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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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20話 プール③

「おらあぁぁぁ!! 行くぞ、てめぇらぁぁぁ!!」


元治はよく分からない大声を上げながら、プールに飛び込もうとした。

すると、速攻でプール監視員の吹く笛が鳴った。


「バッキャ野郎、小僧ぉぉ!! プールは飛び込み禁止だっつってんだろうが!! ぶっ飛ばされてぇのか、この野郎!!」


おおよそプール監視員あるまじき罵声を元治に浴びせた。


「あ、はい、すんません…」


先程までの勢いはどこへやら、元治は行儀よく、階段を使って静かに入って行った。


「元治は相変わらずバカだなぁ…普通にプールに入れないのかよ…」


「僕はあのプール監視員のガラの悪さに驚いてますが…」


「プール監視員っていうのは、みんなあんな感じなのか?」


「いや、違うから明空、あんな監視員そうそういねぇーから」


「おっかない…。私達も下手な事しないように気を付けなきゃ」


それから、元治に続いて、明空達もゆっくりとプールの中に入った。


「そういや、明空ってプールとか来た事あんの?」


「うん…前に家族で来た事はあるよ。ここまで広いプールじゃなかったけど」


「成る程、経験してたにもかかわらず、水着忘れてきたんか。ちなみに泳げる?」


「まぁ普通には泳げるよ」


そう言うと龍乃心は、魚雷なんじゃないかと思う程のスピードで、少し離れた所でプカプカ浮いていた元治目掛けて泳ぎ始めた。


「普通とは!?」


あっという間に龍乃心は元治の元に辿り着いた。


「うわ、ビックリした! 魚雷でも飛んできたのかと思ったわ! ってちょちょちょちょちょちょ、タンマ!!」


その時の衝撃で、大量の波が押し寄せ、元治が飲み込まれていった。


「助けて助けて助けて!!」


元治は必死の形相でもがき、なんとか龍乃心が巻き起こした波から脱出した。

すると、再びプール監視員の笛が鳴った。


「ば、バッキャ野郎、お前なんちゅー波を発生させてんだ!! そんなんされちゃったら、助けに行けないだろーが!! 俺は泳げねーんだぞ!?」


「いや、おっさんプール監視員なのに、泳げねーんかい!」


さっきの憂さ晴らしとばかりに、元治の渾身のツッコミが場内に響いた。


それからようやく全員がプールの中に入った。


「二人とも、もう少し大人しくプール入ってくれよ、次やったら追い出されるかもだぜ?」


「はい、すみません…」


さっきので相当懲りたのか、元治はかなりしおらしくなっていた。


「さて、どうしましょうか? とりあえずは普通にプールを回ってますか?」


「そうだな…最初は軽く慣らすか。あっちゃんは大丈夫そうか?」


「うん、僕は大丈夫だよ!」


「よーし、そこのバカ二人、俺達もそっち行くから、そこで待ってろ」


「え、俺もバカ呼ばわり…?」


元治と人くくりにされてしまった事は、龍乃心にとって、少なからずショッキングな出来事であった。

若干、放心状態になってしまった。


「オイコラ、明空、俺と一緒にバカ呼ばわりされたのが、そんなに嫌か?」


やがて、みんな合流すると、とりあえず流れるプールで流れる事にした。


「いやー、流れるプールって楽だよね~。私好きだわ」


「僕も同意です。体力の消耗を最小限に抑えつつ、流れている時の景色を堪能出来る素晴らしいシステムと言えるでしょう」


「私そんな深読みして言った訳じゃないから! 大体、ここ室内だし、景色もへったくれも無いでしょ」


「いや…春樹、景色という点で言えば、俺も同意せざるを得ないぜ」


「あんたも何言ってんの? 景色なんか無いって…」


「バカ野郎、あそこを見てみろよ! それはそれは立派な山がそびえ立ってるじゃないか!」


