36話 秋遠足①
夏休みが空けてから、1週間とちょっとが経過した。
予定通り、あっちゃんこと法華経篤は少し送れて2学期を迎える事が出来た。
病み上がりという事で、あまり無理はできないが顔色もすっかり良さそうで、龍乃心達はようやく安心した。
「待ってたぞ、あっちゃん! 自分ばっか夏休み延長してさぁ~」
「あはは、みんな心配かけてごめんね。でもすっかり良くなったよ♪」
「これでようやくクラス全員揃いましたね」
「それがねー。残念な事に今日は元治が休みなんだって~」
澄玲が呆れた様子で言った。
「が、元治が休みだァ!? おいやべぇよ、隕石が衝突して地球終わるぜ…」
「で、元治君は一体どうしてまた休む事になったんですか?」
「残暑がきつくて、昨日の夜水風呂してたら、そのまま寝て風邪ひいたんだってさ」
「あー馬鹿は風邪ひかないって言うけど、違ったな。風邪のひき方が馬鹿だったな」
「篤君、元治君を慕うのは構いませんが、くれぐれも真似だけはしちゃ駄目ですよ」
「うんごめん、さすがにそれは無いから安心して」
雑談を続けていると、坂本先生が教室に入ってきた。
誰も朝のチャイムが鳴った事に気付かず、みんな慌てて着席した。
「おーい、チャイムなってるぞー。いつまでも夏休み気分じゃ困るからなー。お、篤やっと会えたな! 病み上がりだからあまり無理はするなよ。少しでも体調が悪くなったら先生に言えよー?」
「先生ありがとう! もう大丈夫だよ!」
「そっか、なら良かった! えーっと、ちなみに元治は今日…って、お前ら完璧に知ってるって顔してんな…。分かってると思うが、間違っても真似すんなよー!」
「はーーい、当たり前でーす!」
「全く…」と言った表情をしながら生徒にプリントを配り出した。
龍乃心はプリントを受け取ると、その中身を呼んだ。
「秋…遠足?」
「あー、そういやそんな時期かぁ。龍ちゃんは遠足初めて?」
プリントを読む龍乃心に話しかけてきた。
「…まぁ。ロンドンに居た時にも遠足自体はあったけど、俺は参加してなかったから…」
「そっか…なんかごめん」
「…なんで謝る」
「なんとなく」
「そうかい…」
「まぁちょっと村を出て、散策する位なんだけどね。交通の便の関係もあるけど、この村を出るってあまり無いから、他の土地の景色を体験する目的も兼ねてるんだって(by 校長)」
「へぇー…。確かにバスもあまり本数無いし、村を出る機会も無いかもなぁ」
「せいぜい隣町に行く位だしね。遠足では毎回もうちょっと離れた所に行くから楽しみなんだ♪」
「そっかぁ…」
すると坂本先生はパンパンと手を叩いた。
「ほら、静かにぃ!! みんなプリントは受け取ったなー? じゃあ秋の遠足について少しだけ説明するぞー! プリントに書いてある通り、今回はバスで『赤ヶ山市』まで行く事になった! 多分、みんな名前位は聞いた事あるかもしれないが、多分クラスの大半が行った事無いと思う! 今回はそこで歴史を学んで、色々と感じ取って貰うのが目的だ! 遠足の次の日に感想文を書いて提出してもらうから、しっかりと目に焼き付けくんだぞ!」
「えぇ~、歴史ィ!? 私、歴史好きじゃないんだよねぇ~…」
「そうですか? 僕は歴史好きなので、今回の遠足、非常に楽しみです」
「えぇ嘘でしょう~? じゃあ春樹、学校で書く感想文、私の分も良い感じに書いてよ~」
「澄玲さん、元治君化はかなり深刻な症状です。絶対に負けちゃ駄目ですよ!」
「はぁ! いかん私とした事が! 危うく道を踏み外す所だった…」
「み、みんな元治君が居ないのを良い事に、言いたい放題言って…」
