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第900話 貝殻の使い道

900話!!

「はー、コイツにこんな使い方があったんだな。俺も長いこと食ってきたけど、全然気づかなかったぜ」


 そう言ってオッサン改めリカルドさんは、ハマグリの貝をカチャカチャと合わせている。

 同じ貝同士はピッタリ組み合わさるが、別の貝同士だとどうやってもキチンと組み合わない。

 この性質を利用した遊びが『貝合わせ』である。


「なるほどなぁ。で、この貝合わせってのは、貝に二つで一つになるようなモノを描いて合わせるワケか」

「えぇ。俺の知ってるのだと、和歌……有名な詩とかを書いたりしましたね」

「詩ねぇ……そんなのが売れるのかね」

「どうですかねぇ」


 貝合わせってのは平安貴族の遊びだったらしいからな。

 そういった層をターゲットにすれば売れるかもしれんけど、こんな村に伝手があるとは思えない。

 だからといって庶民層をターゲットにしようにも、この世界の識字率からすれば売れるとも思えない。

 仮に売るとするなら詩なんて高尚なモノではなく、もっと分かりやすいモノ……例えばカルタ的な扱いのほうがまだ売れるかもしれん。


 あ、むしろ英単語帳みたいな使い方のほうがいいのか?

 片方に身近にあるモノの絵を描き、もう片方にはその名前を書く。

 英単語帳は裏返せばその意味を知ることが出来るが、『貝合わせ』は貝同士を合わせて答えを確認すればいい。

 モノの名前と表記の仕方を学ぶには、ちょうどいいアイテムのように思える。


「おお! そりゃいい考えだな。文字は村長が分かるし、問題は一つ一つに書くのがちょっと手間なぐらいか。

 まぁその辺は引退して暇そうにしているジジババかガキどもにやらせればいい。アイツ等の小遣い稼ぎにはちょうどいいだろう。

 捨てるしかない貝殻が売り物になるなら、やってみる価値はありそうだ」


 俺の適当アイディアを真に受け、次々と決めていくリカルドさん。

 あー、そうか。印刷技術なんてない世界だと、書くのは全部手書きになるのか。

 しかも文字はともかく絵も描くとなると、かなりの手間だろう。

 工賃を考えると、販売価格はとんでもない額になりそうだ。


 それでも廃棄物が金に化けるなら、やってみるらしい。

 うまく軌道に乗れば、貝しか売り物のなかった村に、新たな産業が生まれることになる。

 初期投資としても、貝に絵や文字を描く道具ぐらいだしな。


「でも、なんでまた貝合わせに興味を?」

「いや、実はな……ここんとこ貝をルフェテにも売りに行ってるんだけど、貝殻の処理に困っていてな。向こうじゃ海に捨てると問題になるらしい」

「そうなんですか……」


 もともと海から採れたものなワケだし、元あった海に返すのではマズいのかね。

 まぁその辺の事情は、余所者の俺がどうこう言える立場ではない。

 問題なのは処理に困った大量の貝殻だ。


 この村が面している海は遠浅で、実は船を出そうにも船底がぶつかってしまうらしい。

 そのため、船に貝殻を積み、沖合で廃棄することが出来ないのだ。

 今は馬車を使って遠く離れた崖まで運び、そこから投棄しているそうだ。

 向こうの世界なら、不法投棄で一発アウトな案件である。


 ただまぁ、それなら特に問題は無いワケだし、現状維持のままでいいじゃん……と言いたいところだが、そこは人間の考えること。

 何度も投棄していれば面倒だなぁ……なんて思ってくるし、何か別の使い道がないかなぁ……なんて思いたくもなる。


 オッサンもといリカルドさんもその一人だったらしく、日々捨てられる貝殻の事で頭を悩ませていたらしい。

 そんな時にふと見かけたのが、『貝合わせ』をしていた俺の姿だった。

 捨てるしかない筈の貝殻が何やら遊びの道具になると知り、たまらず声をかけてしまったんだそうな。


 つまりリカルドさんが知りたかったのは、『貝合わせ』そのものではなく廃棄される貝殻の使い道。

 それも数百個使う程度の『貝合わせ』では話にならないほどの、大変な量の貝殻である。


 が、俺はその使い道に心当たりがあった。


 思い起こされるのは某アイドルグループが農業だけでなく島の開拓までやっているTV番組。

 毎回、あのアイドルグループがドコを目指しているのか分からなくなってくる、あの番組だ。

 その中で紹介されたのが『三和土たたき』と呼ばれる和製コンクリートだ。

 たしか貝殻を高温で焼くと得られる石灰が、三和土の材料となっていたはずである。


 それに石灰といえば石鹸の基になるし、畑の肥料にだってなったはず。

 学校の校庭に引かれる白いチョークラインも石灰が原料だし、乾燥剤や発熱材に漆喰と用途は多岐にわたる。

 貝殻に秘められた可能性は、リカルドさんが思っている以上にあるのだ。

900話メモ


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