元治が指差す方には、女子大生らしき三人組が、キャッキャウフフしながら、歩いていた。


「あんたホントにバカじゃないの? 」


「バカはお前だ、バカ野郎! あっちの山々に比べてなんだお前は! ほぼ断崖絶壁じゃないか!」


「達也~、なんかペンチかなんか持ってない? このクズ、マジで水底に沈めるから」


「いや、持ってねえし、貸すわけねぇだろ、そんな危ないもん…」


すると、澄玲はプール監視員の方に向かって真っ直ぐ歩いて行った。


「澄玲の奴、プール監視員の所に行って、何してんだ?」


すると、何やら水底に沈んだものを掬うための棒のを、監視員から強奪していた。


「え、マジでアイツ何してんの?」


達也や龍乃心が見ていると、澄玲は元治目掛けて、棒を振り回しながら、追いかけ始めた。

当然、元治は猛然と逃げ始めた。


「ちょちょちょちょ、おい待てぇぇ!! お前、それ一体何持ってんだよ! しかも、後ろからさっきのおっさんも追い掛けて来てんじゃねーかよ! しかも浮き輪してるし!!」


「大丈夫、あんたが大人しくしてれば済む話だから」


「おい、待たんか小娘があああああ!! 何俺の大事な道具を奪っとんじゃあああ!!」


「丁度いいわ。ちょっとおじさん相談があるんだけど、良い?」


「な、なんだ?」


すると、何やら澄玲とおっさんが小声で話し始めた。


「澄玲の奴、プール監視員のおっさんまで巻き込んで、一体何してんだ…?」


すると、何やら二人の間で何かしらの協定が結ばれたらしく、二人はハイタッチしていた。


「え、なんか澄玲とおっさんがなんかハイタッチしてんだけど。明空、春樹、あっちゃん、今から何が起きようとしてんの?」


「いや…俺に聞かれても…。あれ、なんか動き出したぞ?」


何故か澄玲とプールの監視員のおっさんは二手に分かれ、それぞれ反対方向に進み始めた。

澄玲は流れるプールの方向、おっさんはその反対方向に進みだした。


「アレ…もしかして、二人で元治を挟み撃ちにしようとしてる…?」


すると、遠くから元治の悲鳴が聞こえた。


「なななな、なんでプールの監視員が俺を追ってくんだよ!! 俺、別に今はなんも悪い事してねーだろ!!? 浮き輪したおっさんが追ってくるとか、ホラーだわ!!」


「うっさいわ!! さっき小娘から事情は聞いたぞ! なにやらあの小娘が、俺からあの棒を奪ったのはお前が原因らしいな!! そこで、お前を無事に捕獲する事が出来たら、小娘から棒を返してもらえる手筈になってとるんじゃい!!」


「何おっさん小学生に買収されてんだよ!! 恥ずかしくねーのか!? ってか、あんな棒あってもなくても変わんねぇだろ!! 何に使うんだよ!!」


「バカ野郎、あれがあると無いとでは雲泥の差なんだよ!! あれ、持ってないと落ち着かないんだよ!! それにアレ、剣みたいでカッコイイだろうが!!」


「いや、仕事しろよ!!」


すると、おっさんは通りがかりの同僚に大声で叫んだ。


「おう高木! 俺は今、この通り忙しいから、プールの監視を代わりに頼んだ!!」


「いや、どの通り!? その状況意味が分からないんですけど! あんた、仕事も放りだして、小学生追い回して何してんすか!?」


すると、今度は元治の前方に、棒を持った澄玲が猛然とやって来た。

その姿は、金槌か何かを持った閻魔大王とでも言えよう。


「おら、バカ元治ぃぃぃ!! 覚悟ぉぉぉぉ!!」


「いやあああああああああああ!!」


元治の悲鳴と共に、物凄い音と、巨大な水飛沫がプール室内を震わせた。


「…やっと終わったな…」


「あのさ、達也…」


「ん? どうした明空」


「プールって…怖いな」


「…だな」


しばらくすると、放心状態の表情で天井を見上げながら、仰向けに浮いている元治が流れてきた。


※次の更新は02月10日(月)の夜頃となります。

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