。


「神社! まぁ良いですわね♪ 神社と言えば、ここ緑居村にも以前神社がありましたのよ」


「へぇー。…あ、そういえば篤君もそんな様な事言ってたなぁ。栗柿神社とか…なんとか…」


「あら、御存じでしたのね」


「以前…って事は今は無いの…?」


「まぁ…そんな所ですわ」


その時、篤が話した時と同じ様に、若干顔の表情が若干曇ったのを龍乃心は見逃さなかった。そもそも、以前はあった神社が、今は無いというのは一体どういう事なのだろうかという事を龍乃心は不審に思っていた。


(取り壊されでもしたのか…? 神社を…? それにさっきの表情…)


多少の疑問が龍乃心の頭を過ったが、この時もそれ以上考える事はしなかった。

そして気が付くと、学校の近くまで来ていた。学校の前には遠足用のバスが既に到着していた。


「あれに乗ってくのか。村のバスよりもでかいなぁ…」


「ふふふ、村のバスじゃ流石に小さすぎますもの♪」


「…確かにね」


何故か龍乃心は、自分の言った事に笑ってしまった。しかしどこか心地良さを感じいた。


「おはよう♪ 苺ちゃん、龍ちゃんと一緒に来たんだ。あれ、でも苺ちゃんの家って…」


挨拶してきて早々一方的に話しかけてきたのは澄玲だった。


「そ、その、今日は回り道をしてみたい気分でして…そうしたら途中で明空様に…」


伍蝶院は急に顔を赤くし、恥ずかしそうにしだした。どうやら自分からガツガツ行く分には大丈夫だが、周りから、ふと指摘されるのは苦手らしかった。龍乃心は正直「良く分からない…」と内心呟いた。

すると遅れて後ろから、元治がやって来た。


「おーす!」


「お、元治、今日は風邪ひかなかったんだな」


「いつまでその話引っ張るんだよ! 今日は元気いっぱいだわ!」


そして集合時間ギリギリになって篤も到着した。


「みんなおはよー!」


心なしか、篤は少し疲れている様に感じられた。


「良かったよ、あっちゃん! 珍しく遅いから、また体調悪くて休むのかと思ったよー」


達也はいつもの軽いノリであっちゃんを出迎えた。


「ゴメンゴメン、実は昨日の夜ちょっと体調崩しちゃって…。今日もギリギリまで休んでたんだ」


「そうなの? あっちゃん今日来て大丈夫だったの?」


「うん、もう大丈夫だよ! お父さんからは心配されたけど、今日の遠足楽しみにしてたし、頑張って来たよ」


「そっか、あんまり無理すんなよ! もし途中で体調悪くなったら俺と明空に言えよ?」


「うん、ありがとう! でも大丈夫だよ」


そう言って笑って見せたが、龍乃心の目には、やはりやせ我慢をしているようにしか見えなかった。

やがて、学年全員が無事集合し、学年主任の高橋昭子先生がマイクの前に立った。


「本日は秋晴れに恵まれた絶好の遠足日和となりました。くれぐれも先方の御迷惑にならないように、歴史や文化を学んできてください」


非常に簡潔な挨拶を終えると、生徒達はバスに乗り込んだ。

バスの席は班ごとに固まって座ることになっていた。


「いやー、こんなにデケェバス乗んの初めてだわ~!」


元治はバスの大きさに興奮していた。


「元治君、はしゃぐのは結構ですが、この間みたいに吐かないでくださいよ?」


前に座っていた春樹が、元治に忠告した。


「おい待てテメェ、まさかバス酔いか!? 勘弁してくれよ」


元治の隣に座っている健太は珍しく狼狽え出した。まだ出発もしていないのに。


「が、元治さん、吐くなんて絶対に許しませんわよ!? ただでさえ、あなた方と同じ班だなんて絶望していますのに、目の前で吐かれた時には、わたくし死んでしまいますわ!」


「おめぇら同じ班のメンバーに対して、その反応はひでぇだろ! つーか、俺この間バスに乗った時、吐いてねぇから! 春樹、デマ流すなよ~!」


「でも吐く寸前でしたよ?」


「うるせぇ、吐く寸前と吐いたでは天と地の差なんだよ! 俺の土壇場の根性、舐めんなよ!」


早くもバスの中は大盛り上がりだった。何度も言うようだが、まだバスは出発していない。


「よーし、全員乗ったなぁ!? じゃあ出発するぞ!」


「あ、いやまだです。先方のバスの乗車確認が終わっていない様なので」


バスの運転手は冷静な表情で、坂本先生に状況を報告した。


「…まだらしいから、みんな大人しくしてろよー!」


「えぇー、先生かっこ悪ぅー!!」


「せ、先生だって間違える事位あるんですー!」


坂本先生はとんだ赤っ恥をかいてしまったが、程なくしてバスが出発した。


「えーっと、基本的にバスの中では騒がない限りはどう過ごしてもらっても構わないが、本日の目的地である赤ヶ山市までは1時間かかるから、その間に各班で作成したしおりの確認等を行うと良いぞ!」


