ヒロインの恋路を邪魔する方法〜実は放置が1番!〜
乙女ゲーム設定もほとんど設定のみです。
後、「***」のところから、視点がフェルに切り替わります。
私の名前はシルヴィア・ウォルーン。ウォルーン侯爵家の一人娘である。
家族構成は、父、母、弟、私。私は女なので、爵位を継ぐことができない。だから、私の弟のハルーン・ウォルーンが将来、侯爵位を継ぐ予定だ。
婚約者もいる。ポート公爵家の次男、ハミルだ。
私の家族関係も良好だし、悩みはほとんどない。
けれど、その数少ない悩みの一つがこの婚約者についてなのだ。私達は、家同士の繋がりを強くするための婚約で、好意はない。
そうだとしても、ある程度は気を使うべきだと思うのだ。
だというのに、彼は学園に入ってきた、1つ年下の子爵家令嬢に熱をあげている。
その子爵家令嬢というのはシャルロッテ・ヨーヒ。
学園でも、小動物みたいで可愛いと評判の令嬢で、ハミルの他にも、この国の王子や高位貴族の子息が彼女のことを好いている。
アイドルのように憧れるだけならいいのだが、ハミルは彼女に付き纏い、貢いだり、お願いを聞いてあげたりしている。他の男子も同様。
こんなやつらが、将来国の中枢を担えるのだろうか。不安は募るばかりだ。
そして、ハミルは最近、私の事を疎かにして、彼女のことを大事にしてる。いくら、公爵子息と言えども、これはないのでは?
私は、あることに気づいたのだ。
この状況、あれにそっくりではないか?と。
あれとは、最近、王都で流行りのブンゴウという作家の作品の恋愛小説。
男爵令嬢と王子が身分違いの恋をし、それを知った王子の婚約者が憤慨し、男爵令嬢を虐める。王子は虐めの証拠を集めて、婚約者を断罪して、処刑する。そして、男爵令嬢と王子が結婚するというハッピーエンド。
それに状況が極めて似ているのだ。
そう、まるで、2人の恋路を邪魔しろというように。
「と、言うことで、王子の婚約者のローズ様など、ご婚約者がシャルロッテ・ヨーヒ嬢の虜になっている御令嬢にも協力を仰いで、恋路を邪魔することにしたの!」
私は幼馴染のフェルナンデス・オパールに力説した。
彼とは、領地が隣同士なのもあり、家同士でも親交がある。
そういう繋がりがあり、今もよく話す親友だ。
「シル、本当にやるの?」
フェルが目を丸くする。
「ええ、勿論。ちなみにローズ様の賛同は得ているわ。」
ふっ、フェル、今更止めようとしても無駄よ。もう、計画は進んでるわ。
「んー。分かった。けど、シル。絶対に無茶なことはしないでね。」
フェルはそのラピスラズリのような青い目で私を見つめながら言う。私は、立ち上がり、テーブルに手をつきながら、フェルの目を見返す。
「大丈夫よ。フェルは私が出来ないことはやらない主義なの、知ってるでしょ?」
フェルを安心させるために、私は微笑んだ。
すると、フェルも口を緩ませて、
「ああ、僕は君のことを誰よりも知っているからね。」
と言う。
私は彼の言葉を聞いたあと、背中を向けて、中庭に向かった。
ーー私も、貴方のことは貴方自身よりも、知ってるわ。
私はその言葉を口に出さなかったけれど、きっと、彼は分かっているのだろう。
***
そこから、半年ほど経つと、シャルロッテ嬢と男達の関係が冷めてきた、との噂を僕ーーフェルナンデス・オパールは耳にした。
シルは何もシャルロッテ嬢達にしていないようだし、何故?
