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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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26話 宵や宵やの祭囃子に誘われて

龍乃心はうだるような暑さに辟易しながらも、どうにかこうにか元治の家に辿り着いた。

龍乃心がチャイムを押すと、中から元治のお母さんが出てきた。


「はーい、いらっしゃーい! 外、暑かったでしょ? 中に上がって♪」


「あ、すみません、ありがとうございます…」


龍乃心は、かなり緊張しながら靴を脱いで上がった。

学校の連中とは流石に打ち解けてきたが、赤の他人となるとやっぱり緊張してしまうようだ。


「元治ー! 龍ちゃん来たわよー!」


「り、龍ちゃん?」


龍乃心は、いきなり公認した覚えのない渾名で呼ばれ、更に動揺してしまった。


「そう、龍乃心だから『龍ちゃん』! そっちの方が呼びやすいし、親しみが沸くでしょ?」


「はぁ…」


龍乃心は、なんとなく元治親子の遺伝子を垣間見た様な気がした。


「じゃあリビングの方に行っててね、元治と達っちゃんが居るから!」


「達っちゃん…達也か…」


龍乃心がリビングに向かうと、既に元治と達也がテーブルのイスに腰掛けていた。


「あ、明空来たか!」


「達也も居たんだ。祭りまでまだ時間あるけど、なんでこんな早くから集まってんだ?」


「いやー、だって家に一人で居ても暇だしよー!」


「なんでもやってりゃ良いだろ? 夏休みの宿題とか…」


「み…明空、お前は言ってはならねぇ事を言ってしまったな…」


「やってないんだな?」


「いや、俺だって釣りとか虫取りとかプールとか海とか、色々忙しいんだよ!」


「それ、ほぼ遊びじゃん…」


「そ、そういう明空は夏休みの宿題、終わったのかよ!?」


「自由研究以外はもう終わったよ」


「な…そんなバカな…こんな事が…」


「そんな言葉失うよな事じゃないだろ…」


「た、頼む明空! 宿題見せてくれ!」


「いや、ふざけんな、自分でやれ」


「ばっきゃやろう! 困ってる時に手を差し伸べるのが友達ってやつだろ!」


「時には厳しく接して、本人の成長を促すのも友達だ」


「お…お前、言うようになったじゃねーか…」


「龍ちゃんの言う通りよ! 全くあんたは楽しようとばかりすんだから…」


「ちぇっ…あ、今日は冷やし中華!?」


「そ、暑いし丁度良いでしょ? さぁ召し上がれ♪」


宿題騒動など忘れたと言わんばかりに、3人は冷やし中華にがっついた。


「美味しい…」


龍乃心は冷やし中華を口にして、思わず言葉を漏らした。


「あら、気に入ったみたいで良かったわ♪ 龍ちゃんは夏休み中、ご飯はどうしてるの? お母さんはロンドンにいるんでしょ? お父さんもお仕事忙しいって聞いてるけど…」


「一応、自分で作ってます」


「あら、自分で作ってるの? 偉いわねー!」


「そんな大したものじゃ…簡単に出来る奴です」


「そんな謙遜しちゃって~。うちの男連中に言い聞かせてやりたい位だわ」


「いや、健在進行形で聞いてましたよ、お母様…」


やがて冷やし中華を食べ終わると、元治の部屋に行き、ファミコンに興じていた。


「はっはっは、いくら料理が出来ても、ファミコンで俺に勝つことは出来ないのだよ、明空君!」


「ファミコンが強くなるのか、料理が作れる様になるのか、どっちが良いかって言われたら、俺は料理を取るけどな」


「うるせーよ、達也! なんでそんな酷い事言うんだよ! ファミコンだってすげーんだぞ!」


「ハイハイ、分かったから、お前はファミコンに費やす時間を、少しは夏休みの宿題に振り分けろ」


「それは…それは違うんだよ、バーカ!」


やがて時間はあっという間に過ぎていき、気付いたら時刻は17時を過ぎていた。


「もうこんな時間か! おいじゃあ、そろそろ行く準備するか」


「いやいや、まだ約束の時間まで1時間近くあるだろーが。ここから深緑神社までだって、歩いてせいぜい15分位だろ」


「いや、念には念を入れて…」


「何の念!? どんだけ祭楽しみなんだよ! もうちょっと待ってろよ、祭は逃げねーから」


「そうだけどさ~」


早る気持ちを押さえきれない元治を龍乃心と元治がなだめながら、やがて時刻は17時40分を回った。


「よし、じゃあそろそろ行くか」


達也がようやくゴーサインを出すと、部屋で転がったまま動かなかった元治が再起動した。


「よっしゃー、祭だー!!」


「どんだけだよ! 祭終わったら燃え尽きる勢いじゃん!」


「緑居村の祭男たぁ、俺の事なんだよ!」


「いや、初めて聞いたわ。ほら、あいつら待たせると悪いから、早く出発するぞ!」


そうして、龍乃心達が元治の家を出ようとすると、元治のおじいちゃんが呼び止めた。


「あれ、爺ちゃん来てたの?」


「ちょっと通りかかったから、寄ったんだよ。達也君に…明空君だったね。こんばんは」


「こんばんはー」


「今から祭に行くんだろ? じゃあホレ、お小遣いだ」


そう言って、元治達にそれぞれ2千円つづ渡した。


「やった! 爺ちゃんありがとう!」


「やだお父さん、お金なんて良いのに…」


「まぁまぁ、祭の時位、多少贅沢したって、バチは当たるまい」


「あ…なんかすみません、お金頂いて…」


「ははは、明空君は相変わらず真面目だね。ワシの気持ちだから、受け取っておきなさい」


「そうだぜ、明空! こういう時は、素直に受け取っておくのが礼儀ってもんだぜ?」


「なんであんたが偉そうに言ってんの!」


「いで!」


元治は、元治のお母さんに頭を小突かれた。


「じゃあ祭行ってくるわ!」


「はーい、あんまり遅くならない内に帰って来なさいよー!」


こうして元治達は、約束の場所に向かった。

深緑神社に着くと既に春樹と澄玲が待っていた。

既に大勢の人達が祭に参加しており、賑わいを見せていた。


「あ、来た来た! おーい!」


澄玲は、こちらに気付くと手を振った。

よく見ると、既に手にはリンゴアメを持っていた。


「もう買ってんのかよ! 俺達待ってくれたって良いだろ~」


「だって、早く買わないと無くなっちゃうじゃん」


「いや、この時間にリンゴアメが無くなる事はないと思うけど…」


「まぁ良いや! そんじゃ祭を思う存分堪能しますか! お前ら祭男の俺についてこいや!」


「え、元治いつから祭男になったの?」


「まぁそういう事にしてといてやれって」


こうして5人は、祭り囃子に誘われる様に、神社の敷地に足を踏み入れて行った。

※次の更新は03月30日(月)の夜頃となります。

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