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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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34話 お見舞い①

2学期が始まってから、最初の週末が訪れた。久々の登校生活の勘を取り戻し、いつもの日常に戻りつつあった龍乃心は、そのまま元治達と別れ、家に着いた。いつもの様に父親は居ない。

郵便受けを中身を見ると、龍乃心の父親宛に封筒が届いていた。


(誰からだ…?)


龍乃心は若干気にはなったが、父親に無断で中身を拝見する訳にもいかなかったので、封筒を父親の机の上にそっと置いた。

すると、家について早々電話のベルが鳴った。大方、電話の主の予想は付いていた。


「もしもし、明空です。」


「お、明空家に着いてたか! ナイスタイミングだな!」


案の定、相手は元治だった。そもそも、この家に電話を掛けて来るのは元治位である。


「…用があったんなら、さっき一緒に帰ってる時に言えば良かったのに」


「んな冷てぇー事言うなって! すっかり忘れてたんだよ! 今週の土曜日…っていうか、明日か。明空、明日って予定空いてる?」


「用件は?」


「あっちゃんが今体調悪くて学校休んでるのは知ってんだろ?」


「同じクラスだから知ってるよ。お前、バカにしてんのか?」


「じょ、冗談だって冗談! そんで今、あっちゃん隣町の『乃蝶(のちょう)病院』って所に入院してんだけど、見舞いに行かない?」


「篤君って、入院してんの?」


「前にも話したかもしんないけど、あっちゃん体弱くてさ。年に何回か入院する事があるんだよ」


「そうだったんだ…」


体調が悪くて休んでいるとしか聞いておらず、入院しているとは思っていなかった為、龍乃心は驚いてしまった。


「あ、でもアレだぞ? 入院っつっても、念のための入院だからな? 別に深刻な症状って訳じゃないからな」


「そうか…なら良かった。まぁ明日は特に予定無いから良いけど」


「よし、決まりだな! じゃあ明日の13時15分にバス停集合な! バス停は、この間プール行く時に集まったバス停だから! じゃあな!」


騒々しく喋りまくったかと思ったら、用件を言い終わるとさっさと電話を切ってしまった。


「…いっつも一方的だよな…」


龍乃心が呆れながら受話器を置くと、そこへ父親が帰ってきた。


「ただいまー」


「お帰り。そういえば、父さん宛に封筒が届いてたよ。机の上に置いてある」


「父さん宛に? 分かった、ありがとう」


龍乃心の父親にも心当たりが無いのか、やや怪訝な顔をして封筒の封を切って、中身を取り出した。

中には、何やら手紙らしきものが入っていた。


「……」


龍乃心の父親は、真剣な顔で、その手紙を呼んでいた。


「なんて書いてあるの?」


龍乃心も若干手紙の内容が気になっていたらしく、父親に尋ねてみた。


「ん? あ、いや、大した内容じゃなかったよ」


何故か龍乃心の父親は、若干焦った様子で答えた。龍乃心も不思議に思ったが、それ以上深入りするのをやめた。


「あー、後、明日、篤君の入院している病院にお見舞いに行くから」


「篤君…ってのは、今体調悪くて休んでるって言ってた子か。入院してたのか」


「あー、うん。でも、そこまで悪い訳じゃないみたいだけど…」


「そうか。まぁ学校で会えない分、病院で元気を分けてあげておいで。勿論、元気過ぎて病院に迷惑かけるのはダメだよ」


「分かってるよ。元治じゃあるまいし…」


「…なんか最近ダメかどうかの基準点が元治君になってるような…」


次の日、龍乃心は約束の時間より少し前にバス停に着いた。

そこには元治と春樹が既に待っていた。


「おはようございます、明空君」


「春樹おはよう。あと、元治も」


「ついでみたく言うんじゃねぇ!」


「アレ、澄玲と達也は?」


「澄玲は家族との予定があって、達也は風邪」


「達也が風邪って珍しい…」


「そんな事ぁねぇよ。あいつ、ああ見えて貧弱だからちょくちょく休むんだよ。まぁ俺は健康体だから、

そんな事ねぇけど」


「馬鹿は風邪ひかないって言いますしね」


「おい春樹、絶対言うと思ったよ。完全に迎え入れる態勢出来てたかんな!」


「え…風邪ひかないって…馬鹿なのか…? 馬鹿は風邪ひかない…つまり、俺が風邪ひかないのは馬鹿だから…?」


龍乃心は人生に絶望したかのような青ざめた顔でうな垂れてしまった。


「おい、春樹のせいで明空がショック受けちまったぞ」


「み、明空君! 今言ったのはつまり…そ、そう、ただ元治君が馬鹿だっていう事を言いたかっただけで、風邪をひかない事が、馬鹿であると結論付けられる訳では無いので、ご安心を!!」


