表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
24/49

24話 真夏の虫捕り少年どもよ ~決闘~ 

十分な数のカブト虫やらクワガタを採取した3人は、その場を後にし、一旦下山して元治の家に戻る事にした。


「いやー、バナナトラップを作って仕掛けたの、今年で2回目だけど、去年の倍は採れたな!」


「去年は、ここいらも天候良くありませんでしたからね」


「ふーん、天気が悪いとあんまり出ないのか」


「まぁ雨が降ってると、俺達が外で遊ばないのと一緒だな」


「いや、全然違います。元治君と一緒にしないでください」


やがて山を下りて、元治の家に戻ってきた。

元治の家には、元治のおじいちゃんが来ていたらしく、虫取りから戻ってきた俺達を優しく出迎えてくれた。


「なんだ元治、友達と虫取りに行ってきてたのか?」


「うん! 見てくれよじいちゃん、今回はこんなにカブト虫達捕まえれたぜ!」


「ホントだな! 大漁大漁!」


外で戦わせると逃げてしまうので、家の倉庫の中で戦わせる事になった。

明かりをつけると、のこぎりやら木材やらが無造作に置かれていた。


「何か随分木材が置いてあるんだな」


「あぁ、父ちゃん大工だからな! 今は辞めちゃったけど、じいちゃんも大工だったんだぜ?」


「へぇー。元治も大工になるの?」


「いやぁまだわかんねぇなー。大工の仕事も見てると大変そうだし…。お、これだこれだ!」


そう言って元治が取り出してきたのは、丸太を切り出した様なモノだった。


「去年、元治君のお父さんに作ってもらった土俵ですね。取ってあったんですね」


「せっかく絵も色々描いたし、捨てんの勿体無くてさ」


確かに木の土俵には、お世辞にも上手とは言えない、独創的な絵が描かれていた。


「この上で戦わせんのか?」


「そうそう、お互いのカブト虫をこの白線の所に置いてと…。じゃあ試しに俺と春樹でやってみせるから、見ててくれよ」


そう言うと、元治と春樹は各々自分のカブト虫を白線の所に配置した。

互いの顔が見えないように、手でカブト虫の顔の方を隠していた。


「じゃあ俺の『カブト虫』の力、見せつけてやんよ!」


「ふふふ、僕の『デスカブトX』だって、負けてませんよ…」


「こえーな、その名前! 俺のカブ丸を殺す気満々じゃねーか」


「名前だけですよ。殺生なんてとんでもない」


「まぁいいや…。じゃあ行くぞ! はっけよーい…のこった!」


元治の合図と共に、二人はカブト虫を隠していた手を取っ払った。


互いのカブト虫は、目が合うや否や、猛然と相手の方に向かって行った。

そして、自慢の角が交わり、微かではあるが、「キシン!」という音が響いた。


「行けぇぇ、カブト丸! 角の長さならこっちが勝ってるぜ!」


「甘いですよ、元治君、角の優劣が全てでは無いって事を教えてあげますよ!」


2匹のカブト虫の息つく暇の無い攻防が続いていた。


「頑張れ、カブト丸! 角を相手の腹の下に差し込め!」


「ふふふ、そうはいきませんよ!」


するとどうした事か、元治のカブト丸は、自分から相手の角の上に腹を乗せてしまった。


「あれ、カブト丸!? お前何してんの!? そんなんしたら…」


「よし、勝負有りです!」


春樹のデスカブトXは、そのまま角を勢い良く上に突き上げると、カブト丸は為す術無く、持ち上げられてしまった。


「スゴイ!」


龍乃心は、思わず手に力が入り、興奮の声が漏れ出た。

そしてデスカブトXは、カブト丸を非情にも土俵の下に叩き落としてしまった。


「か、カブト丸ぅぅぅ!!」


「ふふふ、僕のデスカブトXの勝ちですね…」


「あーあ、負けちまった…。なんで相手の角の上に行っちまったんだ?」


「それはこれのおかげですよ…」


春樹は得意げな顔で、デスカブトXの角の辺りを指差した。

よく見ると、何やら良く分からないものが塗られて入れる。


「…これ何?」


「ふふふ、これの正体は元治君が今日作っていた、バナナトラップです」


「え、なんでこんな所にそんなもんがあんの?」


「ここにバナナトラップを少々塗る事によって、相手はその匂いに引き寄せられて、角しか見えなくなってしまい、先程の様に隙だらけになってしまうというワケです。実は、山を下りる際、密かに頂戴していました。まぁ完璧な作戦勝ちというワケですね♪」


