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第797話 ヨーソロー!

「よし、もやいを解け! すぐに出航するぞ!」

「アイアイサー」


 飛空艇を係留していたロープが地上に残る船員の手によって解かれていく。

 それに合わせ、甲板でも慌ただしく船員が走り回っている。

 三本マストに張られた何枚もの帆が風によって大きくはらみ、少しづつ船が動き始める。


「よーし、そろそろいいだろう。フベルトゥス号、飛ぶぞ!」

「アイサー」


 暫く普通の船のように湖面を進んでいたが、船長の合図と共にGを感じはじめる。

 いよいよ飛空艇の本領発揮だ。

 ダンデライオン号では何度も行って来た発進シークエンスだが、他所の船の発進は初めてだな。

 なんかオラ、ワクワクしてきたぞ。


 ザバァーッという水音に、船底が湖面から離れた事を悟る。

 おー、やはり発進シーンと言えば水上からだよな。

 こればっかりはダンデライオン号でもやった事がない。


「船長! 進路方向に雲が!」

「分かってる! 面舵行くぞ!」

「アイサー」


 だいぶ高度も上がり、いよいよ雲に手が届きそうなほどになってきている。

 だが船は雲に突っ込もうとはせず、回避するような進路を取り始めた。

 そういえば、この世界の雲には飛空艇の行き足を止める作用があるだったか。

 ウチの場合、雲に突っ込もうと勢いが止まるような事がなかったので、あまり気にしてなかったな。

 この辺も一般的な船との違いが分かって勉強になる。


 そうして雲の隙間を縫うように船は進み、王都の姿がすっかり見えなくなった。

 ここまで逃げきっていれば、勇者がどんなに騒いでも飛空艇を奪う事は出来無いだろう。

 ようやくこれで一息つけるな。


「よーし、風を止めろ。あとは風任せだ」

「アイサー」


 水平飛行に移行した辺りで船長の指示が飛ぶ。

 恒常風、つまり海でいう海流のようなモノに乗ったらしく、慌ただしく走り回っていた船員たちも少し落ち着いた様子が見られる。


 そうそう。「風を止めろ」と言っているのに「風任せ」とはこれ如何に? なんて思うが、ここでいう「風を止めろ」は、これまで推進力となっていた暴風石を止めろって意味合いだ。

 暴風石ってのはこういった緊急発進する時に使われる石で、常に風が吹いている不思議な石の事らしい。

 エネルギー保存則とか、作用反作用の法則とかは気にしてはいけない。


 周りが落ち着いた雰囲気に変わったからか、俺の方もこれまでの事を少し振り返る余裕ができたかな。


 結局、勇者が飛空艇を奪い、もとい召し上げに来るって聞かされ、俺達が撮った選択はサンドロさんに協力すること。

 勇者だがなんだか知らんが、商会の大事な財産でありシンボルでもある飛空艇が奪われるなんて、俺の未来を予感させるようでムカついたからな。

 そんな理不尽、絶対に邪魔してやるぜ。


 ただ、サンドロさんに協力要請ってのが、俺達のマジックバッグに残りの荷物を入れて欲しいって事だったんだよな。

 マジックバッグなら瞬時に荷の出し入れが可能だし、バッグの中にあれば重さも関係なくなる。

 これほど荷積みに適したアイテムは無いだろう。


 だが俺達のマジックバッグに荷を入れるって事は、そのままバッグごと飛空艇で運ばれる訳で、それはバッグを失うのと同義になる。

 かといって、船が戻ってくるまで待つってのは無しだ。

 サンドロさんとは昨日今日と一緒に働き多少は信頼関係は築けてはいるが、大事なマジックバッグを預けられるほどではない。

 つまりマジックバッグのオマケとして、俺達も商会の飛空艇に乗り込むこととなったわけである。


 なお、協力するにあたって二つ程、条件を出させてもらった。

 これが叶えられない場合は、申し訳ないが協力は出来ないとお願い(脅迫?)したらアッサリOKしてくれたな。

 まぁ条件と言っても大した事ではなかったけどね。


 一つはソンウー少年の事。

 今日の人足仕事が終われば直ぐにでも迎えに行くつもりだったため、シャノワさん達のところで待っているように言いつけてしまったからな。

 けど、こうして飛空艇に乗り込んでしまった以上、今日中に彼を迎えに行くことは叶わないだろう。


 なので、もういっそ開き直って、彼の事はシャノワさん達に丸投げしてしまおうと思っている。

 人の人生を引き受けたばかりのくせに、実に無責任だけどな。


 一応の建前として、


・俺が協力した食品サンプルやスタッファーにより、彼女達の店は繁盛していく事は間違いない。

・繁盛していけば二人だけで店を回していくことは難しくなり、やがては従業員が必要になっていく。

・それを見越し、今のうちに彼を送り込んで上手い事使うのはどうだろうか。


 的な言い訳をシャノワさん達に言付けるよう頼んだ。

 あと養育費的なモノで金貨一枚(俺の財布から)も。


 物価の高い王都だけど、金貨一枚あればしばらくは彼を養えるはず。

 金貨一枚分の間は彼の面倒を見て貰い、どうにもならないようならその時はスパッと諦めてもらうしかない。


 上から目線の言い方になるが、チャンスは与えたのだから、あとはそれを活かせるかどうかは彼次第。

 冷たい様だが、そこまでの面倒は見切れないよな。

 ソンウー少年とついでにシャノワさん達のことは、商会もそれとなくフォローしてくれると言ってくれたし、そうそう悪いようにはならないだろう。


 残りのもう一つの条件だが、これは次の係留地で俺達を降ろしてもらう事。

 何処に向かってるかは知らんけど、終点までは付き合い切れないしな。


 そうして王都に戻ってシャノワさん達のところに顔を出して、改めてソンウー少年を託す。

 そんな身勝手な青写真を思い描いている俺だった。

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