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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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14話 雲母澄玲

5月、すっかり暖かくなり、どこか夏の陽気さえ感じさせる日々。


この日、龍乃心は珍しく一人での下校中だった。

いつも一緒に帰っている元治は、委員会の集まりの為、居残り中である。

元治は、龍乃心が一人で家まで帰れるかという要らぬ心配をしていたが、龍乃心からは「バカにするな」と至極真っ当な返事を返された。


(たまには一人で帰るのも、静かで良いな…)


龍乃心自身、別に元治と一緒に帰るのが嫌なワケでは無かったが、一人で下校するというのが新鮮で、若干胸踊る気持ちだったのも事実だ。


そんな感じで龍乃心が家を目指して歩いて行くと、何やら後ろから声が聞こえる。


「なんだうるさいな…」


龍乃心が後ろを振り向くと、何やら見覚えのある連中がこちらに向かって、走ってくるではないか。


「えー…一体何…?」


龍乃心は、せっかくの家路が邪魔される予感がして、辟易としていた。

やがて、こちらに走ってくるのが、雲母澄玲と、隣のクラスの男子連中なのが分かった。


「あ、龍君じゃん! おーい!!」


澄玲が龍乃心に気付き、大きく手を振って見せた。

すると、澄玲は何故か龍乃心の後ろに隠れてしまった。


「龍君、聞いてよ、コイツらホントにしつこくてさ!」


遅れて、隣のクラスの男子連中がやって来た。


「おい、なんだよお前、雲母さんと仲良さそうにしやがって!」


「俺達は、雲母さんに用があるんだよ!」


龍乃心はめんどくさい事に巻き込まれてしまい、心底うんざりしていた。


「おい、なんだよ! なんとか言えよ!」


(なんとか言えと言われても…別にコイツらに言う事何て無いんだけどな…。喋った事も無いし…)


「な、なんだよ、やんのかよ…!」


(…え、何をやるの? もしかして、コイツら俺を遊びに誘ってるのか? …でも今は帰ってる途中だし、せめて荷物だけでも家に…)


「え、ちょっと、なんでお前ずっと黙ってんだよ…!」


(…そっか、確かに何も言わずに黙っているのは良くないってよく父さんに言われたな。そういえば、初めて会う人には笑顔で接すれば良いって、元治が言ってたっけ?)


すると、龍乃心なりの笑顔を隣のクラスの男子連中に披露して見せた。

但し、普段、愛想笑いも苦手な龍乃心が見せた顔は、お世辞にも笑顔とは言い難い、歪な魔顔になってしまった。


「わ、わぁー! 逃げろ!!」


男子達は、龍乃心の渾身の笑顔を見や否や、一目散に逃げて行ってしまった。


「あれ…逃げて行っちゃった。なんだ、元治の奴、嘘ばっかりだな…」


龍乃心は、元治に対するいわれの無い文句を呟いていると、龍乃心の後ろに隠れていた澄玲が顔を出した。


「いやー、ゴメンね巻き込んじゃって!」


「あぁ…うん別に…」


「それにしても、アイツら一目散に逃げて行ったけど、一体何したの?」


「いや、とりあえず初対面だったから、笑顔で接しようと…」


「相手が一目散に逃げて行く笑顔って何!?」


「そっちこそ、何してんだ?」


「私は『そっち』って名前じゃ無いんだけどな~」


「その…澄玲は、何してんだ?」


「お、意外にも下の名前で呼んでくれたね♪」


龍乃心は、元治とはまた違った馴れ馴れしさに若干辟易としてしまった。


「実はさ、私今から行く所があったんだけど、アイツらが一緒に来るってきかなくてさ」


「そもそもアイツらは一体何なの?」


「んーなんか分かんないけど、私のファンクラブの子みたい」


「…ふぁんくらぶ…?」


「そっ! まぁ私もなんだかよく分かんないけどね」


「へー…」


龍乃心は、あまり興味が無かったらしく、反応に困ってしまった。


「まぁ…とりあえず、また明日…」


そそくさと家路に着こうとした龍乃心の肩を澄玲はガッチリ掴んだ。


「いやー、龍君、つれないじゃない! ここまで来たんだから、一緒に行こうよ!」


「いや、行くって何処に?」


「いーから、いーから♪ さ、行こうぜ!」


「あの、せめて荷物だけでも家に置かせてくれ」


こうして、何故か澄玲を連れて、龍乃心の家に着いた。


「へー、ここが龍君の家だったのね!」


「…この家知ってたの?」


「まぁ昔からあるからね~」


龍乃心は鍵を使って扉を開けた。


「お邪魔しまーす…って誰も居ない?」


「ここには俺と父さんしか居ないし、父さんは昼間仕事してるからな」


「あ、そっか、お母さんと妹ちゃん達はロンドンにいるんだっけ?」


「そうだよ。まぁもう慣れたけど…」


「ふーん、じゃあ私と一緒だ」


「…澄玲の母さんも離れて暮らしてんのか?」


「まぁ…そんなとこかな。ほら、そんなこ事より早く荷物置いて行くよ!」


「分かったよ…そんな急かすな」


荷物を家に置き、玄関を出て階段を降りていくと、丁度大家さんが部屋から出てきた。


「おやおや、明空さんとこの坊っちゃんじゃないか。ん…? 後ろの子は? あらあら、さてはデートかな?」


大家さんは龍乃心と会うなり、デリカシーの欠片もないトークを繰り広げて見せた。

しかし、龍乃心が大家さんに怪訝な顔をして見せると、大家さんは急に大人しくなった。


「あ、あの…行ってらっしゃいませ~」


大家さんの蚊の鳴くような声に送り出されながら、龍乃心達は歩いて行った。


「龍君…相手を睨んで大人しくさせるのはあんまり…」


「…うん、ちょっと大人気なかったかな」


「まぁあの大家さんの方がずっと、大人だったけどね」


「で、一体どこ行くの?」


「えっとね、秘密のお花畑♪」


「…お花畑…?」


龍乃心は、一体何処に連れていかれるんだろうと、急に心配になってきた。

※次の更新は12月16日(月)の夜頃となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] のんびりと進んでいく様子に味があります。 学校の様子や、川釣りのシーンなんかも、読んでいて情景が浮かびます。 登場人物は決して少ないとはいえませんが、会話文が多いなかで、それぞれの個性がさ…
2019/12/12 21:37 退会済み
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