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上からアリコ(^&^)!  作者: 大橋むつお
14/19

14:『ヨーイ、ドン!』

上からアリコ(^&^)!その十四

『ヨーイ、ドン!』



 ドーン! と空に花火が上がり、運動会が始まった。


 花火と言っても、青空の中なので光は見えない。その代わりに、たくさんのキンキラキンやギンギラギンといしょに、小さなパラシュートが撒き散らかされ、運動会に華やかさを沿えていた。


 そう、運動会なのである。


 正しくは体育祭というのだけども、千尋も美咲も、小学校以来の「運動会」という言い方の方が好きだ。

 このY高校は、旧制中学のころから地元との結びつきが強く、いまでも「運動会」は地元の人にも開放され、この地域のオマツリの一つになっていた。ときどきお行儀の悪い他校生などが入ってくるが、地元の人たちの目が厳しく、「こら、なにやってんだ!」などと叱られるので、あまり大きなもめ事にはならない。

 しかし、今日は、晴れ渡った空と同じぐらいに平穏で、もめごとの「も」の字もなく、午前の部が終わり、昼食休憩になった。


「チマちゃん。百メートル予選、トップだったわね」

「ありがとう、全力でがんばったから!」


 千尋の声に、チマちゃんは元気に応えた。この一週間ほどで、チマちゃんは急速に元気になった。言葉も、こっちの言葉に馴染んでしまい、ほとんど長崎弁になることはなかった。ときどき無心にやっている「でんでらりゅうば」を除いて。


――まもなく、午後のプログラムが始まります。生徒、観覧者のみなさんは所定の席に戻ってください。


 放送部と兼務しているカチューシャの美奈先輩の、かわいいアナウンスが流れた。


 午後の部は、応援団の演舞から始まる。応援団といっても、正式なものではない。今時、応援団という部活は成立しないので、有志を募り、卒業生、それも昭和ヒトケタ生まれの大先輩の指導を受け、旧制中学のころと同じ両手に地元産だった大根を両手に持って、雄々しくも、コミカルに行われる。

 次に、チアリ-ディング部の演技でさらに盛り上がったあと、クラブ対抗リレー。リレーといっても、それぞれのクラブのユニホームや、道具を持ったり、付けたりしてやるので、圧倒的に陸上部に有利。そこで、陸上部はタイヤ二本をひきずって走るというハンディーを課されている。まあ、リレーの名を借りた、クラブ紹介のアトラクション。

 その後が、地元の人たちも参加しての大綱引き。戦前は地元の陸軍の連隊の兵隊さんが参加していた。戦後は沖縄返還を機に、陸上自衛隊の人たちが参加してくれていた。

 ロープの強度制限のため、双方合わせて四百人に絞られた精鋭同志の対決だ。どこで借りたのかユルキャラの着ぐるみを着た人や、戦前の旧制中学の制服を着た人、AKB48のコスを着たオネエまで混ざっている。

 ヨーイ、ドン! はいつの頃からか、自衛隊の下士官がやることになっていた。なんと言っても専門職、かけ声のタイミングや気合いの入り方が違う。

 しかし、手にしているのは、競技用のピストルで、戦闘服姿の下士官の人とはミスマッチ。そのミスマッチが日本の平和を象徴しているようで、なんともホンワカであった。


「あれぇ……」


 本部テントの中のアリコ先生は、下士官が高くかかげたピストルを見て違和感を感じた。かたわらの双眼鏡でアップすると……それは、ホンモノのピストルのように見えた。

 すると、双眼鏡越しに、下士官と目があった。刹那、下士官はニヤリと笑ったような顔になり、銃口をハッキリとアリコ先生に向けた……。


   つづく



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