3話 元治
「おーい、待てよ明空ー!!」
やっとの思いで、元治は明空に追いついた。
龍乃心の歩くスピードが速かったらしく、追い付くのに時間がかかったようだ。
「…? なんか俺に用?」
「なんだよ、そっけねーな! せっかく追いかけたってのに」
「いや…だから、俺を追いかけて来た理由は何?」
「まぁ…特に理由はないんだけどさ…」
「…お前はバカなのか?」
龍乃心が言わずとも、元治はバカである。
「あ、そうだ、明空って辰じいのひ孫だったのな!! 俺びっくりしちゃったよ!!」
「辰じい…あぁ、あの暴力じじいの事ね」
「はははは、暴力じじいは言えてるよな!! 辰じいの空手教室に通ってたんだけど、まぁ厳しくてさぁ!」
「空手教室…? あぁ、そんな事言ってたかもな。もう辞めたって聞いたけど」
「そうそう、辰じいの奴、腰をやっちまってさ!! ただ、道場はそのまま残してくれるって話だから、そこを使わせてもらってるって訳よ!」
「ふーん」
「ふーんて! 明空、自分の爺さんの事、全然興味ねぇな!! あれでも、一応俺が尊敬する師匠なんだから、あんまりな態度されると俺も傷付いちゃうぜ!?」
「やめとけって、あんな暴力じじい…。大体、師匠ってガラじゃないだろ?」
「まぁじいさんの癖して、子供っぽい所もあるし、なにより怒りっぽいしな。 それでも、俺に空手を教えてくれた師匠だ! そこに関しては後悔してねぇ!」
「…そりゃ良かったな。で、俺にどうしろと?」
「いや、別にどうしろとは特に無いんだけどね」
「…無いのかよ。どんだけ空っぽの状態で、俺を呼び止めたんだよ…」
「まぁそこは気にすんなって! 明空ってなんでロンドンからわざわざこんな田舎に来たんだよ?」
「…父さんについて来ただけだよ」
「へぇー、母ちゃんとはいないの?」
「母親と双子の妹がロンドンに残ってる」
「じゃあ、今は母ちゃん達と別々に暮らしてんのか! 父ちゃんは何の用事でこっちに来たんだ?」
「…仕事だよ」
「なんの仕事?」
するといよいよ悪意の無い質問攻めを受け続けてきた龍乃心は、我慢ならぬの様子で元治を睨みつけた。
「お前、さっきからなんなんだ。ずーっと質問してきて。何がお前をそんなに駆り立てるんだよ!」
すると元治はキョトンとした顔で龍乃心の顔を見つめていた。
「いやだって…友達の事を知ろうとすんのは、別に普通の事だろ?」
「友達…?」
龍乃心は、元治の言っている事が理解出来なかった。
「いつ俺がお前と友達になった…?」
「いつって…昨日俺を助けてくれた時だよ!」
「昨日…?」
「ばっきゃろう! お前、男は一度言葉を交わしたら、もう友達なんだよ!」
「聞いたことないんだけど、そんな事」
「俺の父ちゃんが言ってたんだ」
龍乃心は、呆れ顔をしてため息をついた。
「俺はお前と友達になる気はない」
「なんでだよ! 俺と友達になるのがそんなに嫌か!?」
「別にそういう訳じゃ…。必要がないだけだ」
「おま…さっびしい奴だなー!!」
「お前は殴られたいのか…?」
「友達になるのに理由なんてないだろ!?」
元治の真っすぐな言葉に、龍乃心は戸惑っていた。
なぜ、自分なんかに興味を持ってくるのかを。
「いや…俺、友達いた事ないし…そういうの分からないから…」
「なんだよ、お前ぼっちだったんかよ~!」
「おい、その言い方やめろ…」
「つー事はだな、俺と友達になる理由はないけど、ならない理由もない訳だろ?」
「それは…」
龍乃心は答えに窮してしまった。
「じゃあ決まりだな! 俺とお前は今日から改めて友達だ! 宜しくな!」
「あ…うん」
「じゃ、そういう事だから! じゃあまた今度なー!!」
そういうと元治は走って行ってしまった。
龍乃心はあっけに取られたまま、道の真ん中で立ちすくんでいた。
「変なやつ…」
ポツリとそう呟いてみたものの、龍乃心は不思議と嫌なやっとの思いで、元治は明空に追いついた。
龍乃心の歩くスピードが速かったらしく、追い付くのに時間がかかったようだ。
「…? なんか俺に用?」
「なんだよ、そっけねーな! せっかく追いかけたってのに」
「いや…だから、俺を追いかけて来た理由は何?」
「まぁ…特に理由はないんだけどさ…」
「…お前はバカなのか?」
龍乃心が言わずとも、元治はバカである。
「あ、そうだ、明空って辰じいのひ孫だったのな!! 俺びっくりしちゃったよ!!」
「辰じい…あぁ、あの暴力じじいの事ね」
「はははは、暴力じじいは言えてるよな!! 辰じいの空手教室に通ってたんだけど、まぁ厳しくてさぁ!」
「空手教室…? あぁ、そんな事言ってたかもな。もう辞めたって聞いたけど」
「そうそう、辰じいの奴、腰をやっちまってさ!! ただ、道場はそのまま残してくれるって話だから、そこを使わせてもらってるって訳よ!」
「ふーん」
「ふーんて! 明空、自分の爺さんの事、全然興味ねぇな!! あれでも、一応俺が尊敬する師匠なんだから、あんまりな態度されると俺も傷付いちゃうぜ!?」
