第852話 この地方のモノに比べれば
「ほう……ドアの先に部屋があるとは……魔道具というのは不思議なものじゃのう」
「そ、そうですね」
爺さんにバックドアが見つかってしまったが、俺のスキルで呼び出したことまではバレていない。
なのでいつもの様に、ドアの先に空間がある不思議な魔道具だと言って誤魔化すことにした。
マジックルームどころか普通のマジックバッグすら見たことがないらしいから、十分に誤魔化せるだろう。
「ドアから覗いた程度じゃが、中はかなり広そうじゃったのう」
「え、えぇまぁ」
広いというか、飛空艇の内部そのまんまだからね。
全長45m、全高15m(目測)のラグビーボールの中身ともなれば、ちょっと大きめの家ぐらいの延べ床面積はあるだろう。
言っちゃなんだが、爺さんの家より広いと思う。
「アレはちゃんと元に戻せるのじゃろ?」
「も、もちろん」
「ならええわい。部屋も綺麗にしてくれたようじゃしの」
綺麗にしたのはシャーロットの魔法によるものだが、ここは正直に話したところでお互いが気まずいだけになるのでスルー。
結果、彼女の手柄を奪う形になってしまうけど、まぁアイツもバックドアが出たままに気付かずに鬼ごっこを提案してきたワケだし、相殺ってことで。
そんな感じで爺さんと話し込んでいると、ドヤドヤとシャーロット達が戻ってきた。
だがシャーロットが妙に睨んでいるように見えるのは何故だろう?
「もー、ショータさんが戻ってこないから、あたしが追いかけられる役をすることになったっスよー」
「あー、そりゃすまんかったな」
なるほど、シャーロットが睨んでいたのは、俺が結果的には朝練をバックレたからか。
で、俺を見逃したシュリが俺の代役に収まった、と。
いや、自業自得じゃね?
シュリが余計なことをしたせいで、俺が慌てて戻る羽目になったのだからな。
しかも爺さんにも結局は誤魔化せはしたがバックドアを見られたわけだし。
どちらかといえば、俺のほうが謝ってほしいぐらいだ。
あ、そうそう。
爺さんにバックドアを見られたのは、俺達の部屋のドアが開きっぱなしだったかららしい。
ドアも開けっ放しで朝練とは……と、気を利かせた爺さんがドアを閉めようとしたがうまく締められず、変じゃな……と部屋に入ったところ、ドアストッパーが挟まれたままのバックドアを見つけたようだ。
もちろん開けっ放しにしたのはシュリである。
ヤツは謝るどころか、焼き土下座してもいいぐらいな気がする。
もしくはロケットさん揉み放題券を十枚綴りでも可。
むしろそっちをくれ。3Dプリンターで量産してやるから。
シャーロットにもバックドアの件をそれとなーく知らせてやると、ようやく睨みつけるのをやめてくれた。
そりゃ村の入り口に到達するっていう勝利条件が、シュリの手によって封じられていた事を知ったとなれば当然である。
なんならお前も褐色スライムさん揉み放題券を十枚綴りで渡してくれてもいいんだぜ?
当然、3Dプリンターで量産するけど。
「あの……食事の用意が出来ました」
マジックルームという形でだが爺さんにもバックドアのことがバレたので、アレク君も遠慮なく飛空艇の厨房を使ったようだ。
俺が買った来た(パシらされたともいう)パンとスープだけでなく、タマコ産の目玉焼きにソーセージまで付いた、ずいぶんと豪勢なメニューである。
「パンは軽くトーストしてありますので、このバターをどうぞ」
焼き立てのを買ってきたのだが、なんやかんやで少々冷めていたようだ。
カリッと香ばしい匂いが実に食欲をそそる。
味の濃いバターと塩の平原産の塩を掛けて頂けば、それだけでご飯三杯はイケるな。
目玉焼きは……いいねぇ、この半熟加減は実に俺好みだ。
トロリとした黄身の部分を、パンですくって食べるのもいいね。
チラリと周りを見れば、クレアとベルの分はしっかりと焼かれている。
それぞれの好みごとに焼き加減を調整してくるとは、なかなかの心遣いである。
「こんなに美味い飯が食えるとは。お前さん達を泊めてよかったわい」
宿泊代と口止め料にはなったかね。




