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上からアリコ(^&^)!  作者: 大橋むつお
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1:『アリコ先生の笑顔』

上からアリコ(^&^)!その一

『アリコ先生の笑顔』   

                            


 しまった……!


 思わず口をついて出てしまうところだった。


「失礼しました……」


 そう言って、頭を下げたとき、それが目に入ってきた。


――来る者は拒まず。


 ここまではいい。

 次の行を読み間違えていた。


――去る者は追わず……だと、思っていた。


――去る者はいない!


 アリコ先生のサイドロッカーの「文芸部」と書かれたA4のポップにそう書かれていた。改めて見なおす。


――来る者は拒まず。去る者はいない!


「じゃ、来週の月曜に司書室に来てね」

 アリコ先生は、ポニーテールを揺すりながら「期待しているわ」と、笑顔で付け加える。


 千尋の背筋をオゾケが走る。その笑顔には、人を掴んで離さない蠱惑的な力があった。


 千尋は、中学では陸上部にいた。中距離が得意で、大会などで、そこそこの成績を出している。

 体育一般なんでもござれ。

 同年齢の女子高生の平均より八センチ高い身長は、バレーやバスケをやってもなかなかのものであった。

 サッカーで言えばミッドフィルダー。攻守いずれでもオーケ-。

 人付き合いも、我ながらミッドフィルダー。

「そうなんだ」 

 と、たいていの人には賛意を表しておく。時に、対立する双方に「そうなんだ」をやらかして、アタフタすることもある。


 で、Y高校に入ってすぐに、あちこちのクラブから勧誘がかかってきた。

 連休明けの昨日なんか、体育の授業の後かたづけをしていると、体育の先生から、熱心にテニス部に誘われた。

 

 Y高校は、クラブ活動に熱心で、ほとんど義務というか、必修クラブ的に部活を勧められる。

 中学では、なまじっかできるもので、クラブにドップリの毎日であった。

 高校に入ったら、部活はせずに、ゆっくりまったり高校生活を楽しみたい。

 二年たてば大学受験でアクセクしなきゃならない。せめて一二年の間は……と、思っていた。

 ところが、この学校の方針で、どこかのクラブには入らなきゃならない。

 ま、二学期になれば幽霊部員になりフェードアウトすればいいや。お気軽な気持ちで文芸部を選んだのである。


 職員室に入って、アリコ先生を見つけたときも、千尋はなめていた。


――なんだ、なんだ、大学出たてのお嬢ちゃん先生じゃん――

 

 しかし、そのお気軽は、ポップを見て「あれ?」になり。笑顔はオゾケになってしまった。

 ポップの書体は、お祖父ちゃんがガクセイウンドウというのをやっていたころ、ゲバ棒にヘルメット被って、面が割れないようにタオルで顔を隠して写っていた、その後ろに「打倒日帝! 造反有理!」などとカクカクした字で書かれていたのと同じだ。


 千尋はお祖父ちゃんが苦手だ、何を言っても理屈で返ってくる。

 千尋には押し出しだけの屁理屈に聞こえる。例えば、雨が降っても、気象庁の官僚機構のせい。

「見ろ、気象庁の運動会に雨が降っとる。国家的な独占が、こういう喜劇的怠慢の現れになる」

 そのお祖父ちゃんに通ずる「有無を言わせぬ」理不尽さを感じた。


 最初の部活の日、先輩に言われた。アリコというのは正確には有子で「ゆうこ」って読むんだけど。押しが強く、校長先生のことだって屁とも思っていない。正しいと思ったことは、なんでも押し通してしまうところから、「ナンデモアリの有子先生」が「アリコ」になった。

 見かけよりは歳……キャリアで、Y高校が二校目の学校。前任校では、PTA会長で有力弁護士のドラ息子を対教師暴力で無期停学にし、一ヶ月絞りまくった。

「もう、オレ学校辞める!」

 と、最後に言わせ、この生徒に手を焼いていた先生たちからは賞賛された。

「なにトンカチ言ってんの、いったん入った学校、途中でケツ割ってどうすんのよ!」

 で、その子の担任を引き受け、無事に卒業させ、同じ系列のY高校に転任してきた。

 そうして、Y高校の中では、誰言うともなく、こう呼ばれるようになった。


――上からアリコ。




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