第92話 受注前の出来事
「おう、出かけるならコイツも持ってけ」
俺達が身支度を整えてカギをマロンちゃんに預けていると、ガロンさんが包みを渡してきた。
「例の串焼きサンドだ。弁当代わりに持って行ってくれ」
「「ありがとうございます」」
「なーに、いいってことよ。フリュトンの礼代わりだしな。それより良かったのか?」
「ええ、俺達だけじゃ食べきれませんからね。ガロンさんの方で使って下さい」
中型犬サイズとはいえ結構な量の肉になったフリュトンなので、昨日の夕食会で消費できたのは二割程度でしかない。
飛空艇の冷凍庫に入れて置くのもいいが、ガロンさんに預けてフリュトン料理を作ってもらった方がいいだろうって話になっている。
ガロンさんも腕がなるぜってウキウキしてたんで、きっと美味しい料理が出来ることだろう。特に期待したいのはトンカツだ。
どうやら揚げ物関係は失伝したらしく、トンカツや唐揚げといった料理法がないみたいだ。
失伝したと予想するのは、「揚げ物」という言葉自体は通じているので、かつてはあったけど何らかの理由でいつの間にか途絶えてしまったのだろうって、ガロンさんとシャーロットが話してた。
とにかく、俺が覚えてるのはコロッケの作り方ぐらいだったが、それだってコロッケ好きのロボットが出てくるアニメで覚えてただけだ。
小麦粉卵にパン粉をまぶして揚げればいいんだから、トンカツも似たような感じだろう。後はガロンさんにお任せだ。
一応フライパンに少量の油で焼くというか揚げる料理法の話もしておいたから何とかなるだろう。
ガロンさんとしてはトンカツに使えそうなヒレやロースだけ残して、バラ肉などは今日串焼きにして売るらしい。
その分の代金として大銀貨三枚は受け取ってある。高いか安いかは知らん。ガロンさんを信用するだけだ。
ガロンさんは屋台の仕込みがあるらしく、包みを渡した後はすぐに厨房へ引っ込んでいった。今日は新商品もあるから忙しくなるぜと楽しそうに包丁を振るいだしたのを見届けずに、俺達はギルドへ向かった。
なお受け取った包みはシャーロットが二つとも大事そうに巾着袋にしまっていた。一つは俺の分だからな?
「ところで今日の依頼はどうするんだ? お使い系がいいんだよな?」
「あぁ、出来れば薬草採取を受けられるか? 前回は邪魔が入って達成できなかったんだ」
「薬草採取か……定番と言えば定番だな」
「あぁ、初心者冒険者ならば必ず通る道と言ってもいい依頼だ」
「そんなもんか。まぁ俺もやってみたかったからいいけどな」
「あぁ、今度こそ達成して見せる!」
「ちなみに前回は何でダメだったんだ?」
「……ゴブリンだ」
「へぇ、ゴブリンか。なんだ、襲われて逃げ帰りでもしたのか?」
「……まぁ当たらずとも遠からずだな」
プッ、コイツ偉そうにしてるけど、ゴブリンに負けたの? 俺だって勝てたのに……まぁ不意打ちだったけど。
「もうその話はいいだろ。サッサとギルドに行くぞ」
「ハイハイ」
「ハイは一回だ」
「ハイ!」
「よし、いい返事だ」
「って、どっちに行ってるんだ? ギルドはこっちだぞ?」
「…………行くぞ!」
結局俺が先頭になってギルドに行く。ひょっとしてコイツがリーダーを押し付けたのは、自分が先導するのを避けたかったからとか? ……まさかね。
朝のギルドは相変わらずな混雑っぷりだった。例の金属鎧のデカブツも掲示板を眺めている。ん? こっちを振り向いたな。なんかキョロキョロしだしたし。あ、こっち来た。まさか俺に用があるとか?
「シャーロットさん、今日こそ我々と組んで頂けますかな?」
違った。例のシャーロットと組みたがってるって奴か。ここはリーダーらしくバシッと断ってやるべく、ズイッと奴の前に立ち塞がる。
「生憎とコイツは俺と組むんでな。他をあたってくれ」
「……シャーロットさん、今日こそ我々と組んで頂けますかな?」
無視か? 無視なのか? 俺の存在ガン無視? もっと大胆に断るべきか? 俺の女に手を出すな的な断り方が必要なのか?
「すまないがパーティーは既に組んでるんだ。君達ならもっといいメンバーがきっと見つかるだろうし、私の事は諦めてくれ」
「シャーロットさん!!」
金属鎧の男がシャーロットに掴みかかろうとしたが、彼女はアッサリと躱し、逆に男を投げ飛ばした。うん、投げ飛ばしたよ。一本背負いみたいな感じで。
鎧込みだから下手すりゃ百キロ以上あるだろうにな。まさに柔よく剛を制すを体現してた。
投げ飛ばされた男も訳が分からないって顔をしている。あそこまでキレイに投げ飛ばされると、投げられた本人も何が起こったか分からないようだ。
「急に躓いたようだから驚いてしまったよ。大丈夫か?」
「ぁ? あぁ、大丈夫だ」
シャーロットが手を貸すと男はフラフラと立ち上がり、ギルドを出て行った。これで諦めてくれるといいんだけどなぁ。
あと何故か男が出て行くとき、「アイツだけ羨ましい」とか「俺もやって欲しい」といった呟きが聞こえたのは気のせいだろう。




