あなたの願い、叶えます。
よく、清い身体のまま天に召されると、神様にお嫁入りしたんだね、とか言われるが、そんなことは無い。
だって、神様にだって好みはあるし、そもそも清い身体のまま天に召される乙女自体、今の世の中少ないのだもの。
だけど、まぁ、その極稀なケースにぶち当たる人も中には居る訳で、私はそのケースに見事ぶち当たった訳ですよ。
ま、ちょっと違うのは私、79歳ですが。
「79歳にしては結構若々しい心意気だねぇ、キミ」
ふと声が聞こえて振り返れば、美形。だけど、男とも、女とも言えないなんか微妙な雰囲気の人。
「わー、ヒドイ。キミ、デリカシー無いって言われ無い?」
「...いや、そもそも、私にそんな事言うような人が周りに居なかったし」
とりあえず謎の人物にそう返せば、向こうはそれもそうかとカラリと笑う。
「キミ、ずっと一人だったものね。まぁ、だからここで声をかけたんだけどさ」
「えーと、どう言うこと?」
相手の言っていることが分からずにそう尋ね返せば、謎の人物はあー、と声を漏らす。
「キミ、一生独身で処女でしょ?特に悪業も働いて無いし。天界の規則により、そういう人間には何か一つ願いを叶えてあげることになっているんだよ」
で、俺は謎の人物でもなんでもなくて、願いを叶える為の使者、と目の前の人物は言う。
「それって、いわゆる同情...」
私がそう呟けば、使者の人はノンノンと指を振る。
「同情じゃなくて、規則。なーんでか分かんないけど、ずーっと昔から決まってる事なの。お偉方の考えることなんて、俺がわかる訳無いでしょーが。まぁ、キミは、願いが叶ってラッキーくらいに思ってなよ。で、願いは?」
そう言って使者の人は、真っ直ぐに海の底のような、なんとも言えない瞳を私へ向けてくる。
願い、ねぇ。願いって言われても、私死んでるのでしょ?意味なく無い?第一、怪し過ぎるよね、この人。
まぁ、私も伊達に一人で79年も生きて居た訳じゃないので、よく分からないこの状況を顧みてみる。
「疑ぐり深いばぁさんだね、キミも。普通老人ってもっと温厚だし、使者の言葉は素直に聞くんだよ?あー、でもそうか、キミの場合、もう転生の準備が始まっているから巻き戻っているんだね。で、どうする?願いを叶えると言っても転生先での人生でだけど、何が良い?長生き?美貌?健康?」
そう言ってこの使者は早くしてくれと、言わんばかりに私の願い事を取立ててくる。
...どうでもいいけど、あまり心の中を読まないで欲しい。
「それが願い?」
「いやいやいや、違うから」
早とちりした相手にすかさず突っ込めば、向こうは口先を尖らせた。
「本当に叶うなら、真剣に考えたいと思うものだと思うんだけど?」
暗に、ゆっくり考えさせろと思いながらそう言ってやれば、目の前の使者はため息をつく。
「そうしてあげたいのは山々だけどね、後ろがつっかえてるし、キミの転生の時間が迫ってる。早くしないと思考力が赤ちゃんになっちゃうよ?もうキミの思考力は20代になっちゃってるし」
「え、」
早くしなきゃ、そう思居ながら私は口を開いた。
「運命の人と、恋がしたい」
あれっ?なんか違う?口から出た言葉にそう疑問を持ったのに、何が違うのか分からない。
それがキミの願いだね、リョーカイ、とさっきの使者の嬉しそうな声が聞こえたと思ったら、辺りが真っ白に包まれて、私の意識はそこで途切れた。