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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
30/49

30話 豪邸

長期に渡り、放置してしまい申し訳ございません。

今週より連載を再開します。

村の夏の一大イベントというべき夏祭りが終わり、村全体にはどことなく夏が終わりゆく雰囲気が漂っていた。

龍乃心も例に漏れず、どこか腑抜けた様子であった。


「ははは、なんだ龍乃心、祭が終わって寂しいのか?」


「…別にそんなんじゃないよ…」


父親の揶揄いに、憮然とした表情で対応すると、龍乃心は玄関の方へ向かった。


「龍乃心、どこかに行くのか?」


「うん…別にどこって訳じゃないけど、ちょっと」


「今日は外暑いから、そこの麦わら帽子被ってけよー」


龍乃心は少し嫌そうな顔をしながら、下駄箱のノブにかかっていた麦わら帽子を被ると、家を後にした。


「う…確かに暑い…」


龍乃心は一瞬、外に出たのを後悔したが、こんな秒で家に戻ったら、また何か言われそうな気がしたので、そのまま歩き出した。

ここ緑居村は、地理的には高地にあり、都会に比べれば比較的涼しい方ではあるものの、そこは真夏である。暑いものは暑い。

空を見上げると、立派な入道雲がゆっくりと流れている。

四方八方から響き渡る蝉の合唱が、ややうるさいBGMとして龍乃心の頭に響き渡った。


「日本の夏って、こんなにうるさいのか…」

龍乃心が蝉の鳴き声に参っていると、見覚えのある顔が前からやってきた。


「ありゃ、明空じゃん! こんな所で何してんだ?」


声の主は達也だった。何やらカゴに買い物袋を入れた自転車を押しながらこっちにやって来た。


「いや、別に何って訳じゃないんだけど。散歩してただけっていうか…」


「いやいや、こんな馬鹿みたいに暑い中をか!? お前倒れるぞ!」


「まぁ正直、外に出た事を後悔してるよ」


「おめぇは一体何と戦ってんだよ…。要は暇って事だろ?」


「暇…いや、別に暇って訳じゃ…歩いてるし…」


「それを暇っつーんだよ! じゃあさ、今から俺んち来ない? こんな所一人でブラブラしてたってつまんないだろ?」


「…俺は良いけど、そんな急に行って迷惑じゃ…」


「大丈夫だよ、んな子供が遠慮するこっちゃないから!」


「いや、お前に言われたくないから」


こうして、龍乃心の散歩はあっという間に終わり、達也の家にお邪魔する事になった。


「そういや、他の連中はどうしたんだ? 最近誘いの電話無いけど」


「春樹と澄玲は、それぞれおばあちゃんの家に行くとかで東京に行ってるらしい」


実は春樹と澄玲はいとこ同士で、一緒に東京にある祖父母の家に来ているらしい。

この間の夏祭りの帰り道で、サラッと明かされ、龍乃心は若干驚いたりした。


「えー、マジかよ! そういや言ってたな! くそー、お土産頼むの忘れてたー!」


「元治の奴は夏休みの宿題を一切やって無かったのがバレて、外出禁止令が出たんだってさ」


「あいつマジ馬鹿だろ。確か、去年もおんなじ事言ってた気がするんだけど。学習しねー野郎だな」


そんな感じで軽く近況報告をしながら歩いていくと、達也の家に着いた。

よく見ると、近くに商店街があり、その先には龍乃心達が通う小学校があった。

密かに龍乃心は「便利そうで良いな…」とか思ったりしていた。


「あれ、そういえば達也、商店街で買い物してたんじゃないのか? なんで反対方向から来たんだ?」


「あぁ、母さんがお昼の弁当忘れて、俺がひとっ走りして届けて来たって訳。人使い荒ぇんだから」


文句を言いながら、達也は自宅の門を開いた。

元治の家もそこそこの大きさであったが、達也の家はそれを上回る豪邸であった。

庭も広く、バーベキューも出来そうな位の面積があり、お洒落なテラスも置いてあった。

立派な車庫の中には高そうな外車が3台もあり、龍乃心の度肝を抜いた。


「た、達也の家、でかいし広いな…」


「んー、まぁな。あそこの豪邸には負けっけど」


「あそこの豪邸って?」


「ほら、明空の住んでるアパートの少し先に、バカでけぇ屋敷があんじゃん」


「あぁ…そういえば…住んでる人は見た事ないけど」


「たまーに車が出入りしてるっぽいから、まぁ住んじゃいるんだろーけど。さぁとっとと家の中入ろう」


達也がドアを開けると、豪華な内装が龍乃心を出迎えた。


「ただいまー!」


達也はやや乱暴に買い物袋を玄関に放ると、とっとと靴を脱いで玄関から上がった。

横に長い玄関に、どんだけ靴を収納つもりなのかと思う程の高い下駄箱、そして良く分からないけど、とりあえず高そうなマットが敷いてあった。


「ん? 明空もいつまでも玄関で突っ立ってないで、早く上がれよ」


「あ…うん」


多少気押されながら、達也に連れられ、リビングに向かった。

リビングはリビングで、高そうなテーブルと高そうなソファー、そして高そうな絨毯が待ち構えていた。

壁には何やら有名そうな画家の絵が飾ってあるが、当然龍乃心に芸術の見識は無いので、それがすごいものなのかどうかは分からなかった。


「あれ…誰も居ないのか」


「達也って兄弟がいるのか…?」


「あぁ、姉ちゃんが2人ね。全然良いもんじゃねーけどな」


すると、背後から迫る殺気に気付いた龍乃心は、ハッと後ろを振り返ると、そこには何やらしかめっ面の女の子が立っていた。


「あ…えっと、達也…」


「ん? なんだよ明空…」


言い終わる前に、突然達也は制服姿の女の子にチョークスリーパーを掛けられた。


「ちょちょちょ…誰誰!? マジでふざんけんな! 首締まる…!!」


必死のタップで、ようやく女の子は達也をチョークスリーパーの刑から解放した。


「はぁ…はぁ…げほっ! し…しぬかと思った…」


「…達也大丈夫か?」


「…この状態を見て大丈夫な可能性を見出すのは不可能だな…」


達也は息を整えると、後ろを向き、チョークスリーパー女子を睨みつけた。


「おい(あきら)!てめぇ、何突然俺の首絞めやがった!?」


「あぁ? 達也が先にあたしらの悪口言ったんだろーが…」


昌と呼ばれる少女は、腕を組み、威圧しながら達也を睨み付けている。


「はぁ? 別に何も言ってねぇだろ!!」


「すっとぼけんじゃない。お前リビングに入りながら、自分で何言ったか覚えてない?」


「別に大した事言ってないだろ? せいぜい『姉ちゃんなんて全然良いもんじゃねー』…」


「だーかーらー…」


少女は達也の腕をぐいと引っ張ると、一瞬達也の体が宙に浮かんだ。


「それが悪口だっつってんだろうが、ボケェェェェェ!!!」


「ぐぇぇ!!」


少女は見事なまでの一本背負いを達也にぶちかまし、そのまま絨毯の上に叩きつけられた。

あまりの光景に、龍乃心はただただ唖然とした顔で、無残にも絨毯の上で横たわる達也を見ていた。

※次の更新は08月24日(月)の夜頃となります。

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