第97話 ランチタイム
なんとか魔の森入口に到達できたのは、お昼過ぎ位の事だった。遅れたのは俺の訓練が原因であったが、おかげで『概観視』スキルを手に入れられたんだから良しとしよう。
『概観視』は全体を見やすくするスキルらしいが、確かに全体を見渡す視点――長いんで概観視とでもしておく――への切り替えがスムーズになった気がする。
教官殿の予定じゃ『察知』や『探知』といった気配感知系スキル取得を目指してたらしいが、これはこれで使い勝手が良さそうなスキルだと思う。
『概観視』を使うことで、相手の挙動を掴みやすくなった。おかげでコッコゥの突進のタイミングが丸分かりで、盾での迎撃が容易になったし。
ただデメリットもあった。全体を見るってことは、その分目から入ってくる情報量も跳ね上がるってことになる。要は飛空艇の船視点と同じで、長時間使ってると頭痛がしてくる。使いすぎには注意だな。
コッコゥの血抜きと頭痛が治まるまでの間にランチタイムをとることにした。適当な石に腰かけてシャーロットから串焼きサンドの包みを受け取る。周りには血の匂いが残っているが、いい加減慣れた気がするので構わず食事にする。
「「いただきまーす」」
「「!!」」
騙された!! てっきりコッコゥの串焼きだと思ってたのに、フリュトンの串焼きが挟んである!!
でも美味い。味付けは塩コショウ以外にもハーブっぽいのが刷り込まれてるようだ。一緒に挟まれてる玉ねぎの辛みがいいアクセントになってる。
よくよく味わってみたらコッコゥサンドと同じ味付けのはずなのに、まるで別物に感じる。うーん、コッコゥとフリュトンでこんなに違うもんなのか。
「これはフリュトンが凄いのか、ガロン殿の腕が凄いのか」
「どっちも凄いってことでいいんじゃね?」
「それもそうだな」
あっという間に食べきってしまう。もっと貰っとくんだったな。シャーロットも名残惜しそうに包み紙代わりの葉っぱを見つめている。
「って食べるのかい!」
「これは食べられる葉っぱだからな」
「そうなの?」
試しに一口齧ってみる……確かに食えるな。特に味があるわけでもないから、わざわざ食べたいと思う程ではないが。
「よし、食事も済ませたし薬草採取を再開するか」
「あぁ、まだ一束分しか集まっていないからな。最低でもあと二束。目標は上限の三十束だ」
三十束か……一株で大体五~六枚位はとれるから……六十株位見つける必要があるのか。確かに群生地でもないと無理だな。
「意気込むのはいいが、群生地の当てでもあるのか?」
「あぁ、先日来た時に大体の当たりはつけておいた」
これは内緒だぞ、と前置きしてシャーロットが教えてくれたが、薬草が大量に生えるための条件があるらしく、それさえ知っていれば群生地を探すのは容易いことらしい。
で、その条件とやらが「日当たり良好・川や池のそば・魔力溜まりの近く」の三つらしい。
特に重要なのが魔力溜まりで、他の条件を満たしてなくても魔力溜まりさえあれば十分育つそうだ。
「よく知ってるな」
「あぁ、以前セーレがダンジョンで薬草を育てていたからな。天候の影響を受けにくいから育ちがいいらしい」
「ほー、ハウス栽培みたいだな」
「はうす栽培?」
「あぁ、元の世界でも似たような栽培方法があったんだ」
「……な、なかなか変わった世界のようだな」
「でもダンジョンで栽培できるんなら、飛空艇でも栽培できるってこと?」
「いや……それは止めておいた方がいい。魔素の管理が難しくて、すぐに魔物化してしまうって、セーレが愚痴ってた記憶がある」
「薬草の魔物か……あんまり強そうな気がしないんだが」
「攻撃力はな……元が薬草だっただけに自己回復する、とにかくタフな奴だった」
「そ……そうか」
飛空艇で薬草ウハウハ作戦は実行前に頓挫したか。
森に入ってからはシャーロットが先頭になって進んでいく。時々立ち止まってるのは、魔力溜まりとやらを見つけているんだろう。
その後ろ姿を眺めていると、ついさっきの仕返しをしたくなるのは人のサガだろうか。
彼女がこっちを見ていないスキにその辺の小石を拾っておく。フッフッフ、覚悟しとけよ? 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだっていうしな。




