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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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37話 とある神社

あくる日、ついに班決めの日がやって来た。幸い元治もすっかり風邪が治っていた。


「いやー、酷い目に遭ったわ~」


「どう考えてもおめぇのせいだろうが。ったく来年は俺達6年生だぜ? いつまでも馬鹿なままじゃいらんないだろう」


「『風邪治って良かったね』くらい言えねぇのかよ!」


「言う訳無いでしょ、完全に避けられた風邪だもん」


「達也と澄玲は冷てぇなぁ…。なぁ明空もそう思わん?」


「ノーコメント…」


「右に同じ…」


「ダメだ明空と春樹、こいつら以上に冷たかった!」


「ほらー、席つけぇ! 昨日言った通り、秋遠足の班決めをするぞー! んで、班の決め方だが…」


「はあぁい、坂本先生ぃ!!! わたくし、各々お好きな方と行動を共にするのが良いと思われますわぁ!!」


伍蝶院苺は、天井に風穴が開くんじゃないかと思う位勢いよく挙手し、そして大きな声で意見をした。全ては龍乃心と一緒の班になる為である。


「び、ビックリした…。ちょっと待て伍蝶院、班決めの仕方はもう決まっていて…」


「なんですって!!? わたしく、好きな方と同士でなくては絶対嫌ですわぁ!!」


「まぁー確かに自由の方が楽しいよなぁ。よし、明空一緒の班になろうぜ!」


「お黙りなさい元治さん!! わたくしが先に明空様にお声がけしているんでしてよ!! あなたはバッタとでも一緒の班になっていなさい!!」


「バッタってどういう事だコラぁ!! 段々悪口が雑になってきてんじゃねぇか!!」


「…別にバッタと一緒の班になる事に対しての拒否反応は無いんですね」


「春樹、俺は別にバッタを受け入れた訳じゃねぇから!」


「ホラホラ、静かにしろぉ! ったく、こういう事になるから今回から班決めの方法を変えたんだよ…。喧嘩になるし、メンバーが固まっちゃうから…。いいか、今回は平等にくじ引きで班を決める事にする!」


「く…く…くじ引きですって…!? なななな、なんの権限があってそんな横暴を…」


「先生権限だー」


「そんな…権力に屈するなんて…」


「あーもー話が先に進まん!! ほれ、くじの方はもう作ってあるから、左側の席から順番に引いてけ!」


こうして坂本先生が頑張って作ったお手製のくじ引きを順番に引いていった。

先生は内心「なんで班決め如きでこんなに疲れなきゃならないんだろう…」と愚痴っていた。


「よーし、みんなひき終わったなー。じゃあみんな紙を開いてみろ。紙に①から⑧までの番号が書いてあると思うが、番号が同じ人達が今回の秋遠足の班になるからなー」


クラス全員一斉に紙を開き、それぞれ「一緒だー!」「違う班だ―!」「おめぇと一緒かよ!」「こっちの台詞だ馬鹿!」など、様々な声が聞こえてきた。

勿論、龍乃心も紙を開いて、中の番号を開いていた。


「④…」


龍乃心は若干不安に同じ番号の人を探していた。普段、元治達とはよく行動しているものの、実の所、それ以外のクラスメートとはそこまで交流がある訳では無かったからだ。すると後ろから誰かが声を掛けてきた。


「あれ、明空君も④? へへ、一緒の班だね!」


声を掛けてきたのは篤君だった。朗らかな笑顔を見せながら歩み寄ってきた。


「篤君も④…? 良かった、知ってる人が居て…」


「そ、そんな大げさな…。一応みんな同じクラスなんだし…」


「それはそうだけど…」


「まあ坂本先生はあぁ言ってたけど、確かにやっぱり仲良い人と一緒の方が良いよね♪」


龍乃心は「篤君が一緒で良かった…」と心から思っていた。久々に人見知り全開である。


「おー、あっちゃんと明空も④なの? なんかいい感じの班じゃん!」


この絶妙に軽い声の主は達也だった。どうやら達也も④の様だった。


「いやー、良かったよ、⑥みたいな班にならなくて~」


「⑥…?」


「ほれ、アレ」


達也が指差す先には、伍蝶院、元治、寒河江健太が固まっていた。どうやらこの連中が⑥班らしかった。


「明空様ぁ…神様はわたくし達に、非常に残酷な試練を与えられたのですわ…。わたしくはとても耐えられそうにありませんわぁ…。よりにもよってバッタとゴリラが居る班だなんて…」


