第81話 お誘い
部屋に戻った俺は早速クローゼットの奥にバックドアを呼び出す。さぁ入ろうかって時にドアがノックされた。やはり来たか。
ドアを開ければ案の定シャーロットが立っている。
「……その……いいか?」
「あぁ……どうぞ……」
とりあえずガロンさん達に見られる前に、さっさと部屋に招き入れる。何となく用件は想像がつくしね。
「で、何の用だ?」
一応聞いておくかね。変にモジモジしてるせいで紛らわしいし。
「その……なんだ……」
一々溜めんなよ。お前の魂胆は分かってるんだよ。アレだろ? アレがしたいんだろ?
「よかったら私とパーティーを組まないか?」
「ふぇ?」
え? それ? 風呂じゃなかったの? てっきり風呂に入らせろって言いに来たんだと思ってたんで、変な声出ちゃったよ。
しかしパーティーか……この場合のパーティーってのはギルドの依頼を一緒にこなすためにチームを組もうって意味だよね。
一人では困難な依頼も大人数で挑めば難易度は下がるし、お互いが助け合える分生存率は上がるから、新人はなるべく早くパーティーを組んだ方がいいって受付嬢も言ってた。
だけどパーティーを組むってのはメリットもあるけどデメリットもある。メリットはさっき言った通り達成しやすく、なおかつ生存率も上がる。
デメリットは依頼の報酬や獲物の素材なんかが山分けになるから、収入が減るってことか。あとはレベルも上がりにくくなるってのもあるか。これは経験値的なものが頭割りになるかららしい。
パーティーの組み方には他に、高ランクの人と組んで色々なノウハウを学んだりするパターンもあるけど、これはよく相手を見てから決めた方がいいって忠告されたな。
受付嬢は言葉を濁してたけど、なんとなく想像がつく。多分変なヤツと組むと、よくてパシリか子分。下手すりゃ囮か鉄砲玉みたいな使い捨てにされ、最悪は死だ。
って考えたけど、彼女が俺を使い捨てにするってのはないな。せいぜい風呂目当てぐらいだろう。あとは石鹸か。まぁどっちにしても命に係わるレベルじゃない。
逆にパーティーを組んだ場合、彼女から色々と教わることが出来るだろう。たとえば魔法関係とか、一般常識とか。
もっと考えると、他の人と組んだ場合、飛空艇召喚の問題がある。うかつに使えないし、バレたら面倒だ。かといって彼女みたいな人間がそうゴロゴロしてるとは思えない。というかしてたら逆にヤバそうだ。
つまり俺にとっては、彼女とパーティーを組むのは渡りに船とでも言えよう。だけど彼女のメリットは何だ?
デメリットは俺という足手まといと抱えることだろう。あとは俺の常識の無さで迷惑をかけるってのもあるか。
だがメリットが思いつかない。さっきの話じゃないけど風呂か石鹸位じゃないかな。俺自身というより飛空艇目当てぐらいだろう。まぁ一目惚れって言われるよりは納得できるけどね。
「パーティーを組むのはいいが、シャーロットのメリット……えーっと利点は? 正直俺は俺みたいな弱い奴と組みたいとは思えないんだけど……それとも飛空艇が目当てか?」
言ってて傷つくが事実だ。俺だったら、こんな常識もないしレベルも低いような奴と組みたいとは思わない。
「そう自分を卑下するな。それに飛空艇は多分関係ない。私としてはむしろ弱い方がいいのだし」
「……どういうことだ?」
弱い方がいいって意味わかんない。あれか? 弱者をいたぶって悦ぶのか? それとも私TUEEでも見せつけたいとでもいうのか?
「正直言うとだな、昨日あたりからパーティーの勧誘がひどいんだ」
なんだそれ? 自慢か? 私は引く手あまたなんですよ自慢か? でもシャーロットは本気でウンザリしてるようだ。
「まぁこの辺じゃ魔族が珍しいだろうから仕方ないとはいえ、一昨日叩きのめした奴なんか、パーティーの勧誘なのに、もっと殴ってくれとか言い出してるんだぞ?」
あー、うん。それは別の扉を開いた人の勧誘だね。なんか別のパーティーが開催されそうだ。あと魔族も関係ないよね。誰だってこんな美人と組めるんなら、勧誘の一つでもしたくなるよね。
「かといって組みたいようなパーティーもいないから、一々断るのも手間なんだ」
「なるほど……つまり俺と組んでる事にすれば、その連中も諦めるだろうと」
「まぁそういうことだな」
「でもパーティー勧誘の件と俺が弱い方がいいってことの関係が分からないな」
「弱いってことは低ランクってことだろう?」
「まぁそうだな。おかげで受けられる依頼も殆どがお使い系だし」
俺としては敵を倒してレベル上げしたいから討伐系依頼を受けたい。だけど俺が受けられるのはコッコゥかゴブリンぐらいだ。いきなり人型は無理ってことでコッコゥ狙いにしたわけだし。
「ついでに言っとくが、勧誘してきた奴らは皆オークやトロール、ワイバーンといった討伐系の依頼だったんだ」
「はぁ」
俺だったらホイホイ飛びついてるな。で、囮にされてそうだ。
「私はどちらかというと、お使い系の依頼をやってみたいんだ」
「さいですか」
まぁ個人の趣味だしね。好きにしてくれ。ってそういうことか。
「つまり低ランクの俺と組んでいれば、お使い系の依頼をしやすいと」
「あぁ、そういうことだ」
「でも俺としては討伐系依頼でレベル上げしたいんだけど?」
「あぁ、そうか。ショータは知らないだろうけど、お使い系の依頼でもレベルは上がるぞ」
「は? なにそれ。なんで上がるの?」
「まぁレベルってのは様々なことをこなした、経験の積み重ねだからな。でなければ生産系の職業の人とかどうしろというのだ?」
「そういうものなのか」
「そういうものなんだ。まぁモンスターを倒せば上がりやすい事は確かだがな」
まぁそういうことならお使い系依頼が主でもいいか。討伐系依頼も偶にならOKみたいだし。ついでに合間をみて魔法を教えてもらえるようにお願いしたら、あっさりOKが出た。
ただ槍に関しては、早いうちに専門の人にちゃんと習った方がいいと言われた。独学でやってると変な癖とかつきやすいそうだ。
「じゃあよろしくな」
「あぁこちらこそ」
こうして俺達はパーティーを組むことになった。




