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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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21話 プール④

結局、元治と澄玲、そしてプール監視員は揃って、他のプール監視員にこっぴどく叱れていた。

元治と澄玲はとぼとぼと戻って来た。


「おい、馬鹿共、お前らホントに何やってんの?」


「だってこいつが…」


「だっても何もありますか。どっちもどっちです。少しは反省してください」


「あ…はい」


元治と澄玲は、力なく頷いた。


「それと、おっさんはとっととプールの監視に戻れよ! 何、一緒に来てんだよ」


「あ、はい、すみません」


プールの監視員のおっさんは、背中を丸めてプールの監視台に戻った。

その後ろ姿はなんとも哀愁が漂っていた。


その後、6人は大人しく平和にプールで遊んでいた。

龍乃心がプールから上がり、ひと休みしていると、法華津君もプールから上がり、龍乃心の元にやって来た。


「ふぅー、今日は沢山泳いだなぁ! 明空君はホントに泳ぎが上手いね!」


「じいちゃんに教えてもらったから…。法華津君も泳ぎが上手いね」


「僕はリハビリの時に泳ぎをしていたんだけど、それから泳ぐのが楽しくなってきてさ!」


「リハビリ?」


「うん…僕、昔から体が弱くて、あまり遊びにも行けないし、しょっちゅう病院通いだから…」


「そっか…だから、学校に居ない日が多かったのか…」


事実、法華津君は学校に居ない事が多く、最初のドッチボールの時も、体調が悪くて休んでいた。

その為、今まで龍乃心は、法華津君と接点を持つ事が無かった。


「じゃあ今日、いきなり元治から電話で呼ばれた時、大変だっただろ?」


「あははは、確かにちょっといきなりだったから、大変だったけど、嬉しかったよ。元治君、僕があまり普段友達と接する機会が無いから、こうやってたまに遊びに誘ったりしてくれるんだ」


「へぇー、アイツが…」


「口ぶりはあんなんだし、ちょくちょく耳を疑う様な発言もするけど、根はスゴい優しいんだ♪」


「ふーん」


龍乃心は、法華津君の話を聞いて、元治との今までのやり取りを振り返っていた。


(もしかして最初の頃とか、やたらと俺を何かに誘ってたのって、俺がクラスのみんなと打ち解ける様に…?)


「まぁ考えたって分からないか…」


「ん? 明空君、何か言った?」


「いや、なんでも無いよ。さて、そろそろ中に…」


龍乃心がそう言いかけた時、元治と達也が龍乃心に思いきり水をかけた。


「オラオラ、明空、いつまでボーッと休んでんだよ~」


大量の水をかけられた龍乃心は、無表情でプールに入り、無表情で元治と達也目掛けて泳ぎ出した。


「よしよーし、明空いいぞ! って、ちょっと恐いから、無言でこっち来んのやめて! おい、ちょっと聞いてる!?」


元治と達也、龍乃心の追いかけっこが始まった。


「ちょっとあんた達、また怒られるから、程ほどにしなよ~!」


「澄玲さん、それをあなたが言いますか」


「さ、さっきのはもう反省してるって!」


「冗談ですよ」


「春樹の冗談は、冗談に聞こえないんだよね…」


「今回は自業自得でしょう。法華津君はもう泳がなくて良いんですか?」


「うん、僕はもう良いかな! 十分楽しんだし、あんまり調子に乗ると、また体調崩してみんなに迷惑掛けちゃうし…」


「まぁ無理は禁物ですね。時間も時間ですし、僕達は先に上がりますか」


「あ、うん、でも3人がまだ泳いでるんじゃ…」


「大丈夫大丈夫、アイツら戻ってきたら、私が伝えとくから! 体冷やしちゃうし、二人はとっととシャワー浴びて着替えてきな」


「じゃあ3人の事頼みました」


しばらくすると、泳ぎ疲れた元治と達也、そして割と元気な龍乃心が一斉にプールから上がった。


「あり? あっちゃんと春樹は?」


「少し前にプールから上がって、着替えに言ったよ」


「そかそか。もうすぐ16時になるし、俺達も出るか。達也と明空も上がろうぜ!」


「了解~! っつーかもう、泳ぎ疲れてこれ以上は無理だわ…」


「そうか? 割と俺は余裕あるけど…」


「いや、体力オバケのお前と一緒にすんじゃねー! つーか明空にずっと追われ続けたからこんなに疲れてんだよ!」


「悪い、つい夢中になっちゃって…」


「ふーん、まぁそれだけ楽しかったって事だな、それは」


「楽しかった…」


龍乃心は思わずその言葉を復唱した。


「今日誘ってくれたの、元治なんだし、楽しかったって伝えてやれば? アイツ、多分喜ぶぜ!」


「…なんかそれはやだ」


「あはははは、明空も言うなぁ! さぁ俺達もとっとと上がろうぜ!」


こうして、元治から少し遅れて、達也と龍乃心もプールから上がり、着替えを済ませた。


「いやー、全力出したな…。もう動けない…。誰か俺をおぶってくれ~」


全エネルギーを使い果たした元治は、室内にある休憩所のベンチで横になっていた。


「帰りはバス乗ってるだけだろ? グダクダ言ってんな」


「違いますー、俺とか明空は、バス停からも結構歩くんですー! だから辛いんですー!」


「知るか、んな事。明空、元治の子守り頼んだわー」


「いや、俺は普通に帰るよ」


「一秒たりとも、気に掛けないのかよ!」


やがて、法華津君のお父さんが車で迎えに来た。


「みんな、今日は篤と遊んでくれてありがとう。みんな泳ぎ疲れてお腹が空いてるだろ? アイス買ってあげるから、みんな好きなの選びなさい」


「マジで!? おじさん、ありがとう!」


法華津君のお父さんの言葉を聞くなり、物凄い勢いでベンチから飛び上がると、アイスの販売所の方へ猛ダッシュした。


「いや、お前滅茶滅茶元気なんじゃねーかよ!」


達也の言葉もいず知らず、とっくの昔に元治はアイスの目の前に到着し、アイスの物色をしていた。


「すみません、アイス奢って…」


澄玲は、礼儀正しく法華津君のお父さんにお礼の言葉を述べていた。


「あはは、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ! こちらこそいつも篤と仲良くしてくれてありがとう」


そして、みんな各々好きなアイスを選び頬張っていると、なんと、みんなの事を法華津君のお父さんが、車で送ってくれる事になった。


「なんか何から何まですみません…」


「何々、どうせ帰る方向は一緒なんだし、全然構わないよ。さっきも言っただろ、畏まらなくても良いって」


「そうだぞ、澄玲、もっとどんと構えてこうぜ!」


「あんたはもっと遠慮しなさいよ! バカなんじゃないの!?」


「オイコラ、バカは余計だよ!」


「いや、バカは余計じゃないな、全くその通りだ」


「お前ら、ホントに隙あらば、俺をバカ呼ばわりすんのな!」


車内は笑い声が絶えない愉快な空間と化し、外から射す、薄い茜色の空が車内を暖かく照らした。


「そっか…俺、今日楽しかったんだ…」


誰にも聞き取られない位、龍乃心は小さな声で呟いた。

やがてその呟きは、外から射す茜色の光の中に溶けていった。

※次の更新は02月17日(月)の夜頃となります。

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