「ではみんな、今日の行程、及び目的地のおさらいをするわよ」


班リーダーである櫻井は、4班に集合を掛けた。


「んな事しなくたって大丈夫だろ~。しおり作ったんだし、あっち着いてから適当に歩きながら確認すりゃあ…」


「何言ってるの朝倉君、さっきも坂本先生が言ってたでしょ? それにこういう事は確認して損は無いわ。時間は限られているのだから、こういう移動時間とかを有効活用するべきなの」


「へぇーへぇー、分かった分かった…」


龍乃心はこの時「達也は達也で、元治とは別方向で問題児かもしれない」と思ったのだった。


「良い? バスが到着したら、そこからもう班ごとの行動になるわ。まずはここで各自トイレを済ませるわ」


「え、ちょっと待てぇ、トイレのスケジュールも決められてんの!?」


「当たり前でしょ? 目的地の神社まで、いくつか立ち寄る場所はあるけど、トイレがあるとは限らないし、混雑してて入れない可能性もある。なら、確実に行ける駐車場のトイレで済ませるのは当然」


「お前の当然は、俺達の当然じゃねーんだよ、トイレ位好きに行かせろよ!」


「あなたこそ何言ってるの? 出発地点でまずトイレを済ませるのは鉄則じゃない。ねぇ、杏もそうでしょ? あなたもトイレ行くわよね?」


「わ、わたしは、そ、そのぉ…」


「お前鬼だろ! 杏ちゃん困ってんだろうが! もう止め、トイレの話は止め! もっと先の話をしようぜ! 神社に行くまでにどこに寄るって?」


「ちょっと急かさないでよ。えーっと確か博物館と赤ヶ山公園ね」


「公園? そこで鬼ごっこでもすんの?」


「そんな訳ないでしょ! 公園と言っても、ここは元々城の跡地にもなっている特別区域になってる場所みたいで、ここにも色々と資料が見れる様になってるらしいわ。坂本先生が教えてくれたわ」


「坂もっちゃんがねぇ…。まぁ歴史マニアだからな。明空はどう? なんか不満とかある?」


「いや、楽しみです」


「…一言って」


「あっちゃんは大丈夫そうか? このしおり見てると結構距離あるっぽいけど」


「あ、うん、大丈夫だよ!」


笑顔を見せるものの、やはり龍乃心の目には、篤が少し無理をしている様に見えて仕方が無かった。


「じゃあこれで確認の方は大丈夫そうね。神社の後は、ひたすら帰るだけ…。あれ、これ何?」


櫻井は、神社から駐車場までの道の途中に、謎の黒い印がある事に気付いた。


「あーそれ? へへへ、ゲーセン」


「あんたバカじゃないの!? まさか寄る気?」


「へへへ、バレた?」


「へへへじゃないわよ! 寄るわけないでしょ、ゲーセンなんて!」


「てめ、ふっざけんなよぉ! ゲーセンの前を通り過ぎろってのかよ、そりゃあ無ぇだろう!」


とことんこの二人の相性は悪いらしかった。元治の影に隠れて目立っていなかったが、達也も達也で中々の悪童である。


「ははは…この班大丈夫かな…」


流石の篤も、呆れた気持ちを隠せずにいた。


「…どうだろう」


龍乃心も、そこで「大丈夫だろう」とは、とてもじゃないが言えなかった。


「神来社さんも今日はよろしくね♪」


「あ、…うん、よ、よろしく…!」


篤は笑顔で言うと、神来社はまた顔を真っ赤にして、俯いてしまった。


「大丈夫かなこの班は…」


達也と櫻井の相性の悪さ、篤の体調、神来社の龍乃心をはるかに上回る人見知りっぷり。

ある意味一番問題な班かもしれないと龍乃心は思った。


「だーかーらー、俺ぁ滝を見てぇんだって! んで、そこで泳いだり釣りしたりしてぇんだよ!」


「良い訳ねぇだろバカ野郎、当日になっててめぇの都合で行き先を変えんじゃねぇ」


「ホントですわ全く! これだからバッタの元治さんは困りますわぁ…」


「おーい、今なんつったコラぁ!! もし俺が吐きそうになったら、てめぇら巻き添えだからなぁ!」


「んな…んな…なんて卑劣極まりない男なんですの!!!?」


「卑劣じゃありませんー、生理現象だから仕方ないんですー!」


元治達を見ていた龍乃心は、速攻で前言を撤回した。

そして1時間後、バスは赤ヶ山市内の駐車場に到着した。

※次の更新は10月19日(月)の夜頃となります。

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