表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
18/49

18話 プール①

季節は7月。

日に日に太陽の熱が、暑さを増してきており、緑居村に夏をもたらしていた。

緑居村は山の中にある事もあり、全国的に見れば、夏の気温は低い方だが、それでも暑い事には変わりが無かった。


「いやー、暑いな…」


「父さん、さっきからうるさい…」


「いや、だって…」


息子に怒られた父親は、汗を流しながら書物の整理をしていた。

どうやら今日は、家の中で作業をするようである。


「暑いって言葉にすると、余計に暑く感じるから口に出さない方が言ってた」


「誰が?」


「じいちゃん」


「…気を付けます」


おおよそ父親らしくない返事をして、再び書物の整理をし始めた。


「今、考えるとロンドンの夏って、過ごしやすかったんだなぁ」


「…それは確かに」


実際、ロンドンは日本に比べると夏の暑さはここまでのモノではなく、夏の最低気温が10℃を下回る事も、ママある。

なので、二人には日本の夏の暑さが余計に堪えるのである。


それからしばらくしてから、家の電話が鳴った。


「悪い、龍乃心、父さん今、手が話せないから、電話出てくれないか!」


「はい」


そう言って、龍乃心は、若干めんどくさそうに立ち上がると、電話の受話器を取った。


「もしもし…」


「あ、もしもし!? 明空? 俺だけど!」


「えーと…どちら様?」


「いや、絶対分かってるだろ! 元治だよ!」


受話器の向こうからは、元治の騒々しい声が聞こえていた。

そもそも、龍乃心の家に電話をかけてくるのは、元治位である。


「なんか用?」


「何も用無いのに、わざわざ電話するわけねーだろ! 誘いの電話だよ!」


「誘いの…?」


「明空って、この山の麓まで降りてった所に、市民プールあんの知ってる?」


「…あぁ、こっちに引っ越して来る時、なんか見た気がする」


「明空が予定空いてるんだったら、みんなでそこ行かない?」


「みんなでって、誰が来るの?」


「いつものメンバーだよ。達也と春樹と澄玲、あと、あっちゃんも来るぜ!」


「いや、いつものメンバーじゃないのも居ただろ。あっちゃんって、法華津(ほつけ) (あつし)君の事?」


「そうそう! 明空含めて、6人で行こうかなって考えてんだけど、どうよ?」


「予定空いてるから良いけど…当日言うなよ。せめて昨日とかに…」


「悪ぃり、悪ぃり、それが今日急に行きたくなっちまって…」


「じゃあ今から、学校前のバス停で集合な! じゃあ!」


そう言うと、元治はとっとと受話器を切ってしまった。

龍乃心は、やれやれといった感じで受話器を置くと、のそのそと準備を始めた。


「父さん、今からちょっと出掛けてくるよ」


「なんだ、元治君からの誘いか?」


「うん…みんなでプール行こってさ」


「友達とプールかぁ…父さんも、子供の頃よく行ったよ。楽しんで来なよ。ほら、これ小遣い」


「良いよこんなに」


「なんかあっても困るだろ? 良いから持ってきなさい」


「大袈裟な…」


かなり雑な金額のお金を持たされた龍乃心は、荷物を持って玄関に向かった。


「じゃあ行ってくるから」


「あぁ、気を付けて行きなよ」


そう言うと、龍乃心はとっとと家を出ていった。


「あれ、そういや龍乃心って…水着持ってたっけ?」


龍乃心、痛恨のミスである。

そうとは知らずに、軽い荷物だけを入れたカバンを肩に掛けた龍乃心は、真っ直ぐバス停に向かった。

途中、目の前に、見た事ある様な後ろ姿を見つけた。

近くまで行って、ようやくそれが元治である事に気が付いた。


「元治」


「うぉぉ!? …ビックリした、明空かよ…。背後からいきなり話しかけんなよ、驚くだろ!」


辺りに響き渡る、すっとんきょうな声をあげながら、龍乃心の方を振り向いた。


「いや、むしろお前の声にビックリするよ…」


「と、とりあえずバス停向かうぞ!」


若干恥ずかしそうにしながら、元治はバス停に向かって歩き出した。

それを追うように、龍乃心も歩いて行った。


学校前のバス停が見えてくると、既に他の4人が集まっている事が確認できた。


「おー、来た来た! 丁度後ちょっとでバスが来るから、いそげー!」


達也の言葉通り、龍乃心と元治がバス停の前に到着して間もなく、市民プールに行くためのバスが到着した。

元治達はバスに乗り込むと、一番後ろの席に固まって座った。


「いやー、ナイスタイミングだったな!」


元治が得意気な顔をして、深く席に腰掛けた。


「なーにがナイスタイミングなの? ギリギリも良い所じゃん。急に準備させられた龍君はともかく、なんであんたが最後なの?」


「バッカヤロウ、澄玲と違って、俺だって色々準備があったんたよ!」


「いや、何も無いでしょ。それより、龍君いやに荷物少ないね。水着とかは?」


「水着…?」


「…うん、いや、水着だよ水着!」


しばらく龍乃心は、ボーッと何かを考えていた。


「明空…?」


「そういや、水着持ってなかった…」


……。


「そんなバカなぁぁぁぁ!?」


元治の叫びがバスの中に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