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第898話 トラップ発動! 自身の焼きおにぎりを犠牲に、ショータの口にダイレクトアタック

 貝の残りが心許なくなってきたな。

 やはり貝売りのおっちゃんの所に行かないとか。

 そう決断し、さっそく買い出しに向かおうとする俺だが、その眼前に広がる光景をみて思いなおす。


 目の前、海じゃん!

 潮が満ちてるけど、濡れるの我慢して掘り返せば、貝なんて食い放題じゃん!

 むしろ潮が満ちている分、小魚とかも獲れるかもしれないじゃん!


 俺は華麗にUターンすると、そのまま海へと向かう。

 ズボンのすそを上げ、バシャバシャと膝下ぐらいまで海に入ると、さっそく砂の下に埋まっているであろう貝を探し始める。


 暫く手探りで探してみるが、なかなか貝は見つからない。

 うーむ、さすがに勘だけでは難しいか。

 かがんでいた腰を伸ばしていると、シャーロットが冷ややかな目で見つめているのに気付く。


「……ショータ。お前は一体、何をしているのだ?」

「何って……見りゃ分かるだろ? 潮干狩りだよ。潮満ちてるけど」

「そうか……私には道具もなしに貝を密漁しようとしてる愚か者に見えるな」

「道具はたしかにその通りだが……密漁?」

「あぁ、密漁だ。まさか村のすぐそばで、勝手に漁が出来るとでも思っていたのか?」

「え? 出来ないの?」

「一般的には村から見える範囲では、その村の責任者の許可が必要だな」


 今、俺がいるのは村からも十分見える場所。

 つまり見つかれば当然の様に罰せられる。

 まぁ少量であれば見逃してくれるかもしれんが、とにかくマズいのは確かだ。


 俺は何事もなかったかのように、グリルの前に戻ってくる。

 足元はびっちゃびちゃだけど、まぁその内乾くだろう。


 グリルの上には焼かれている途中の貝と共に、白くて三角なモノまで焼かれていた。

 どうやらアレク君が気を利かせて用意してくれた焼きおにぎり(生)のようだ。

 決してハンペンでも化粧パフでもない。

 そもそもハンペンはともかく、化粧パフは焼いても食えないだろう。

 食わせようとしても、全力で拒否するな。


 軽く焼き目をつけてから醤油に浸し、もう一度焼く。

 醤油の焼ける香ばしい匂いは、何度嗅いでも食欲がそそられる。


「ふむ……この香りはニンニクか?」

「はい、シュリさんからニンニク醤油というのが、焼きおにぎりにはピッタリだと」

「こんなこともあろうかと、アレク君に頼んでいたっスよ」


 ドヤ顔するシュリ。

 貝汁に続いての功績は認めるが、実際に用意したのはアレク君だ。

 お前が偉そうにドヤるのは、なんか違うと思う。


「更にこうして細かくした唐辛子をかけるのが、ウチ流っス」


 いい感じに茶色く焼き目のついた焼きおにぎりに、パラパラと一味唐辛子を掛けるシュリ。

 ウチ流とか気取るのはいいが、辛いのがダメなベルもいるんだから、少しは気を使え。

 まぁここ数日のカレー攻勢に、少しは耐性がついているようだけどな。


「はい。ショータさんには特別に、醤油マシマシ辛さマシマシにしておいたっスよ」


 おい、バカ、やめろ。

 明らかに量がおかしいだろう。

 なんだよ、下面は醤油べったり、上面は唐辛子べったりって。

 どう考えても味のバランスとかメチャクチャになるだろうが。


 しかも自分の分であろう焼きおにぎりには、醤油は適量が満遍なく塗され、唐辛子もパラリ程度。

 アレぐらいが一番美味しいバランスだろう。

 どうせなら俺もそっちが食いたい。


 シュリは鍋奉行ならぬ焼きおにぎり奉行になったつもりなのか、頼みもしないのに程よく焼けた焼きおにぎりをレイアちゃんやクレアに渡している。

 自身の焼きおにぎりとは離れており、今ならすり替えられそうだ。


 俺はそっと『隠密』を発動させ、存在感を限りなく薄くさせる。

 至近距離での使用は効果が薄いのだが、他の事に気を取られているならば十分に通用するはず。

 勘のいいシャーロットは俺の動きに気付き、一瞬ニヤリと笑みを浮かべたようだが、その後は黙って焼きおにぎりを頬張っている。

 自身の焼きおにぎりが狙われていないのであれば、俺の行動を邪魔したりはしないようだ。


(抜き足差し足忍び足……っと)


 スキル『隠密』は気配を薄くする効果があるが、その効果が最も効率よく発揮されるのはやはりジッと動かずにいる時だ。

 なので『隠密』の効果を最大限に引き出すべく、ソーっと動きながらシュリの焼きおにぎりに近付く。

 チラリと概観視でシュリの様子を探るが、彼女が俺に気付いた様子はない。


 よし、イケる!

 俺は素早く自身の醤油と唐辛子がたっぷり塗された焼きおにぎりを、シュリのモノとすり替えると素早くその場から離れる。

 俺の手元に残るのは、美味そうに焼けた焼きおにぎり。


 下手に残していては見つかってしまう。

 証拠隠滅のためにも、さっさと食うべきだろう。

 早く食わないと冷めるしな。


 あーんと大きく口を開けると、焼きおにぎりにかぶりつく。

 あぁ、この醤油の香ばしさとニンニクの香りはたまらないな。

 さらに唐辛子のピリッとした辛さが、いいアクセントになる。


 モッシャモッシャと咀嚼していると、口内にガリっとした感触が。

 なにか塊のようなモノを噛んでしまったようだ。

 アレク君が握ったにしては、珍しいこともあるもん…………


「しょっぺーーーー!!」


 あまりの塩っ辛さに、たまらず吐き出してしまう。

 それだけでは口の中の異常は収まらず、何度も水で口の中をゆすぐ。

 くそっ、せっかくの焼きおにぎりが台無しだ。


 おにぎりの具として塩の塊を仕込むとは何て奴だ。

 こんな悪魔のようなトラップを仕掛けたであろう犯人を睨みつける。

 だが、その犯人は「引っかかったっスね」と言わんばかりのニヤニヤ顔だ。

 あのやろう、俺がすり替えることを見越してやがったな。


 しかも、おそらくはシャーロットもグルだ。

 俺がすり替えしようとしていたあの時、彼女がニヤリと笑って見せたのは、この後俺を襲う悲劇を見越していたからだろう。

 ヤツの口にも塩の塊をねじ込んでやりたい。

 実際やろうとすると、返り討ちにあって逆にねじ込まれるのがオチだろうから、しないけど。

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