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明空の先の日常にて  作者: ふくろうの祭
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10話 川釣り①

怒濤の転校初日を無事に終え、それから早2週間が過ぎようとしていた。

ようやく龍乃心も新生活に慣れてきた。

ただ、伍蝶院の熱烈ラブコールには相変わらず手を焼いている。


学校の帰りはいつも元治と達也、春樹、澄玲の5人で帰っていた。

金曜日のその日も俺達は5人で帰っている途中だった。


「みんな明日って暇?」


元治が突然そんな事を言い出した。


「なんだよ、急に明日って。なんかあんのか?」


達也は当然の質問を投げ掛けた。


「いやさ、久々に川釣りしてぇなぁって思ってさ」


「明日って…朝早く?」


「そうそう! みんなどう?」


「あー私は明日の朝、犬の散歩あるし、午前中もママとお出掛けしちゃうから、パス~」


「悪い、俺も明日は犬の散歩で朝から6時間位歩くから、無理だわ」


「澄玲はともかく、達也は犬飼ってねぇだろ! そんなバレバレの嘘ついてまで行きたくないんない! 春樹と明空は?」


「俺は別に無いもないから良いよ」


「僕も残念な事に、特に明日はやる事ないんで、良いですよ」


「お前らどんだけ消極的な理由で行くんだよ! 俺、地味に悲しいぞ!」


「まぁまぁ理由はどうであれ、二人も来てくれるんだから、良いじゃない。 3人共楽しんできなよ!」


「まぁ…それもそうだな! じゃあ二人とも川の入り口の看板の前に集合な! 明空は場所大丈夫か?」


「この間、1度来てるし問題ないけど…俺、釣り竿持ってないよ」


「釣り竿なら、じいちゃんの家に何本か置いてあるから、問題ない! よし、決まりだな! 春樹は釣り竿持ってるよな?」


「はい、父が持っているものを拝借するつもりなので」


「よし、じゃあ明日の朝、6時に川の入り口の看板の前に集合だ! お前ら遅れんなよ!」


こうして、龍乃心は、人生初の川釣りの約束をするのであった。

釣りの経験など全く無い龍乃心にとって、川釣りなど未知の世界ではあったが、正直、龍乃心は「どうにかなるだろう」位にしか考えてなかった。


家に帰ると、龍乃心は父親に川釣りに行く事を告げた。


「釣りかー。良いじゃないか!」


「父さんは釣りしたことあるの?」


「うーん、ずっと子供の頃にやったキリかな」


「あ、そう。なんかコツとかあんの?」


「まぁ一番は辛抱強く待つ事かな?」


「ふーん…待つだけで良いの?」


「いや、待つだけじゃダメだよ。糸を引き上げる時のタイミングとか色々あるんだから」


「なんか難しいな…。とりあえず、明日元治に聞けば良いか」


龍乃心は明日の朝に備えて、その日は早めに寝ることにした。

そして次の日、龍乃心は元治から指定された服装に身を包んで、約束の場所に行くと、何故か春樹しか居なかった。


「おはよう」


「おはようございます」


「あれ…元治は?」


「元治君はまだ来てないようですね。まぁ約束の時間まで10分位ありますし、待ちましょう」


しかし、元治がやって来てきたのは、約束の時間から10分遅れだった。


「いやー釣り竿の調整に時間かかっちゃってさぁ! 後、その他諸々の準備で…」


「元治君、君は僕達にまず言う事があるんじゃないですか?」


「あの…はい、遅刻してすみませんでした…」


「今回の川釣りの言い出しっぺは元治君なんですから、しっかりしてください」


着いて早々、元治は春樹に説教を食らった。

それから、3人は早速釣り場の方へ移動した。


「よし、ここら辺で良いだろ! じゃあ明空、この釣り竿!」


「あ、ありがとう」


龍乃心は元治から少し年期の入った釣り竿を受け取った。


「少し古いけど、手入れはしてあるし、結構使いやすいから、初心者でも大丈夫だ!」


「ふーん…確かに軽くて振りやすそうだな」


「ここで釣れんのは、オイカワ、ニジマス、ブナ、ヤマメ辺りだ! まぁ釣れりゃあなんだって良いんだけどな!」


「これって…なんかコツとかあるのか?」


「エサを付ける! 糸を垂らす! 魚が掛かる! 糸を低く! 以上!」


「…元治が特に釣り得意な訳じゃないのは分かった」


「なんだおい、どういう意味だ? チクショー覚えてろよ!」


そう言うと、元治は手慣れた手付きで釣り針にエサを付けると、お前ら見てろと言わんばかりに勢い良く釣り竿を振り抜いた。

そして、物の見事に木の枝に糸が絡まってしまった。


「あの…元治…」


「これはあれですよね? 何も考えなしに勢い任せに釣り竿を振り回すのは、良くないよっていう悪い例を見せてくれたんですよね?」


「やめろよ、フォローされると余計に恥ずかしいだろ! 純粋に失敗したんだよ! そんなときもあんだよ!」


「いつもこんな感じなのでは?」と思わずにはいられなかった二人だが、流石にこれ以上追い詰めるのはやめたのであった。


(とりあえず…木の枝に引っ掛からない程度に力を加減して…)


龍乃心は慎重に釣り竿を振ると糸を、丁度川の真ん中辺りに垂らした。


「明空君、中々良い感じですね」


「そうなのか? なら良かった」


「で、元治はいつになったら、釣りを始めるんですか?」


「うるせぇな、気持ちの中ではもう釣りは始まってんだよ! 俺の気持ちに釣り竿がついていけてねぇだけだ!」


「いや、意味分からない事ばかり言ってないで、とっとと釣糸を枝からほどいて下さい」


「分かってらぁ…ってあああああ!」


汚い奇声を上げたかと思うと、元治は足を滑らせて川の中へ見事にドボンした。

素早く龍乃心は川から元治を引き上げた。


「死ぬかと思った、死ぬかと思った…」


「…元治君、まだ釣り始まってないですよ? 何一人だけ満身創痍になってるんですか?」


「面目無いです…」


気を取り直して、3人は釣りを開始した。

30分経ったが、一向に釣糸が揺れる様子は無い。


(成る程…待つだけって、口で言うのは簡単だけど、中々暇だな…)


龍乃心は早くも釣りの大変さを感じ始めていた。


「チクショー、全然釣れないなぁ」


釣りに慣れている筈の元治が一番文句を言っているのには、龍乃心も理解できなかった。


「春樹ぃ、なんか釣れたぁ? …って、春樹、さっきから何やってんだ?」


「ゲームウォッチです。暇なので。そもそもそんなに簡単に釣れるもんじゃないって言うのは、元治君が1番よく知ってるんじゃないですか?」


「いや、釣りに集中しろよ!」


「甘いですね、元治君。この待ち時間を有効活用してこそ、真の釣人ってものですよ」


「有効活用ってただただゲームしてるだけじゃねぇか! でも確かにこの待ってる時間は勿体無いな…。おーい、明空! 明空はどうして暇をつぶして…あれ、明空…?」


元治が龍乃心の方を見ると、龍乃心はスヤスヤと寝息をたてながら、居眠りをしていた。


「いや、寝んじゃねぇぇぇぇぇ!!」

次の更新は11月11日(月)の夜頃となります。

いつもよりボリューム少なめですみません。

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