「そりゃこっちの台詞だわ!! 何が悲しくておめぇらと秋遠足で一緒に行動しなきゃいけねぇんだよ~! あと、さりげなくバッタキャラを浸透させようとしてんじゃねぇ! ただゴリラは同意です!」


「誰がゴリラだ馬鹿野郎共。ったくつまんねぇ秋遠足になりそうだ…」


「いやいや、それはこっちの台詞ですけどー!! なんかいっつもクールキャラ気取ってつまんなそうな顔してっけど、テンション下がるから止めてもらえますぅ―!? もっと楽しそうな…いで、いでででででででで!! ごめん、俺が良い過ぎた! 謝る! 謝るから無表情でヘッドロックすんのをやめろぉぉ!!」


「あはは、あっちはあっちで楽しそうだねっ♪」


「あ、あっちゃんは無自覚に人をDisるな…」


こうして無事に(?)班が決まった。次に班で相談をし、どこのスポットに行くのかを決める事になった。

龍乃心がいる班は、龍乃心と達也、篤の他に、委員長の「櫻井利美(としみ)」、龍乃心以上に人見知り全開の「神来社(からいと)(あんず)」が班のメンバーとなった。


「さーって、どこ行く? なんか楽しそうな所にいこーぜ! ゲーセンとかさぁ」


達也は遊べればどこでもいいらしかった。


「バカ、ゲームセンターなんて行ける訳ないでしょ。行ける所は指定されてるんだから」


「んだよ~俺達もう高学年なんだぜ? もっとこう自主性を認めてくれてもいんじゃねーかなぁ」


「あんたの自主性に任せたら、全部遊びになっちゃうでしょ? そんなの当然却下よ」


「いやいや、楽しくてなんぼだろー。秋遠足だって遊びに行くようなもんなんだから、一緒だろ?」


「今回の秋遠足は遊びに行くんじゃないの! 赤ヶ山市の歴史や文化を学んで教養を深めるのが、今回の遠足の目的です」


「いや~かってぇよ櫻井! そんなに肩に力入れて行く様なもんでもないだろー。それにたかだか隣の隣街で歴史がどうだこうだなんて…」


「あなたは本当に分かっていない! 人が息づく土地全てに歴史と言うものは存在するの! そしてそれを知り、後世に伝えていく事が私達が果たすべき使命なのよ!」


「いやいや、少なくともそこまで責任感重い遠足じゃねぇから! お前こそ勝手にスケールでかくすんなよ」


どうやら、根っからの真面目系委員長の櫻井と、ふわふわで軽い雰囲気を纏う達也は、相容れない性格らしかった。


「あはは、全然話が纏まらないね…」


流石の篤も若干呆れ顔だった。


「神来社さんは、どこか興味ある場所とか無い?」


「ふぇっ!? あ、あ、そ、その、私は…」


顔を真っ赤にしてしまい、手をもじもじさせながら黙ってしまった。


「あ、ごめんなんか困らせちゃって…」


「う、ううん、わたしこそ…」


一向に話が纏まる気配が無かった。櫻井と達也に至っては、何故か好きなおかずの話で言い争っていた。


「はぁ…なーんでうちのクラスはこう物事を決めるってのが苦手なんだか…」


坂本先生は頭を抱えて溜息をついていた。どうやらこれはいつもの光景らしい。


「仕方ない…僕と明空君で決めちゃおうか。神来社さんも一緒に決めよ!」


「そうするしかないな。えぇっと…」


龍乃心は行き先の候補となる施設や場所がまとめられた紙を眺めていた。すると、そこに載っていたある神社に目が留まった。


「明空君、何か気になった奴あった?」


「あ、いや…俺のおじいちゃんがよく神社の話をしてたなって…」