「いやいや、要はそれズルじゃねーか! 何堂々と不正働いてんだ、おめーは!」


「ズルとは心外ですね、見事な作戦勝ちと言って欲しいもんです」


「どんな作戦!? お前、相撲で頭に食い物乗っけて、相撲取ってる奴なんかいねーだろーが!」


その後、元治と春樹は少々揉めたが、結局元治が春樹に言い負かし合いで勝てるはずもなく、渋々負けを認めた。


「じゃあ今度は俺と明空との勝負だ。戦いに出すカブトムシを選んでここに出してくれ」


「えーと…」


龍乃心は真剣な表情で、試合に出すカブトムシを選んでいた。


「じゃあ…俺はこれを…」


そう言って、龍乃心は白線の前に、何故かメスのカブトムシを置いた。


「いや、それメスじゃねーか! オスのカブトムシを出せよ!」


「いや…オスは…」


よく見ると、龍乃心の虫かごの中には、メスのカブトムシしか居なかった。


「明空、お前これ、メスしか居ねーじゃねーか!! オスはどこ行ったんだよ!」


「いや、角がちょっと…」


「お前どんだけカブトムシにビビってんだよ! 別に角で怪我なんてしねーよ!」


「メスだって戦ってみなけりゃ分からないだろ?」


「確かに…戦う前からあーだこーだ言うのは、武士道に反すると言えるでしょう」


「いや、角に食いもん乗っけて戦わせる様な奴に、武士道を説かれる筋合いねーから!」


結局、龍乃心はメスのカブトムシで戦わせる事になった。


「こんなん、戦う前から結果が分かり切ってるだろ…」


元治は半ば呆れながら、カブト丸を白線の所に配置した。

龍乃心もメスのカブトムシを、白線の場所に配置した。


「じゃあ行くぞ…はっけよーい…のこった!」


両者共、同時に手を引っ込めた。

すると、龍乃心のカブトムシは、カブト丸を見るや否や、物凄い勢いで突進していった。

そして、カブト丸はいとも簡単に吹っ飛ばされてしまった。

場外で、ひっくり返ったカブト丸は、悲しくもがいていた。


「あれ…カブト丸…?」


あまりに一瞬の出来事に、元治は言葉を失ってしまった。


「勝負ありましたね…。明空君の勝ちです」


「いやいや、なんだよ今の! すげー勢いでカブト丸吹っ飛ばされたんだけど! ホントにそれカブトムシか!?」


すると、龍乃心のカブトムシは急に背中の羽を広げて、元治にしょんべんをひっかけながら、電球の向かって飛んで行った。


「言いがかりすんなだってさ」


「おーい、ちょっと待てこのカブトムシ、絶対許さねーぞ!」


「元治君、殺生は良くないですよ。しょんべんをひっかけられた位でなんですか」


「いや、しょんべんひっかけられるって、そこそこ腹立つ事だから! おい、明空! 俺のカブト丸ともう一度勝負しやがれ!」


「別に良いけど…。また、俺のアマゾネスにぶっ飛ばされても知らないからな」


「なんかえらい物騒な名前がついてんですけど!」


すると、倉庫の扉が開き、元治のお爺ちゃんが入ってきた。


「ほれ、元治! お母さんがスイカ切ったから、食べなさい言っとるぞ。二人も良かったら、一緒に食べなさい」


「おー、スイカスイカ! よし、春樹、明空! ここは一旦休戦にして、まずはスイカを食おうぜ!」


「そうですね、じゃあご馳走になります」


「あ…その…すみません、俺もいただきます」


こうして、カブトムシがバナナトラップに誘われて木に集まる様に、3人もスイカという誘惑の名に誘われて、元治の家の中に入って行った。

虫かごに戻し忘れられたカブトムシ達は、扉が閉まった倉庫の中で、光に集い、壁に兜の影絵を描いていた。

そんな、或る真夏の日の出来事であった。

※次の更新は03月09日(月)の夜頃となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