第788話 ホットドッグ
無理でした!
「うにゃ! これはビックリにゃ! 本物ソックリにゃ!」
「ウニャ! これは凄いニャ! 匂いまでしているニャ!」
そうだろうそうだろう、だってそいつは飛空艇のデタラメさの一端だからな……って匂い?
いくら飛空艇謹製の食品サンプルでも、匂いまでは再現できなかったと思ったのだが……
「おっとスマン。ソッチはコピー元の方だった」
「にゃ! 酷いにゃ! 騙されたにゃ!」
いやいや、待ってくれ。
あまりにもソックリすぎて、どっちが本物か分かんないほどなんだからな?
うっかり間違えるのも仕方ないだろ。
仕舞っていたマジックバックの仕様もある。
アレは手を突っ込むと中身が何となく分かるようになっているけど、それって外観の情報なんだよ。
見た目がマジでそっくりだと、どっちがどっちか分からないんだよ。
まぁ、だったら両方出せって話だけど。
「という事で、こっちが食品サンプルの方だな……たぶん」
「ふんふん……そうにゃね。そっくりにゃけど、匂いがしにゃいにゃ」
ヒクヒクとテーブルに置かれた食品サンプルの匂いを嗅ぐシャノワさん。
その仕草はどこか新しいカリカリを吟味する猫のよう。
見た目や語尾だけでなく、中身まで猫っぽいんだな。
「にゃ! たしかに受け取ったにゃ!」
「じゃあコレでソーセージのレシピを……」
「もう教えたにゃ! 後はそこのボーズに聞くといいにゃ!」
ボーズと呼ばれたアレク君が大きく頷いている。
どうやら俺達が食品サンプルを作っている間に、シャノワさんから伝授されたようだ。
心なしか嬉しそうなのは、新しいレシピを教えて貰えたからか、あるいは男扱いされたからか。
どちらにしろ、ソーセージの作り方を知ることが出来たのはありがたい。
「それと柔らかいパンにゃんて、にゃんに使うにゃ? おにゃかが空いてるにゃら、にゃにか作るにゃよ?」
「そうニャ! そんニャパンの為にミャーはパン屋まで走らされたニャ! 朝からとっても疲れたニャ!」
プリプリするシャティーさんに謝りつつ、俺は柔らかいパンを受け取る。
この世界のパンといえば硬いパンが基本なのだが、そこは富裕層も多い王都。
こういった柔らかいパンを扱う高級店もあるようだ。
「まぁまぁ。じゃあコイツを縦に切って貰えますか? あ、完全に切らずに下の方は繋げたままで」
「にゃ? そんにゃ事ぐらいお安い御用にゃけど、にゃにをするつもりにゃ?」
「ふっふっふっ。それはもう、ソーセージの可能性を広げる料理だな」
ソーセージ。
柔らかいパン。
みじん切りにされた玉ねぎ。
そしてケチャップ。
これらの食材から導き出される料理……そう、ホットドッグだ。
理想を言えばマスタード、それも粒々のやつが欲しいところだが、見つからないからな。
あとケチャップもあのチューってするヤツ(※ディスペンサー)が無いからクネクネが描けないため、スプーンで塗る感じになるけど、そこは妥協するしかない。
飛空艇の厨房を漁れば出てくるんだろうが、シャティーさん達の前ではソレも無理だしな。
俺は割って貰ったパンを更に割り、断面を熱したフライパンに押し付ける。
別にやらなくてもいい作業だけど、やった方が美味しく感じる。
断面を少し焼いたら元に戻し、ボイルしたソーセージを挟む。
あとはソーセージの脇に玉ねぎを詰め、ケチャップを適量かければ完成である。
あーんと口を大きく開け、パクッと一口。
うん、やはりソーセージのパリッと感を感じるには、この柔らかいパンでないとな。
硬いパンではパンの食感の方が勝ちすぎて、ソーセージの醍醐味が味わえない。
「ショータさん。あーんっス」
ホットドッグを知るシュリは、ためらいもなく大口を開ける。
さっき朝食を済ませたばかりだし、ホットドッグ丸ごと一本は食い過ぎか。
そう考えた俺は、ホットドッグを彼女の口にも入れてやる。
ただし咥えたままだがな!
要はホットドッグを使ったポッキーゲームだ。
モリモリ食べ進めて、そのままブチュ―っと――
「フンッ!!」
シャーロットのいあいぎり!
ホットドッグは真っ二つになった!
……する前にシャーロットの一振りが俺とシュリの間を通り過ぎ、ハラリと俺の前髪が落ちる。
シャーロットの剣は抜かれたままであり、なんだか「お前を開きにしてホットドッグにしてやろうか?」的な雰囲気を放っている。
もしくは「私の分も作れ」か。
チラチラと残ったパンを見ている辺り、後者なのかもしれん。
俺は真っ二つにされたままのホットドッグを飲み込むことすら忘れ、他のメンバーの分も作っていくのだった。
ホットドックはシャノワさん達にも高評価だったが、やはり柔らかいパンがネックになった。
彼女達の店の客層からすると、柔らかいパンを使ったホットドッグではコストがかかりすぎて売れないらしい。
まぁ俺も新メニューとして提案するつもりはなかったからな。
せいぜい、こんな食べ方もあるんですよーと視野を広げて貰いたかっただけだ。
「視野を広げるっスか……ならコレはどうっスかね?」
そういってシュリは包丁を握るとソーセージを切り刻み、それをフライパンで焼き始める。
じりじりとフライパンで焼かれたソーセージは、細く切られた部分が次第に丸まっていく。
「なるほど。タコさんウィンナーか」
「そうっス。ソーセージといえばコレっス」
だがタコさんウィンナーはあまり受けが良くなかった。
どうやらタコ自体を知らない為、なにかのモンスターかと思われたらしい。
「ふ……不覚っス。こんなに可愛いのに」
「ま、まぁ飾り切りは受けたんだから、な?」
タコさんウィンナーは駄目だったが、カニさんウィンナーはOKだった。
タコもカニも海産物だろうに、解せぬ。
だがきっとこの飾り切りの技法も、この店の名物となる事だろう。
「一々こんにゃ風に切ってたら、面倒すぎてニャーは死んじゃうにゃ!」
……なるといいな。
出勤させられませんでした。
タコには勝てなかったよ……