「やめとけって、あんな暴力じじい…。大体、師匠ってガラじゃないだろ?」
「まぁじいさんの癖して、子供っぽい所もあるし、なにより怒りっぽいしな。 それでも、俺に空手を教えてくれた師匠だ! そこに関しては後悔してねぇ!」
「…そりゃ良かったな。で、俺にどうしろと?」
「いや、別にどうしろとは特に無いんだけどね」
「…無いのかよ。どんだけ空っぽの状態で、俺を呼び止めたんだよ…」
「まぁそこは気にすんなって! 明空ってなんでロンドンからわざわざこんな田舎に来たんだよ?」
「…父さんについて来ただけだよ」
「へぇー、母ちゃんとはいないの?」
「母親と双子の妹がロンドンに残ってる」
「じゃあ、今は母ちゃん達と別々に暮らしてんのか! 父ちゃんは何の用事でこっちに来たんだ?」
「…仕事だよ」
「なんの仕事?」
するといよいよ悪意の無い質問攻めを受け続けてきた龍乃心は、我慢ならぬの様子で元治を睨みつけた。
「お前、さっきからなんなんだ。ずーっと質問してきて。何がお前をそんなに駆り立てるんだよ!」
すると元治はキョトンとした顔で龍乃心の顔を見つめていた。
「いやだって…友達の事を知ろうとすんのは、別に普通の事だろ?」
「友達…?」
龍乃心は、元治の言っている事が理解出来なかった。
「いつ俺がお前と友達になった…?」
「いつって…昨日俺を助けてくれた時だよ!」
「昨日…?」
「ばっきゃろう! お前、男は一度言葉を交わしたら、もう友達なんだよ!」
「聞いたことないんだけど、そんな事」
「俺の父ちゃんが言ってたんだ」
龍乃心は、呆れ顔をしてため息をついた。
「俺はお前と友達になる気はない」
「なんでだよ! 俺と友達になるのがそんなに嫌か!?」
「別にそういう訳じゃ…。必要がないだけだ」
「おま…さっびしい奴だなー!!」
「お前は殴られたいのか…?」
「友達になるのに理由なんてないだろ!?」
元治の真っすぐな言葉に、龍乃心は戸惑っていた。
なぜ、自分なんかに興味を持ってくるのかを。
「いや…俺、友達いた事ないし…そういうの分からないから…」
「なんだよ、お前ぼっちだったんかよ~!」
「おい、その言い方やめろ…」
「つー事はだな、俺と友達になる理由はないけど、ならない理由もない訳だろ?」
「それは…」
龍乃心は答えに窮してしまった。
「じゃあ決まりだな! 俺とお前は今日から改めて友達だ! 宜しくな!」
「あ…うん」
「じゃ、そういう事だから! じゃあまた今度なー!!」
そういうと元治は走って行ってしまった。
龍乃心はあっけに取られたまま、道の真ん中で立ちすくんでいた。
「変なやつ…」
ポツリとそう呟いてみたものの、龍乃心は不思議と嫌な気分では無かった。
「龍乃心、お前に友達ができるなんてなー!」
龍乃心が声がする方を振り返ると、父親が笑いながらこっちに歩いてきた。
「仕事はどうしたんだよ? ってか、全部見てた?」
「まぁね。仕事はもう終わって今から帰る所だよ」
龍乃心がげんなりした顔で再びため息をついた。
「そんな顔するなって。友達は良いもんだぞ。一緒に遊んだり、時に助け合い。まぁたまに喧嘩もするだろうけど…」
「いや、俺は黙って盗み見してた父親にげんなりしてるんだけど」
「…すみません」
威厳の欠片も無くなってしまった父親と、不機嫌気味の息子はそのまま、自分達のアパートに帰って行った。
一方、家に帰った元治は、今日龍乃心と友達になった事を父親に報告していた。
「でさ、でさ、俺そいつと友達になったんだよ! あ、明空って名前なんだけどさ! やっぱ父ちゃんの言う通り、一度言葉を交わしたら友達なんだなぁ!」
「おぉよ、おぉよ! 俺の言う通りだろ!? 俺の言う事に間違えなんざなんだよ!」
「まぁ度胸試しの件は、散々みんなに言われたけどな」
「それは…まぁ置いといてだな! 元治に友達が出来たっつー事で乾杯といこうじゃねーか! おーい、母さん! ビール二杯持ってきてくれぇ!」
すると、元治の母親は鬼の形相で元治の父親を睨みつけていた。
「…あんた、元治にビール飲ませるってんじゃないだろうね…?」
威勢の良かった元治の父親は急に、蛇に睨まれた蛙の様になってしまった。
「い、いや、ちが…。その、二杯ってのはだな…その、ビールを飲めない元治の分まで俺が飲んで、一緒に祝杯をあげよー…みたいな? 気分だけお酒を酌み交わそうぜー…見たいな? そういった感じの事をですね、私は父親として考えていた訳でしてね…」
「つくなら、もっとマシな嘘つきな! このろくでなし!」
「ろくでなし…ろくでなし…はは、俺はろくでなし…」
父親がまるで呪文を唱える様に、繰り返し、繰り返し呟く光景を、元治はいたたまれない気持ちで見ているのであった。
「そういや、明日は転校生が来るっつってたなー! どんな奴が来るのか楽しみだなー!」
その転校生と、ついさっき友達にまでなっていた事とはつゆ知らず、元治は転校生に胸を躍らせているのであった。
※次の更新は9月23日(月)の夜頃となります。