表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様と異世界旅行記  作者: 双葉
おバカなハルとお狐様
3/6

3 もっと素直になろうよ!



「でも旅行って何を持って行けばいいの?」


 記憶を無くした私にとって旅行は初めてだし、今の所この家以外の事を知らない。家に何があるかもシオンさんに聞いたばかりで、おトイレが何処かもちょっと分からなかった、洗面所だけは何故かわかったんだよねぇ、記憶を無くす前の私は頻繁に洗面所を使っていたのかな。


 そんな事はどうでも良くて、まず何から準備すべきなのかを教えてもらおう。


「あの時のハルは、無駄に大きなカバンを使っていたね」


「それって部屋にあるのかな、ちょっと探してみます!」


 ダッシュで食卓から部屋に戻る私。ベッド周辺を探してもカバンの『か』の字も見つからない、洋服が入ってる引き出しも全部開け放つが、やはり大きなカバンは見つからない。


 一体何処へ片付けたのかな、私はしばらく目を覚まさなかったらしいから、シオンさんが片付けたに違いないよね。


「この壁にある扉の中とか?」


 両開きの扉を開けてみると、私の足元にドサッと深緑の大きな物体が落ちてきた。ほぼ雪崩と変わらない勢いだった、他にも色々私の方へ崩れてきて逃げられなくなり……


「た、助けてくださああああああい!!」


 情けないけど救援を要請、何でこんなに物が無理矢理片付けられてるの? 意味わかんない……それに独特な臭いと埃でむせそう。


 叫び声を聞き付けたシオンさんは『あちゃ〜』と手で頭を抱えていた。それは何のあちゃ〜なんだろう、こうなる事を予想していたのか、それとも私がおバカだから? 後者じゃない事を祈ろう。


「ハル、ほら手に掴まりな?」


「ママぁ〜」


「離すよ」


「あ、嘘です助けてくださいマジで」


 シオンさんに引っ張られて何とか脱出、危うく部屋で悲しい終わりを迎える所だった。服に付いた埃を払いながら立ち上がり、崩れ落ちてきた山を眺める私。


 ほとんどが服とタオルで構成されていて、洗わずに無理矢理収納されていた見たい。ちょっとした異臭にシオンさんは鼻を手で塞ぐ、もしかしたら私にも臭いが移ってるかも、とりあえず窓を開けて換気しよう。


 部屋の窓を開けた後、私はシオンさんにこの山について聞くことにした。


「これは何ですか?」


「ハルが旅行に使っていたカバンと服達さ。あの後直ぐに事故が起きて洗う余裕が無かった」


「お母さん失格じゃん……」


「あんたの母親になった覚えはないよ!」


 この酷い山を先にどうにかしないと準備が進まない、二人で手分けして洗濯機へ服達を放り込む。不思議な魔石の力で動き自動で洗ってくれる機械、こんな便利な物をわざわざ遠い国で買ったらしいけど、いくらしたんだろう……聞いても分からないしまぁいいや。


 便利な道具で汚れた服や異臭を放つタオルは、時間経過と共に綺麗な姿に蘇って行く。まさか朝からこんな事になるだなんてなぁ、私目覚めてからそんなに時間経ってないのに、性格なのか割とサバサバしてる様な気がする。


 洗濯ついでに部屋も掃除をして、旅行に必要な物をベッドに広げながら夕方を迎えた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「よーし纏まった!」


「一体何時間掛けてるんだい……」


 旅行に必要な物を選ぶのにかなり苦労した、シオンさんは『必要最低限でいいさ、あまり持ち過ぎても良くない』と言っていたけど、私はもっと旅行を楽しみたい訳でして、服や小物の選別に結構な時間を使っちゃった。


 後はシオンさんに大陸の事を教えてもらったり、守り神と獣が人間と共存してる話も聞いた。と言っても割とざっくり話されたから、その時になったらまた色々と教えてくれるかな。


 この大きな大陸にはいくつもの国があって、それぞれで技術とか発展の仕方が全く違うみたい。空にはドラゴンが普通に飛んでたりするんだって、見てみたいし乗ってみたいなぁ、噛まれたりするのかな……ちょっと怖いかも。


 とにかく今この世界は、守り神と獣と人間で構成されてるらしい。そんな大陸を私はシオンさんと旅したんだなぁ、私はすっかり脳内リセットされちゃってるからわからないけど。


「ね、シオンさん」


「ハル、いい加減その『さん』をやめてくれないかい?」


「え? 何でです?」


「あんたは元々私を呼び捨てにしていたんだ、だから他人行儀見たいなのはやめとくれよ」


 シオンさんはちょっぴり寂しい顔、そうだよね私がそんな態度だと気持ち悪いよね。


「じゃあシオン……でいいですか?」


「丁寧な口調も」


「シオン!」


「それでいいさ」


 あ、今ちょっとだけ照れた。シオンさん……シオンは割と素直な性格なのかな、言いたい事をズバッと言っちゃう所がある。あと恥ずかしがり屋な部分とかね、私が『お母さん、ママ』とか言ったら怒るんだもん。


 元の私がどんな性格だったのか知らない、シオンは『以前のハルとは何だか少し変わった』と言うし、性格まで記憶から消えちゃうのかな。


「えーとね、私必ず思い出すからね」


「ハル……」


「だから悲しい顔はやめてね?」


 ニッコリしながらシオンに伝えた言葉、ちゃんと伝わってると良いな。私を育ててくれたらしいし、そんな大切な事も忘れちゃった訳なんだから、早く思い出せるように旅行に行かなくちゃね?


「あ、でもさ?」


「何だい?」


「私を育てた訳なんだから、やっぱ実質お母さんじゃない?」


「…………」


 シオンは頭をだらんと垂らす、何だろう感動したのかな? それとも泣いちゃったのかな。でも黒いオーラ見たいなのは何だろ、すごく『ゴゴゴゴゴ』って感じの……


「あんた……」


「ひぇ!?」


「もう怒った! 許さないよッ!!!」


「うわっ!? 待って、待て待てッッッ! いやあああああ!!」


 私をベッドに突き飛ばすと、脇腹とか足の裏をコチョコチョしてくる。その間、シオンはずっと笑った表情でいやらしい手つきで攻撃してくる。


 家でこんなに楽しいんだから、きっと外に出たらもっと楽しいよね? うんん、絶対に楽しいに決まってる!


「やめ……あはははははッッッ!!」


「観念しな!」


「ま、ママ! あはひゃひゃはははは!!」


 私も懲りないなぁ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