すると、久しぶりにシルの招待を受けた。週末に、シルの家に来ないか?と。
勿論、僕は行く。学園内ではあまり話せない為、2人きりで話せるのは、それぞれの家ぐらいなのだ。
週末に、僕はシルの家に向かった。
「フェル、こっちよ!」
シルが庭から大声を出し、手を振っている。
ここはシルの実家なので、多少はしたない、と言われることをしても、問題はない。
僕は、シルの向かいの席に座った。
「シル、久しいね。」
「そうね。ここ半年は、あまり会えてなかったわね。」
会話は、たわいのない話題から始まる。けど、今日の僕はシルに訊きたいことがあった。
「シルは、この半年、シャルロッテ嬢達に何をしたの?」
サアアァ
冷たい風が僕達の間を通った。
「それはね、」
シルがゆっくり、口を開いた。
「放置よ!」
ドヤッという顔をして、シルは得意気に言った。
前世では、どや顔というのが理解出来なかったが、今、ようやく分かった気がする。
「……放置?」
僕は首を傾げた。
「そう、放置なの。」
何回聞いても、どういうことか分からない。
「……求む、解説。」
僕がそういうと、シルは更に、口角を上げた。
普段、僕が分からない、なんて、あまり言わないから、嬉しくなったのだろう。
「じゃあ、解説するわ。私が読書好きなのは、知ってるわよね。」
僕は頷いた。
シルは大の読書好きだ。
国立図書館の本は読み終わってしまったらしいし、プレゼントは何がいいか、と訊くと、大抵の場合、本と言われる。
最近は、ブンゴウ、という作家の作品がお気に入りだとか。
ちなみに、ブンゴウは僕だ。
僕は、シルに内緒で作家をやっていて、前世の世界であった作品をアレンジして、書いている。
「それで、最近はブンゴウ先生の恋愛小説を読んでいるの。そこで、学んだことなんだけど……」
学ぶ要素なんて、あったっけ?
「恋には、障害や壁がないと、つまらないの。」
ああ、それは確かに言えるね。
亜人と人間の種族差の恋も書いたし、年の差、身分差の恋も書いた。
恋にはなんらかの障害があったほうが、面白みが増す、というのは事実だ。
「で、この場合だと、男達とシャルロッテ・ヨーヒ嬢が主役で、私達は恋を妨害する『障害役』になってしまうの。だから、私達が何もしなければ、彼等の恋は関係はいずれ、冷めるのよ。」
何もしないことが、1番の邪魔になるのか。何もしていないけど、結果的には、邪魔したことになると。
なかなか難しい作戦だけど、シルらしい。
「勿論、それでも愛し合ってるなら、許すつもりだったんだけど、この程度で冷めるのなら、潰すわ。」
まあ、青春の一時の恋って、やつだったんだね。
「潰すって、どっちの意味で?」
僕が聞くと、シルは、笑顔を消し、親指と人差し指を出して、潰すような仕草をした。
「両方。」
社会的にも、物理的にもか。精神も潰されそうだな。
シャルロッテに恋をしていた男達は気の毒だけど、自業自得。
「そういえば、ハミルはどうするの?」
僕がハミルの事を聞くと、シルは首を傾げて、ハミル?、ハミル?と、呟いていた。
もしかして、忘れてたの?あんなでも、一応、シルの婚約者だよ?
「…………あちらが行動を起こさなかったとしても、こっちから婚約破棄させてもらうわ。あの家も自分の息子が何をしていたか、知っているだろうし、後ろ暗い事の証拠はあるから、家も潰せるし。
ちなみに、今回の作戦に参加してくれた、ローズ様達も婚約破棄をする予定みたい。
相手の立場が上の場合は、家を潰すか、自分の家を有力なものにして、立場が完全に上になってから、婚約破棄するみたいね。」
おおう……女を怒らせると怖いな。
この様子だと、シャルロッテ嬢の実家もそろそろ終わるだろうな。
「シルは、ハミルと婚約破棄するんだよね。」
僕は、その事実をもう一度確かめる。
「そうね、婚約破棄をしたら、私はフリーになるわね。」
だったら……
僕は立ち上がって、片膝をつき、シルの手をとった。
「シルヴィア・ウォルーン様。婚約破棄をしたら、私、フェルナンデス・オパールと婚約をしていただけませんか?」
僕はシルの掌にキスをした。掌にキスする意味は、懇願。
しばらくの静寂の後、シルはいつものように笑った。
「当然、フェルと婚約するわ。」
ーーー愛してるよ、シル。
お読みいただきありがとうございました。
よければ、評価やブクマをお願いします。感想もお待ちしております。