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上からアリコ(^&^)!  作者: 大橋むつお
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7:『謎の短冊』 

上からアリコ(^&^)! その七

『謎の短冊』 



「先生のこと呼んだりしてませんよ」

 

 書類から目を上げて校長は言った。

「でも、校内放送で……校長先生の声でしたよ」

「わたしは、今の今まで教頭さんと話していたところですよ」

「今も話しているところなんですがね」

 教頭が、嫌みったらしく続けた。

「……そうですか。わたしの聞き違いだったようです。失礼しました」

――あれは、間違いなく校長の声だった。

 そう思いながら、アリコ先生は校長室のドアを閉めた。


――あ、ひょっとして……!


 アリコ先生は、有る予感を感じ、書庫への廊下を急いだ。


「……!」

 ドアを開けると、いっせいにみんなの視線が集まった。

「どうかしました、先生?」

「う、ううん……」

 部長の加藤が、怪訝そうに聞いてきたのを、アリコ先生は、らしからぬハンパな笑顔で応えた。

 卓真を含め、全員が、かわいらしく『でんでらりゅうば』の練習にいそしんでいた。

 部屋の中に残った花の香りがかすかに乱れているだけだった……。


 地下鉄で帰るチマちゃんを見送って、千尋は美東先輩といっしょに歩き出した。


「チマちゃん、東京弁たいへんみたいだね」

「最初はオドオドしてたけど『でんでらりゅうば』で、すっかり溶け込んじゃいましたから」

「そうだね、地下鉄の階段降りるときは、元気に『じゃ、さようなら』って、挨拶してくれたもんね……でも、先生、なんで改めてこんなものくれたんだろう」

 美東先輩は、短冊を手につぶやいた。短冊には例の言葉が書かれていた。

――来る者は拒まず、去る者はいない。

「これって、書いてある通りなんですか?」

「うん、結果的にね。なにも無理強いするようなことはないんだけど、去年アリコ先生が来てから、辞めた子はいないわね」

「そうなんだ」

「加藤君なんか、ひきこもりの不登校だったのよ。それをアリコ先生が家庭訪問くり返して、いつの間にか来るようになって、四月からは部長だもんね」

「あの、卓真って先輩、案外おとなしかったですね」

「最初は、かっこつけてたけどね」

「ですね、でも……」

「でも?」

「途中で、卓真って人の目が、ニクソゲに光ったような気がしたんですけど」

「そう、わたしは『でんでらりゅうば』に熱中してたから」


 そこに美咲が、ナナを連れてやってきた。


「美咲ちゃん、お散歩?」

「うん、いつもはお父さんなんだけど、急なお通夜で。まあ、ナナも大人しくなったことだし」

「そうだよね、よい子のナナちゃんになったんだもんね」

「かわいい秋田犬ですね」

 美東先輩が、頭をなでた。シッポを振ってじゃれつくナナ。

「や、やだ、くすぐったいわよ」

 ナナは、美東先輩のツインテールが気に入ったようだ。

「アハハ……」

 三人と一匹でじゃれているうちに、美東先輩の手提げバッグから、例の短冊がこぼれ落ち、ナナの頭をかすって地面に落ちた。

――キャイン!

 ナナは悲鳴を上げてあとずさった。シッポを垂れて、美咲の後ろで怯えている。

「どうしたの、ナナ……」

「これが……怖いの?」

 美東先輩が、短冊を近づけた。ナナは尻もちをついてしまった。

「これも、怖いかなあ?」

 半分からかうようにして、千尋は、自分の短冊を出した。


 ナナは腰を抜かし、オシッコを漏らして、横ざまに倒れてしまった……。


 つづく 



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