「いやそれ、ただの俺の悪口じゃねーか。風邪のくだり要らねーだろ」


「そ…そっか、元治が馬鹿なだけで、風邪をひかなくても俺は馬鹿じゃないって事か…。ありがとう春樹、安心した」


「『ありがとう春樹』の前に、『ごめんなさい元治』だろーがぁ!! おめーら人の事をバカにしてそんなに楽しいか!?」


そうこうしている内に、目的のバスがバス停に到着した。


「あ、バス来ましたよ。さっさと乗っちゃいましょう」


「よーし、完っ全に無かった事にしようとしてやがんな。病院着いたら全部あっちゃんに言いふらして、俺が一体どれだけこいつらに虐げられているのか知らせてやっかんな!」


「いいからさっさと乗れ」


龍乃心に急かされる様に、元治は慌ててバスに乗り込み、最後に龍乃心もバスに乗り入れ、無事出発した。前回プールで乗った時と同様、一番後部座席を陣取った。と言いつつも、乗客は元治達以外にいない。


「ここからどの位かかる?」


「んー…確か40分位かな。暇だしトランプでもやるか?」


「やりませんよ。そうやって以前バスの中でトランプして、気持ち悪くなって吐く寸前だったのはどこの誰ですか…」


「いや、あれは偶々調子が悪くって…って明空、俺から離れた席に座り直してんじゃねェ! 分かった、トランプしねぇから! 避けられると地味に傷付くから」


それからしばらくバスに揺られながら山道をひたすら走って行った。

龍乃心はぽけーっと、窓の外に映る自然の景色を眺めていた。


「ロンドンからここに来る時とか、プール行った時も思ったんだけど、ここって山道凄いな…」


「田舎ですからね。田舎に住んで居る自分達からすると、東京の舗装され過ぎた道路の方が違和感ありますね。不自然というかなんというか…」


「東京かぁ…。父さんがよく『あそこは欲望と混沌が渦巻く場所だから、用が無い限り近づかない方が良い』ってたよ」


「明空君のお父さんは東京に何か嫌な思い出でもあるんですか…」


「…さぁ」


「…で、元治君はさっきから何してんですか? 顔真っ青じゃないですか」


「…いや見りゃ分かんだろ、酔ったんだよ」


元治は今にもマーライオンしそうな顔色で窓の景色を眺めていた。


「結局トランプせずとも酔ってるんですか…? この間プールで乗ったばかりじゃないですか」


「それがよー…今日の朝すげぇ腹減ってて、朝ご飯すげぇ食ったんだよ。そしたらすげぇ今気持ち悪ぃの…」


「なんか前にもそんな事言ってませんでしたか、元治君。万が一、君がバスの中で吐こうもんなら、その前にバスから放り投げるんで。明空君が」


「バカヤロー、明空がそんな事する訳ねぇだろ。あいつはいつだって俺の味方さ。なぁ明空?」


「春樹、こいつが吐く直前になったら窓あけてくれ。速攻で放り投げるから」


「ふざけんなおい、タッグ組みやがったこいつら。ちくしょー、覚えとけよ…」


「そんだけ無駄口叩けるんだったら大丈夫ですね。もうすぐの辛抱なので頑張ってください」


そして、ようやくバスは乃蝶病院の前に辿り着いた。

龍乃心と春樹が降り、しばらくしてゾンビの様な出で立ちで元治が降りてきた。


「あーヤバイ…死にそう…」


「あまり病院の前で『死にそう』とか言うもんじゃないですよ。ほら、早く中に入って受付を済ませますよ」


こうして3人は病院の中で入って行った。


「外から見た時も思ったけど…おっきな病院だなぁ…」


龍乃心は病院の広さに感心していたが、横を見ると、既に虫の息になっていた元治が椅子に横たわっていた。


「…仕方ない、僕が面会受付をしてくるので、明空君は元治君を頼みます」


「分かった」


そう言って、春樹は面会受付のカウンターに向かって歩いて行った。

龍乃心は正直「春樹居てくれて良かった…」と感謝していた。

すると一人の老人がこちらに近付いて来た。


「…?」


龍乃心は若干怪訝そうにしながら、老人の方を見た。するとなんだか身に覚えのある姿だった。


「なんだ龍乃心、おめぇこんな事で何してやがんだ?」


「た…辰じいさん…」


まさかの自分のひいおじいさんという、完全に想定していなかった人物に遭遇した龍乃心であった。



※次の更新は09月21日(月)の夜頃となります。

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