「神社?」


「うん、おじいちゃんが子供の頃、この村に住んでてよく神社に行って、友達と遊んでたって」


「…それって、栗柿神社の事?」


「いや、名前は知らないけど…篤君は知ってるの?」


「うん…まぁこの村の人は大体知ってるんじゃないかな」


そう言った時の篤の顔が少し曇った事に龍乃心も気付いたが、それ以上踏み込もうとはしなかった。


「でも、僕も神社は好きだよ! 毎年家族でお参りに行くしね♪ じゃあ行き先は神社にしよっか!」


「え、そんなに簡単に決めちゃっていいのか…? 篤君の行きたい所とか…」


「ううん、実は僕もこの神社気になってて。ほら、ここに歴史が1000年以上あるって。神来社さんはどう?」


「あ、あ、うん、私も神社…で良いと思う…」


神来社はか細い声ながら、応えた。


「よし、これで決まりだね♪ 櫻井さんと達也くん、秋遠足の行き先決まったよ!」


「えっ!?」


櫻井と達也は見事にハモった。

こうして、ようやく全ての班の行き先が決まった。


「成程、神社ね…。確かに赤ヶ山市の歴史を学ぶという上で、中々好ましい選択ね。流石は篤君と明空君だわ。このちゃらんぽらんな男とは違うわ」


「おいコラ櫻井、おめぇの眼鏡に渦巻き書いて、アホみてぇにしてやろうか?」


「まぁまぁ…なんにせよこれで行き先は決まったんだし、みんな仲良くね!」


「う…分かったわよ…」


「なんかあっちゃんに言われると…何も言い返せない…」


体が弱くとも、意思がとても強い子なんだなぁと龍乃心は、尊敬の念を込めた。


「そういや、澄玲とか春樹はどこ行くの?」


「私の班は、歴史記念館。なんか面白いもんあんのかなぁ…」


「多分、澄玲さんが思い描く面白さというのは期待しない方が良いかと…。僕は神社の方に行く事になりました」


「お、じゃあうちの班と一緒か」


すると、伍蝶院がどこからともなく龍乃心達の席に飛んできた。


「み、み、明空様達は神社に行かれるのですね!? 元治さんと寒河江さん、行き先を変更して、わたくし達の神社に行きますわよ!」


「おい伍蝶院、ふざけんな。勝手に行き先を変えようとすんじゃねぇ。俺の計画したスケジュールが台無しになるじゃねぇか」


そういって、健太は何やらスケジュールが記載された自由帳を見せた。


「こ、細けぇなアイツ。あんな顔してすげぇ几帳面なのな…」


「おい、なんか言ったか達也…」


「なんも言ってませーん」


健太は不機嫌そうな顔をして、腕を組んで見せた。


「伍蝶院、班で行動してるんだ。お前ひとりが勝手な事を言ってはみんなに迷惑がかかるんだぞ?」


「そ、そんな事言いましても…」


伍蝶院は龍乃心の方をちらりと見た。


「あぁ…わたくしと明空様との間には、こんな残酷な壁が立ちはだかっているのですね…。でも、わたくし挫けませんわ! 今回は諦めますが、次は絶対明空様とご一緒してみせますわ♡ では、伍蝶院苺、これにて失礼致しますわ!」


「失礼していいわけあるかぁー! まだ学校の授業終わってないわぁ!」


「あ…すみません」


坂本先生が怒った所で、班決めは無事(?)終了した。

そして、1週間後、ついてに秋遠足の日がやって来た。

※次の更新は10月12日(月)の夜頃となります。

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