1.とある夏休み、海外のビーチにて
青い海。
暑い日差し。
心地いい波の音と、白い砂浜。
俺の名前は秋川修二。
今、海外のビーチにいます。
そうです、ヌーディストビーチです。全男子の夢、遠き理想のフロンティアです。
「って、俺もちょっとは期待してたんだぞ、あほ姉貴―っ!」
サングラスを砂浜に叩きつけて絶叫。
でも別にビーチの注目が集まったりはしない。
なぜなら誰もいないから。
そうです、ここのヌーディストビーチはすでに廃止されておりました。
夏休みに入った直後のこと。
俺は失恋したとかいう姉貴に無理やり連れ出され、気づいたら海外にいた。
姉貴は『ヌーディストビーチで自分のすべてをさらけ出して生まれ変わるのよ!』とか言っていたが、結果この有様である。あほな姉貴は現在、ショッピングモールで自分の購買欲をさらけ出している。カード破産してしまえ。
「はぁ、どうっすかなぁ……。無人のビーチで日焼けするしかないってどうなのよ。ひとりで砂遊びしてもむなしくなるだけだしなぁ……」
ちなみに俺は泳げません。本当、何しに来たんだ、俺。
ビーチチェアの横でうなだれていると、背後から話し声が聞こえてきた。
「お嬢様、本当に……よろしいのですか?」
「か、構いません。『和を貴び、郷に入っては郷に従え』が桜坂家の家訓です。後継ぎとしてわたしも覚悟はできています……っ」
「ご立派です、雪音お嬢様。ならば、わたくしもお供致します……っ」
「ありがとう、とても心強いです。……大丈夫、ここは海外。わたしたちを知っている人はどこにもいません。いざ……っ」
あれ? 日本語だ。しかもこの声、なんか聞き覚えがあるような気がするぞ?
ここはもうヌーディストビーチじゃないから気軽な気持ちで俺は振り向いた。
そして、なんかすごいものが視界に飛び込んできた。
ふるっふるに揺れてるプリン。
本当にふるっふるだ。
一番上には桜色のチェリーが乗っている。
眩しい日差しのなか、海外のビーチでプリンが自由に揺れている。
でもどうしてこんなところにプリンがあるんだ?
ん、まさかプリンじゃないのか?
プリンじゃないとすれば、あれは一体……。
「――っ!? あなたは……B組の秋川くん!? どうしてこんなところに!?」
考え事の隙間を縫うように、そんな声が響いた。
え、なんでプリンが俺の名前を?
驚いて視線を上げようとする。
しかし一瞬早く、鋭い声が響いた。
「お嬢様のご学友だと!? ――御免! 失礼仕る!」
後頭部に謎の衝撃がきた。
「うえっ!?」
潰れたカエルのような声を上げ、俺はいきなり意識を失った――。