第93話 アレク君
金属鎧の男がいなくなったせいか、掲示板の前の人だかりも多少は少なくなったようだ。これ幸いと掲示板に近づくと、それに伴って人混みが割れて行った。
まぁあれだけの騒ぎを起こしたんじゃ仕方ないか。と思ったら一人だけ残っている奴がいた。
肩ぐらいの茶髪に皮鎧、腰にはショートソードを下げたいかにも新人冒険者っぽい出で立ちの少年だ。
こっちを見ているようだから、単に逃げ遅れたわけではなく、俺達というかシャーロットに用があるんだろう。案の定話しかけてきたし。
「シャーロットさん」
「キミか……その様子だと無事だったようだな」
「えぇ、シャーロットさんのおかげで、この通りです」
そういって右腿を撫でる。もしかして怪我してた所をシャーロットに助けられたのかな。
「私はキミをここに連れて来ただけで、足が治ったのはこのギルドの治療師が努力した結果だ」
「えぇ、それは分かっています。でも森で怪我したボクを連れて来てくれたシャーロットさんがいなければ、無事では済まなかっただろうとも言われました」
「そうか……」
シャーロットは照れくさそうにしている。
「それにゴブリン共を蹴散らしたあの剣捌き、凄く格好良かったです」
「そ、そうか……」
今度は満更でもなさそうな顔だ。というかゴブリンを蹴散らしたってどういうこと?
(薬草採取に森に行ったら、丁度ゴブリンに襲われている所に出くわしてな。助けたはいいけど怪我をしてたのでギルドに連れて来たんだ)
(なるほど。それでゴブリンのせいで依頼に失敗したってことか)
(まぁそういうことだ。アレクのせいにするのも何だしな。全部はゴブリンが悪いってことだ)
ゴブリンもいい迷惑だな。まぁ奴らが彼を襲わなければ良かったんだから、自業自得か。ちなみにアレクってのは目の前の少年の事らしい。
というかシャーロットのヤツ、薬草依頼に行った先でゴブリンの集団に襲われた冒険者を助けるって、まさしくテンプレな事してたのか。
しかも、連れ帰ったギルドで、「こ、これは……」もやったらしいし、アイツのスキルに『主人公補正』でもあるんじゃないのかな。
シャーロットとヒソヒソ話をしてたら、アレク君が決意を込めた眼差しで頭を下げた。
「お願いします。ボクを弟子にしてください!!」
「いや、私は弟子は取っていないんだが……」
「そこを何とか! 荷運びでも身の回りのお世話でも何でもします! どうか弟子にしてください!」
今にも土下座しそうな勢いで頭を下げているアレク君。どうすんだよこの状況。
「アレク! シャーロットさんが困ってるでしょ? ダメだって言われたんだから諦めなさい!」
「……………」
おいおい、ここに来て更に増えるとか……しかも二人も。
アレク君を窘めた方が、皮鎧に弓を持った少女。だが特に目を引くのはその髪型だろう。金髪ドリルとか初めて見たし。どうやって形を決めてるんだ? こちらが黙っていたら、そのままアレク君に説教を始めた。どうやら彼女がリーダーを務めているようだ。
無口な方が金属の胸当てを身にまとった熊耳美女。ショートカットの上にチョコンとある熊耳がチャームポイントなんだろうけど、やはり目を引くのはそのデカさだろう。
色んな所がデカい。身長もさることながら、胸部装甲はシャーロットよりデカい気がする。
と観察している間も、金髪ドリル少女の説教は続いている。どうやらアレク君は彼女たちとパーティーを組んでたのに、それを放り出してきたようだ。そりゃ確かに怒られるわな。
そもそもアレク君が怪我したのも、本来は休日にしてたはずなのに、勝手に依頼を受けてったせいらしいし。やらかしまくりだな。
でもドリル少女よ、その辺にしないとアレク君涙目だぞ。熊耳美女はオロオロしてるだけで止める様子はない。何故かつられてシャーロットもオロオロしてるし……俺が止めるしかないのか。
「まぁまぁその辺にしといた方がいいん――」
「部外者は黙ってて!!」
「――ハイ」
結局ドリル少女の説教は周りの野次馬連中が飽きて解散するまで続いた。あまりの長さに俺達も退散したかったが、アレク君の目が「お願いします。逃げないでください」と語っていたので、俺達は渋々付き合っていた。
なお、シャーロットは付き合っているふりをしつつ、掲示板を眺めていたようだ。説教が終わったとたんに、依頼票剥がしてたから間違いない。




