第83話 船
「まぁまぁ、リーダー殿。お礼に風呂を用意したから、是非堪能してってくれ」
「いや、俺の飛空艇だからね? 確かにお湯張りはしてもらったけども」
「細かい事は気にするな。なんなら一緒に入ろうか?」
シャーロットぇ……ちょっとジャンケンに勝ったぐらいで調子に乗ってやがる。いつものフフン顔に加えて腕組みまでしてる……乗ってるんだよ何がとは言わないが。あ、調子か。
まぁ、リーダー決定ジャンケンにあっさり負けて、泣きの一回でも負けて、三回勝ったらってことにしても負けたなら、彼女が調子に乗るのも仕方ない。って、いくらなんでも、俺ってジャンケン弱すぎだろ!
まぁ決まったものは仕方ない。なんか仕方ないと諦めることが多い気もするけど、人間諦めが肝心だよね。
俺としてはさっさと風呂に入って不貞寝したかったけど、目ざとくバックドアを見つけたシャーロットが、しっかりついてきたし。
せっかく来たんでと、彼女にお湯張りを任せた結果がこれか。ありがたいと言えばありがたいけど……なんだかなぁ。増々調子付いただけだったかなぁ。
コイツどうすべ? チョップでもするか? いや、いっそ逆手にとろう。
「じゃあ、お願いしようか」
「えっ、いや、その……」
「入ってもらえないのか……残念だなぁ。折角パーティー組んだんだから、裸の付き合いでもして親睦を深めようとしたんだけどなぁ」
「これは……あれだ……でも……」
ふっ、案の定ワタワタしだしたな。これに懲りて、変な軽口は慎むんだな。今度は俺がフフン顔するターンだ。
しばらくフフン顔してやってたら、シャーロットの目がグルグルしだした。どうやら少しは反省したようだから、助け船でも出してやるか。
「まぁ一緒に入るのが難しいなら、背中でも流してくれよ」
「えっ……いや……でも……」
ふっ、残念だったな! その助け船、実はドロ船だったのさ! さぁ沈むがいい、この湯船にな! 船だけに!
同窓会のとき、営業マンになった木村が延々と語ってた『初めに無理なお願いをした後に、ちょっとハードルを下げたお願いをすると、割となんとかなる』って言ってたことが、役に立ったぜ。
ありがとう木村。あれ? 田村だったっかな? まぁいいか。
シャーロットは増々グルグルしてる。グルグルしすぎて、とうとうグルグル歩き回りだした。うまい具合に真剣に検討しだしたようだな。
フフフ、計算通り。面白くなってきたので、ニヤニヤしながら彼女の悩む様を眺める。さぁどうする? どうなる?
あ、止まった。ようやく決心がついたようだな。さぁ観念して、リーダー様の背中を流すがいい。
「えーい、一度口にした以上、曲げることは出来ん! よし! 入るぞ!」
「はぁ?」
突然叫んだかと思うと、スポーンと全裸になったシャーロットが、さっさと大浴場に入っていく。呆気に取られて脱衣所に取り残される俺。どうすりゃいいんだ? よし、ここはいつもの三択だ!
A案:折角なので、お言葉に甘えて混浴!
B案:流石はシャーロットさん、おっとこまえー 男同士なら問題ないよね。よし混浴!!
C案:俺は男だ! 背中は見せないぜ!! いざ混浴!!!
混浴一択じゃねえか。まぁいいか。人間諦めが肝心だよね。俺もさっさと脱いで大浴場に向かうとしよう。
営業の話はドアインザフェイスというそうです。




