第84話 壁
いそいそとシャーロットが待つであろう大浴場に入る俺。流石にタオルで前は隠しておく。さてシャーロットはどうしてるかな?
ちゃんと彼女が体を洗ってから湯船に入るよう注意するためであって、他意はない。あぁないとも。
完璧な理論武装をした俺は、シャーロットの姿を探す。って、何だアレ? 洗い場のとこに壁というか衝立っぽいのが出来てる。出来の悪いガラスのような衝立は、奥にいるシャーロットの姿をボンヤリとしか見ることが出来ない。
近くに寄ってみればヒンヤリとした冷気が漂っている。コレ、氷か。氷の衝立が突然現れたってことか。まぁ犯人は分かりきっているが、一応答え合わせしておこう。
「この衝立はシャーロットが?」
「あぁ、私が作った。でないとショータが放り出されるようだからな」
「はいぃ?」
なんで氷の衝立がないと俺が放り出されるのだろうか。もっといえば、なぜ俺の飛空艇というかスキルから、俺自身が害されなければならないのか、小一時間問い詰めたい。
「ショータが大浴場の扉を開けた時に、ウィンドウが出てきたんだ」
「は?」
ウィンドウには、次のような警告文が記載されてたそうだ。
『警告! 侵入者アリ。直ちに対抗処置を講じてください』
『侵入者を船外に強制退去しますか?』
…………マジでどうなってるの? 俺のスキルだよな? いつの間にかシャーロットに奪われてるとか、そんなネット小説によくあるスキル強奪な展開になってないよな? うん、大丈夫だ。ちゃんと俺のスキルのままだ。
だが、ちょっと待て。昨日お湯張りを試したときは、俺が先に大浴場に入ったはずだ。その時はそんなウィンドウは現れなかった。
つまり、この警告は女性にが入ってるときに現れる仕様ってことか……………いらないよね?
『現在「機能:侵入者警告」が展開中です。展開を解除しますか?』
『現在「機能:侵入者排除」が展開中です。展開を解除しますか?』
えーっと、どういうこと? 警告や排除ってのはさっきのシャーロットの話の通りだろう。だがなぜあのタイミングで出る?
気になるのは侵入者という単語。えっ、まさか邪な感情が侵入者判定に引っかかったってこと?
いや、俺はそんなこと考えてなかったはずだ。心外だ! 冤罪だ! 濡れ衣だ! ところで送還中に船外に排除されるとどこに行くんだろう?
ま、まぁそれはさておき、この機能はそのままにしておこう。とりあえず今は風呂を堪能しないとね。うん、風呂だけだよ? 混浴だーとか考えてないよ? 本当だよ?
「ショータ……また警告が出たんだが……」
「なんかスマン」
無心になって体を洗う。無心のまま湯船に入る。今なら悟りが開けそうだ。なお湯船には、お湯の壁がそびえ立っている。まぁそういうことだ。
極力横を見ないようにゆったりと湯船につかる。頭にはタオルをのせておくのが俺の流儀。
二人とも船尾側を向いて浸かっているので、必然的に外を眺めることになる。まぁ送還中だから外の景色は見えないけどね。なんか真っ暗なままだ。星空とか見えないかな?
『MP1を消費し「機能:船外風景(星空)」を開放しますか? MP12/18』
へぇー、こんな機能もあるんだ。他の風景もあるのかな? お、出た出た。といってもそんなにないな。夕焼けとか空とかだけだ。光学迷彩の時みたいに、ズラーっと出るのかと思ってた。プレビューも見られるようなので、夕焼けを試してみるか。
あーこれ、この船が見た風景なのか。夕焼けが塩の平原の時のだ。うん、これにしよう。おっと、ちゃんと言っとかないとな。
「おーい。これから外の景色を変えてみるから、驚くなよー」
「わかったー」
『MP1を消費し「機能:船外風景(朝焼け)」を開放しますか? MP12/18』
夕焼けじゃなくて、朝焼けだったか。まぁ大して変わらんな。ムニョっとYES。やはり飽きないこの感触。スゥッと黒から赤に切り替わる景色。
うーむ、やはりいい。風呂から見る塩の平原の朝焼け。格別ですな。惜しむらくは静止画なことか。朝日が昇るさまとか見たかったのに。まぁ、現地に行く楽しみがあると思えば、これもまたよし。
「……」
シャーロットも言葉を失ってる様だ。いつか彼女にも生の景色を見せてやりたいな。




