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第880話 飲酒は二十歳になってから

 シャーロットが持つジョッキをジーっと見つめるレイアちゃん。

 その様子から察するに、あの中身を自分も飲みたいようだ。


 だが見た目は一桁台の少女なレイアちゃん。

 そんな彼女がジョッキを装備するのは別の意味で事案モノだろう。

 なにより絵面が悪すぎる。


 西部劇ではないが、ここは「うちに帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」と告げるべきシーンだな。

 爬虫類っぽいドラゴンに、おっぱいがあるのかは知らんけど。

 レイアちゃんのボディーはつるーんぺたーんだからな。

 サンプルがレイアちゃん一人では、真相は闇に包まれたままだろう。


「……ん。苦い」


 そんな事を考えているうちに、事態は次の段階へ至っていた。

 レイアちゃんの視線を察した阿呆が、己の左手に装備していたジョッキを、彼女に差し出しやがったのだ。

 差し出されたジョッキを躊躇いもなく受け取ると、そのままグビリ。


 そして発せられたのが先の言葉である。

 どうやら想像していた味とかけ離れていたらしく、形のいい眉が顰められていた。

 ピリ辛の唐揚げは彼女の口に合ったようだが、ビールのほうは今一つだったか。


 まぁ気に入られて飲兵衛が一人増え、ビール代が嵩むようになっても困るしな。

 もっとも、ウチのビールはサーバーから無尽蔵に出てくる上、代金を請求されたことないけど。

 その内とんでもない額の請求書が来たりするのかね。


 ま、とりあえずレイアちゃんの『ビールに興味津々問題』は解決したな。

 己が身をもって経験したのであれば、もう一度飲みたいとは言いだしたりしないだろう。

 というか、彼女が興味を持っていたのはビールではなく、それを内封していた器であるジョッキのほうだった。


 火龍種というかドラゴン全般に言えるのだが、基本的に彼らはキラキラしたものを集める習性があるらしい。

 そのため、ドラゴンの巣にはお宝が山となっている……というのが、この世界の共通認識らしい。

 実際の所はキラキラといっても千差万別で、お宝だったケースもあるにはあるが、そのほとんどが二束三文のガラクタだったそうな。

 もしかして、この世界のドラゴンってカラスと同類だったりするのだろうか。


 なお、明らかに未成年っぽいのに飲酒してしまったことに関しては目をつぶることにした。

 俺だって小学生ぐらいの頃に、興味本位で似たような事はしたからな。

 罪を犯したことのない者だけが石を投げることが出来るというのなら、俺にその資格は無いのだ。





「ごちそうさまでした」


 大皿に盛られていた唐揚げも、最後の一つをレイアちゃんが食べて完売。

 おひつのご飯や寸胴鍋の中身もすっからかん。

 今日も美味しいご飯をありがとう。

 感謝の意を込め、ご馳走様をする。


 『いただきます』と『ごちそうさま』の習慣は、すっかりメンバー内に定着している。

 だが、レイアちゃんも同じように『ごちそうさま』をしたのには、ちょっと驚いた。

 リョーマ氏に箸の使い方だけでなく、日本人的な食事の挨拶も学んでいたらしい。


 絶対的強者である火龍様に箸使いやら『いただきます』を仕込むとか、リョーマ氏はドラゴンをなんだと思っていたのだろうか。

 問い詰めてやりたくなるが、彼は既に土の中だ。

 この程度の疑問でわざわざ掘り返すわけにもいくまい。

 そもそも掘り返したところで、アンデッド……それも理性と記憶が残っている上位のモノでなければ、受け答えすら出来ないしな。

 まさしく「真相を墓場まで持っていく」ってヤツだ。


 夕食兼歓迎会を終えたら、あとは自由時間だ。

 己の趣味に時間を費やすもよし、明日の仕込みをするのもよし。

 三々五々、散って行く。


 俺はもちろん露天風呂だ。

 先ほどはゴブゴブに驚いてしまったせで、結局大浴場になってしまったからな。

 今度こそ満天の星空を見上げながら、露天風呂に漬かるのだ。


 ガラガラと脱衣所から露天風呂へと続く扉を開く。

 そこには先客はおらず、俺一人の貸し切り露天風呂だ。

 俺はサッと体を洗うと掛け湯をしてから岩を組み合わせて作られた湯船に肩まで漬かる。


 少しづつ暖かくなってはいるが、やはり夜の屋外は寒く感じる。

 全裸ではなおさらだ。

 そんな冷えた体を、温泉は優しくじんわりと温めてくれる。


 見上げればかけ始めた月と満天の星。

 これこそが露天風呂の醍醐味だろう。

 ふと、思い至って灯されていた便利魔法の『明かり』を消してみる。


 途端、辺りは完全な闇に包まれ、光源となるのは天に輝く星々だけ。

 頭を湯船の縁に預け全身の力を抜くと、体に感じるゆらりとした浮遊感。

 それはまるで己が身一つで宇宙遊泳をしているかのよう。

 俺はのぼせそうになるまで、疑似宇宙遊泳を楽しむのだった。

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