19話 プール②
あろうことか、龍乃心はプールに行くのに、水着を持ってきていなかったのである。
「いや、明空お前、水着持ってきて無いのかよ!?」
「そういえば…俺、水着持ってなかった」
「り、龍君、水着も無しにどうやって泳ぐつもりだったの?」
「……そのまま…」
「服着たままプール入れるワケねーだろ! 速攻でプールから摘まみ出されるわ!」
「まぁ…恐らく、プールの施設の中に水着ならいくらでも売ってるでしょうが…」
「水着って幾ら位すんのかね?」
「うーん…4~5000円とか?」
「うへー、大金じゃんか! 明空、そんな金あんのか?」
「確か…家出る時、1万5000円渡されたけど…」
「1万5000円!? なんでプール行くだけで、そんな大金渡されたんだよ!」
「さぁ…」
「恐らく、明空君のお父さんは、明空君が水着を持っていないのを見越して、多めに持たせたのでは?」
「そう…なのかな?」
「成程、明空の父ちゃん、やるなぁ!」
勿論、明空の父親にそんな考えがあった訳ではない。
自分の息子が遠出に行くのに、これだけ渡せば大丈夫という心配性と大雑把さが入り混じっただけのものだった。
「まぁそれなら問題無いな! じゃああっち着いたらみんなで明空の水着選んでやろうぜ!」
「いいなぁソレ! 俺のセンスが唸るぜ!」
「元治のセンスなんか当てに出来たもんじゃないけどな」
「なんだおい、バカ達也、なんか言ったか?」
「いーやなんでも?」
「そろそろ、その辺にしときましょう。みんな次のバス停で降りますよ」
こうして明空達は、市民プール前のバス停で降りた。
本格的な夏シーズンという事もあり、そこそこ人で賑わっていた。
「いやー、着いた着いた。やっぱり、人がいっぱい居んなぁ」
「あれ、元治、そういえばあっちゃんとは、プールの入り口の前で待ち合わせだっけ?」
「そうそう、だからまず、入り口の方へ行こうぜ!」
そうして、元治を先頭にプールの入り口に向かった。
すると、比較的小柄な春樹よりも、更に小柄な少年が入り口の前に立っていた。
「居た居た、おーーい、あっちゃーーん!!」
元治が叫ぶと、小柄な少年も笑顔で手を振っていた。
「悪ぃ、あっちゃん、待たした?」
「ううん、大丈夫だよ! 僕もついさっき着いたばかりだから!」
「あっちゃん、体調はどうだ?」
「うん、今日はばっちりだよ! 最近、調子良いんだ!」
「そっかそっか、良かった! あれ、もしかして龍君とあっちゃんって、一緒に遊ぶの初めてだっけ?」
「うーん…多分、初めてかな…?」
「そうだね、明空君とは、学校以外では初めて会うかもね! という事で、宜しくね、明空君!」
「…うん、宜しく」
「じゃあ二人の挨拶も済んだ事だし、早速龍君の水着を選びに行こう!」
こうして、6人はプール施設の中に入った。
中にあった売店コーナーに向かうと、様々な種類の水着が売っていた。
「あー見て、この水着♪ めっちゃ、可愛くない!?」
「いや、別にお前の水着買いに来たわけじゃないからな」
「分かってるって! あれ、龍君はどこ?」
澄玲が辺りを見回すと、龍乃心は春樹と一緒に水着を物色していた。
「居た居た、龍君は買う水着決まったの?」
「うん、これにしようかと…」
龍乃心がそう言いながら、澄玲に見せたのが、ハーフタイプで、髑髏のガラが入った非常に柄の悪いものだった。
「りゅ…龍君、これは…?」
「? いや、これにしようかなと…」
「いやいやいやいや、何この柄の悪い水着!? 流石にそれはやめなさい! そもそも、なんでこんなのが市民プールに売ってんの?」
「いや、カッコイイかなって思って」
「龍君はもっと、爽やかな水着が似合うから! 水色主体の奴とか」
「爽やか…俺に似合うか?」
「少なくとも、その髑髏の気味悪い水着よりはマシだから!」
「き、気味が悪い…」
龍乃心なりに、一生懸命に選んだので、多少ショックを受けてしまった。
結局、澄玲が選んだ水色のハーフパンツタイプの水着に決まった。
それから、各自水着に着替え、準備体操を済ませると、プールの前に集まった。
「よーし、てめぇら集まったな。そいじゃ夏の第1ページ、めくるとしますかい」
「なんだ、元治それ? 昨日見たドラマでやってたシーンのアレンジかぁ?」
「うっせーな、言ってみたかったんだよ! じゃあとりあえず遊ぶぞー!!」
「おぉー!!」
こうして、龍乃心達の夏が始まった。
※次の更新は02月03日(月)の夜頃となります。