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第796話 勇者が来る!

「た、たいへんだー、たいへんだよー」

「大変、大変」

「どうした? ワーグナ。それにレインまで」


 突然、大きな声を張り上げサンドロさんに向かってくる少年少女。

 あれは確か商会の丁稚見習いのワー君とレイちゃんだったか?

 さっきシュリが披露したお手玉ジャグリングの見学者で見た顔だ。

 そんな二人が血相を変えて何やらわめいている。


 ……はて? こんなやり取りをついさっきやったような気がする。

 なんでだろう? 白昼夢でも見たのか?

 働き過ぎて白昼夢を見るとか、向こうの世界だけで十分なんだが。


「大変だよ! なんか勇者様が現れたんだって!」

「勇者様、勇者様」

「はぁ? なんだそりゃ。そんなバカな話がある訳ないだろ」

「ホントだよ! お城の人がきんきゅうはっぴょーってのをしたんだよ!」

「きんきゅー、きんきゅー」

「緊急発表っつったってなぁ……」


 おかしい……白昼夢と同じ話が……でもないな。

 白昼夢だと星が落ちてきたはずだが、実際には勇者が現れたらしい。


 ……って、勇者? 勇者ってあの勇者?

 シュリが大昔にやらされていたヤツで、アレク君にもその素質があるっていう、あの勇者?

 確かに勇者召喚らしい光の柱が昨日お城から立ち上がったが、シャーロットのたわ言かと流していたあの勇者?


 普通に考えればデマかなんかだと思うんだけど、お城からの発表ってことはマジなんだろう。

 つーか姿を消して五百年も経っているのに、未だに勇者『様』と呼ばれてるんだから、よっぽどの根強い人気なんだな。


「それでね。なんか勇者様がウチに来るんだって」

「来る、来る」

「勇者……来る……うーむ……」


 は? 勇者が来る?

 五百年ぶりの勇者出現の発表もビックリなんだろうけど、それ以上にビックリだな。

 王都でも有数のフベルトゥス商会と言えど、勇者が来るなんてあり得ないだろう。

 というか、仮に着たとしても何が目的なんだ? って話だよな。


「そんなもの決まっている。その新しく現れた勇者とやらは、この商会の飛空艇を手に入れるつもりだろう」

「は? 飛空艇を? 勇者ってのはそんな横暴がまかり通るのか?」


 いや、確かに俺の知る勇者ってのは、人んちのツボをたたき割ったりタンスの中を漁ったりと、どう考えてもただの泥棒野郎だけどさ。

 それでも勇者ってだけで貴重とされる飛空艇を奪えるのはどうなんだ?


「おそらく勇者法を盾にしてきたのだろう。あの法は戦時中に制定された法だが、これまで廃止されたとは聞いていないからな」

「勇者法?」

「あぁ、人族の国家全てが批准した、ある意味悪法と呼べる法だ。簡単に言えば、全ての国家は勇者に便宜を図るようにする法だ」


 よく分からんが、とにかく勇者にはかなりの特権があるって事か。

 それがあるからこそ、旗頭として担ぎ上げられていたし、魔の山が生み出されることになった大海戦も出来た訳か。


「ちっ、会頭の予想よりも早かったな。もう少し時間があれば荷の積み込みが完了したってのに」

「予想より? もしかしてサンドロさんは、勇者が来ることを知っていたんですか?」

「城から飛空艇を召し上げるって話だけはな。そんな道理が通る筈がないと思っていたが、勇者が現れたんじゃ通っちまうよな」


 なんでもフベルトゥス商会の会頭……つまりトップの人が、色々と(・・・)懇意にしている城の役人から裏情報として、飛空艇が狙われている事を教えて貰っていたらしい。

 狙っている奴が勇者だったとまでは聞いていない為、半信半疑の会頭さんだったがソコは大手商会のトップ。


 ただ万が一本当だった場合、商会のシンボルともいえる飛空艇が召し上げらる事になる。

 そんな事が起こってしまえば屋台骨が揺らぐような大打撃であり、場合によっては商会自体が潰れてしまう。

 かといって表立って逆らってしまえば、ソレも身の破滅に繋がりかねない。


 そんな嫌な予感がした会頭さんが苦肉の策として思いついたのが、『既に出航してるから奪えませんよ』作戦、略して『既出』作戦である。略す必要性は謎である。

 城の者が来てしまえば渋々ながらも飛空艇を明け渡すしかないが、それよりも先に出航してしまえば後は何とでも白を切ることが出来る。

 そう考えた会頭さんは、サンドロさんに飛空艇の出航を急がせるよう指示していたんだそうだ。


 なるほど、それでさっき戻って来たら、荷積みのペースを上げるよう指示したのか。

 だがそんな小細工も勇者本人が来てしまえば瓦解する。

 コイツは一体、どうしたらいいもんかねぇ。


 つっても、所詮は他人事なんだけどな。

 勇者の横暴は目に余るが、一介の冒険者ごときがどうにかなるモノでは無い。

 下手したら俺の飛空艇まで巻き添えになる可能性だってある。

 ここは上手い事フェードアウトするのが最善だろう。


「そうだ! ショータ達はマジックバッグを持っていたよな? スマンがお前達のバッグにも荷を入れさせて貰えないか?」

「え? それって……」

「あぁ、お前達も飛空艇に乗ってくれ! 勿論、乗車賃は取らないしボーナスだって付ける! な? 後生だから俺達を助けてくれないか!」

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