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第863話 自宅の風呂が温泉という贅沢

「う゛あ゛ぁ゛お゛~~~」


 思わず気の抜けた声が出てしまったが、それも当然か。


 勝手知ったる我が家ともいえる飛空艇の大浴場。

 その浴槽に張られた湯が温泉になったのだ。

 温泉のリラックス効果と自宅の風呂のリラックス効果が相まって、リラックスが天元突破するのは必然ともいえる。


 リョーマ氏の露天風呂も雄大な景色が見えたりと良かったけど、やはりウチの大浴場が一番だな。

 あっちの洗い場はちょっとごつごつしてて、微妙に足の裏が痛かったりする。

 まぁ温泉の泉質のせいで湯がぬるっとしているから、足を滑らせないようにしてあるからなんだろうけど。

 それでも気になるっちゃ気になるのだ。


 その点、我らがダンデライオン号の大浴場はぬるっとすることは無い。

 ダンジョン研究の第一人者(と俺が勝手に思っている)シャーロットの話によれば、飛空艇ごとダンジョン化しているおかげで、ぬるっとする成分は船が勝手に吸収しているんだとか。

 しかも吸収しているのは洗い場などの足を滑らせやすい場所だけで、湯船の中とかまでは吸収していないらしい。

 なに、その便利機能……マジでダンデれもん様の目指している先が謎である。


 と、リラックスが天元突破していたおかげで現実逃避していられたが、さすがにそろそろ気にするべき頃だろうか。

 とりあえずは……まぁ、この温泉からかな。

 魔王様(元)と火龍様(お子様)の二人がお墨付きくれた『泉質変更の玉』を露天風呂に投げ込んでみた。


 すると温泉から金の斧と銀の斧を持った女神様……は出てこなかったが、代わりに『MP1を消費して、この泉質をに登録しますか? MP60/60』と、ウィンドウが現れたのだ。

 もちろんムニョっとMPを支払って泉質を登録したのだが、この後どうすればいいのかで暫く悩んだ。


 泉質を登録したせいか、先ほどまでは白くて艶っぽい、それこそ月見団子みたいな見た目の玉だったのに、今はそれらに加えてほんのり光り始めている。

 それはいいのだが、これでウチの大浴場でも温泉が湧くようになったのだろうか。

 さっそく大浴場に戻ってお湯張りをしてもらったが、温泉のようなぬるっと感はなく今まで通りのお湯だった。


 MPを支払ってまで登録したのだから、絶対に温泉がこの大浴場でも湧くようになるはず、と色々と試してみた。

 例えば玉を張られた湯の中に投げ込んでみたり、あるいはウィンドウでも出ないかと玉を弄り回してみたり。

 迷走した挙句、玉を持って「温泉にな~ぁ~れ」とか叫んでみたりもした。


 さんざん試行錯誤しタンポポにも相談した結果、ようやく判明した温泉への変更方法。

 それは湯を吐くライオン像に玉を食わせることだった。


 ガボガボとライオン像が吐き続けるお湯が微妙に熱いのが地味にキツかったが、なんとかライオンの口に無理矢理玉をねじ込んだ。

 するとライオン像の頭上に、登録された玉の内容を湯に反映するか否かを聞いてくるウィンドウが立ち上がった。

 反映にはMPを要求されることは無く、YESボタンを押したとたんに湯船の湯が一瞬にして白く濁った。

 てっきりライオン像の吐く湯が温泉に変わるのかと思っていたので、この変化にはちょっと驚いた。


 あと相変わらずライオン像の存在理由が薄い。

 一応、今回は玉に登録された泉質を反映させるためのギミックとしてライオン像は必要だった。

 だが、一瞬にしてお湯が張られたり温泉に代わるのなら、湯を吐く部分は必要無いのではなかろうか。

 あれかね? 銭湯にある富士山の壁画と一緒で、無いと寂しいから設置されているだけなのかね。


 そんな感じにてんやわんやして、なんとか大浴場に温泉を引き込むことに成功した。

 となれば大浴場での温泉を楽しみたくなるのが人情だよな。

 自宅の風呂が温泉になるなんて、温泉地に住む人以外だとかなり贅沢な話だろうし。

 温泉完備の飛空艇って、マジでダンデれもん様の目指す先が謎である(二回目)。


 そんな感じで温泉引き込み問題のほうは解決したのだが、もっと大事で重要な問題が残されている。

 言わずもがな、レイアちゃんである。


 シャーロットに教わって『泉質変更の玉』を取りに来たら、レイアちゃんにバックドアの事がバレてしまった。

 まぁ正しくは大浴場の存在を知られただけで、バックドアや飛空艇の事まではバレていない。

 なので彼女にはお風呂場を呼び出せるようなスキルだと説明しておいた。

 実際、呼び出せているので嘘はついていない。


 そのレイアちゃんだが、露天風呂以外の風呂が珍しいのか、洗い場の混合栓を弄り回したり、サウナルームに籠ったりとウチの風呂をかなり堪能しているようだ。

 リョーマ氏の露天風呂って湯船の部分は立派だったけど、それ以外の部分はイマイチな感じだったからな。

 特に混合栓のような水とお湯を両方出せる蛇口の開発は、少々難易度が高かったようだ。


 いや、それ以前に水と湯を巡らせる配管工事自体が、この世界じゃ厳しい気がする。

 竹はあっても所詮は植物なので、いつかは腐敗してしまう。

 メンテナンス性を考えれば土管のようなモノで配管するしかないけど、それだと太すぎるしな。

 向こうの世界にあった水道管みたいに細くて耐圧性の高い配管なんて、この世界ではオーバーテクノロジーだろうし。


 ちなみにこの宿の水源は温泉の源泉とは別の所から普通の水を引いてきていており、生活用水や温泉の温度を下げるのに使っているようだ。

 その辺は露天風呂に漬かっているとき、レイアちゃんが教えてくれた。


 っと話が逸れたな。

 とりあえずレイアちゃんは、大浴場のような内湯は初めてだったらしい。

 ほかにもシャンプーやボディーソープなんかも初体験っぽいし、新しいお風呂の楽しみ方を知ることが出来たようで何よりである。


「……ん。興味深い。ショータにはずっとここに留まっていて欲しい」

「すまんが、それは聞けない相談だな」


 温泉は大好きだけど、ずっとは居られない。

 例の世界二位とやらのほとぼりが冷めればマウルーに戻るつもりだし、もっといえば飛空艇で世界を巡ってみたい気持ちもある。

 なによりココだと温泉以外何もないからな。

 正直すぐに飽きてしまうのがオチだろう。


「……ん。なら私がショータについていく」

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