篤は、春樹と澄玲に苦言を呈しつつも、顔はどこか笑っていた。どこか思い当たる節があるのだろう。
「プリントにもある通り、今回は複数班に分かれて行動する事になっている。明日その班決めをするから、くれぐれも風邪ひいたりして休んだりしないようになー!」
「はーい」
こうしていつも通り、学校の授業が始まり、あっという間に放課後になった。
すると、さよならの挨拶が終わった途端、伍蝶院が真っ先に龍乃心の席にやって来た。
「み・よ・く・様ぁぁぁ♡♡ 明日の班決め、是非ともわたしくと御一緒致しませんかぁ♡」
「ビックリした…。いや、まだどういう風に班決めするかも…」
「大丈夫ですわ、班の決め方なんて、わたくしが坂本先生に掛け合えばノープロブレムですわ♡」
「おーい、伍蝶院ー。先生実はまだここにいるからなー。全部丸聞こえだからなー。秘密工作しようとしても無駄だかんなー」
「ぐぬぬぬぅ…わたくしとした事が明空様に夢中で周りが見えなくなっていましたわ…」
「聞かれてなかったら、うまく言ってたと思う苺ちゃんが凄いけど…。どうせなら私達と一緒の班になれたら良いけどね」
「折角のお誘い、申し訳ございませんが、わたくし今回は明空様と二人きりで行動しようと思っているので…はっ! ま、まさか澄玲さんも明空様を狙って…!?」
「んな訳ないでしょ! 苺ちゃん、これデートじゃなくて遠足だから! 二人きりの班とかあるわけないでしょ!」
「ふん、わたくし達の前にどんな巨大な壁が立ちはだかろうとも、乗り切って見せますわ! 全ては班でご一緒になって、悠久の愛♡を育む為に!!」
「いやいや、ちーがーうー! それ、遠足とちーがーうー! 遠足って言葉の意味を辞書でひいて確認して出直して来なさい」
「なんだ、お前らもう班決めの話してんのか? 明日じゃねーの?」
達也と春樹も龍乃心の席に集まって来た。
「あ、達也良い所に来た。苺ちゃんの暴走を止めてあげて」
「悪ぃ、それは俺には到底レベルが高過ぎるお願いだ。俺には荷が重すぎる」
「あー達也に聞いた私が馬鹿だったわ」
「そゆこと。っていうかお前ら帰らねぇの?」
「ほら、班決めは明日なんだし、苺ちゃんも帰ろ? 今日も元治が居ない事だし、途中まで一緒に、ね?」
「ぶぅ~…まぁ澄玲さんがそこまで言うなら仕方ないですわね…。どちらにせよ事態は好転しないようですし、そうしますわ…」
「はーい、いい子いい子♪ じゃあまた一緒に帰ろうかねー」
「だったらさ、商店街の近くにある駄菓子屋に寄ってかね? 駄菓子屋のおばちゃん、退院して昨日からお店再開してるみたいなんだよ」
「おばちゃん退院したんだ! 寄ってく寄ってく! ねぇ、春樹達も寄ってくよね!?」
「僕は別に大丈夫ですけど…」
すると、みんな龍乃心の方をじーっと見ていた。
「い、いや俺も行くよ。そんなみんなでこっち見るなよ」
「はーい、決まりぃ! そうだ、苺ちゃんも来る?」
「ふふふ、この状況下でその様な質問、愚問というものですわ! 明空様が居る所にわたくし在りですわ♡」
「だ…だいじょうぶか、なんか言ってる事、若干ストーカーちっくになってね?」
「まぁ…大丈夫でしょ」
「澄玲さん、今絶対面倒臭くなったでしょ?」
「そ、そんな事ないから! さ、早く行こう行こう!」
こうして5人は仲良く下校し、駄菓子屋に向かって歩いて行った。
歴史を学ぶ秋の遠足。
やおら日々は偶然という名の必然を纏って、糸を手繰り寄せるかの様に事実に近付けていくのである。
※次の更新は10月05日(月)の夜頃となります。




