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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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22話 真夏の虫捕り少年どもよ ~夕刻~

7月の終わり。

益々夏の暑さが厳しくなってきた、在るアスファルトが陽炎に揺れる午後。

龍乃心の家に電話が掛かってきた。

この家に掛かってくる電話は、ほぼほぼ一人の人物からしかない。


「はい…」


龍乃心は、暑さに参っている気持ち半分、またアイツからの電話かという気持ち半分 のテンションで電話を出た。


「いや、そのテンション!! 夏休みの小学生のテンションじゃねーだろ、それ」


「うるさい、バカ。俺は暑いの苦手なんだ…」


「あのよ、達也も澄玲も俺が電話掛けると、開口一番『うるさいバカ』って言うんだけど、それお前らの間で流行ってんのか?」


「そんなの俺が知るわけないだろ。いいから、早く用件を言え」


龍乃心は心の中で『お前のそういう一言多い所があるからだろう』と思ったが、これを言うと、また話が長くなりそうだったので、心の中で留めた。


「あのさ、明日の早朝、虫取しに行かねぇか?」


「行かない。じゃあ」


「ちょーーーっと待てーーい!!」


龍乃心が速攻で受話器を切ろうとした所を、元治は決死の叫びで呼び止めた。


「なんだよ?」


「どんだけ速攻で誘いを断んだよ!」


「いや、行きたくないからだよ」


「バカ野郎、お前男たるもの、夏の虫取もしねぇでどうすんだよ!」


「逆になんでこの暑いのに、虫を捕まえなきゃいけないのか、理解が出来ないんだけど…」


「こーのロンドン小僧が! お前は日本の夏をちっとも分かってない! 俺が叩き込んでやるから、夕方の17時に俺んち来い! 」


そう言って、一方的に掛かってきた電話は、一方的に切れてしまった。


「誰からの電話?…って、ここに電話描けてくるのは、元治君くらいしかいないか」


そう龍乃心に話しかけてきたのは、龍乃心の父親だった。


「元治が、虫を捕まえに行こって…。なんで虫を捕まえにいかなきゃいけないんだ…」


「虫取りー、懐かしいな! 父さんも子供の頃、よくやったよ」


「虫を捕まえるのを?」


「龍乃心、本気で引くのやめて。父さん、割と傷付くから」


「だって…なんの意味があって無視なんか捕まえるんだよ?」


「まぁ龍乃心達は、あっちで虫捕りなんかした事なかったもんなぁ」


「いや…別にしたくもなかったけど…」


「丁度良い機会だから、是非元治君と虫捕りに行ってきなよ」


「いや、だからなんで…」


「何事も体験するのが大事なんだよ。辰じいさんも言ってたろ?」


「うぅ…なんでもかんでも体験すりゃ良いってもんでもないだろうに…。体験するものを選ぶのだって大事じゃないの?」


珍しく龍乃心はゴネていたが、結局その日の夕方、約束通り元治の家に行った。

基本的に龍乃心は、お人好しな所がある為、あまり断れない性質でもある。


「お!? 明空、ちゃんと来たじゃんか! やっぱり虫捕りが気になってきた感じ?」


「…別にそんなんじゃないけど…。で、虫取って一体何すんの? 焼いて食うの?」


「ちげぇーよ! 魚釣りのスタンスと一緒にすんじゃねぇ! 捕まえて飼うんだよ!」


「?? 虫を? バカじゃないのか?」


そもそも龍乃心がずっと住んでいたロンドンでは、虫を捕まえるだとか、捕まえた挙句、飼うだなんて習慣や遊びが存在しないので、龍乃心がこういう反応をするのは、ある意味仕方がない事なのである。


「バカ…またお前は人をバカ呼ばわりしてよー! 今日は昆虫のロマンを徹底的にお前に叩き込んでやるからな!」


そう言って、元治は事前に用意してあったと思われる網目の何かを取り出してきた。


「…何それ」


龍乃心は怪訝な顔をしながら、元治が持ってきたものを見つめた。

その正体は、バナナを焼酎と砂糖に付け、数日間発酵させた物だった。

ものすごく甘ったるい強烈な匂いが、龍乃心の鼻を直撃した。


「これは、一昨日、父ちゃんに手伝ってもらって作った、バナナトラップだ!」


「へぇー…。で、それを食べるの?」


「食うか! これを今から木に塗って、準備するんだよ」


「これを…? 何の為に?」


「これを今の内に塗っておけば、夜にはカブトムシとかクワガタがわんさか出てくるんだよ!」


龍乃心にとって、カブトムシもクワガタも全く知らない単語だったため、一体元治が何をしでかそうとしているのか、半分も理解できなかった。


「というわけで、今から山へ行きまーす!」


「えぇ…今から? 良いよ、もうそれ見たから…」


「いや、別にこれメインじゃねぇから! いまからこいつを使ってトラップを仕掛けに行くんだよ! 明空も一緒に行くんだよ」


「えぇ…」


結局、元治の熱に負け、龍乃心も一緒に山にトラップを仕掛けに行く事になった。

歩く事30分、二人は里山に辿り着いた。


「ここが沢山捕れるポイントなんだよねー!」


「同じ木でもなんか違うのか?」


「いやー、全然ちげぇんだよ、これが! 俺も今まで色々な木を試してきた結果、ここの木に行きついたってワケだ」


「へぇー…」


「お、明空も興味出てきたか?」


「いや全然」


「あーそうかい!」


こうして二人は手分けして特製バナナトラップを仕掛け終わると、一旦山から引き上げる事にした。


「よし、こんなもんだろ! 夜が楽しみだなぁ!」


「…元治、こんなんでホントに虫が湧いて出てくんのか?」


「湧いて出てくるって言い方、なんか嫌だな! 大丈夫、バナナトラップの力を信じろ!」


「いや、別に出なきゃ出ないで良いけど…」


「は、そうやって興味無さそうなフリしてられるのも、今の内だからな!」


こうして、俺達は一旦解散し、各自家路に着いた。


「ただいまー…」


「お、龍乃心、どうだった? 何か取れたか?」


龍乃心の父親は、楽しそうに話しかけてきた。


「いや、まだ何も…。なんかバナナトラップというワケの分からん奴を仕掛けてきて、一旦解散。また、後で元治の家に集合だって」


「バナナトラップかぁ…なんか本格的だな!」


「…父さんもバナナトラップ知ってるの?」


「作った事は無いけどな。じゃあ夜が楽しみだな!」


「別に楽しみじゃないよ…。なんで虫なんか…」


こうして、なんやかんや言いつつ、龍乃心は夜になるを待つのであった。


※次の更新は02月24日(月)の夜頃となります。

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