表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
771/1407

第771話 取引

「よし、分かった。俺も男だ! つべこべ言わずコイツで支払わせてもらうぜ!」


 マジックバッグに手を突っ込み、ソイツをテーブルの上に置く。


「そうそう、大人しく『けちゃっぷ』を……って、これじゃ無いにゃ!!」

「これじゃない? 代金は金貨一枚なんだよな? だったらこれで合ってるだろ?」


 もちろん俺が置いたのは金貨の方だ。

 うなるほど……とまでは言わずとも、現金の持ち合わせがあるのだから、態々ケチャップで支払う必要も無い。

 まぁ材料費や加工賃とかを考えても、ケチャップで支払った方が安いんだけどな。


 ただ店主であるシャノワさんがソーセージ代と引き換えに要求して来たって事は、彼女にとっては金貨一枚以上の価値がこのケチャップにはあると思える。

 それ故、素直に「はい、そうですか」とケチャップを渡してしまう事は、あまり得策ではない。

 有り体に言えば、もっと値を上げる事だって可能なはずだ。


「にゃうぅぅ……計算が狂ったにゃ。この『けちゃっぷ』があれば、ウチの店ももっと繁盛するはずにゃのに……」

「姉さん……」


 よよよ、と目元を抑えるシャノワさんと、それを慰める妹のシャティーさん。

 言われてみれば、たしかにこの店は繁盛しているとは言えなかったな。

 夕食時という一番の稼ぎ時に、俺達八人がスムーズに席に座れたぐらいだからな。

 美味い酒があると評判になってはいても、実際の集客には繋がらないようだ。


 だからといって目の前の二人に同情するのはちょっと違う。

 そもそも、この二人がソレを悲観しているようには見えないのだ。

 今泣いているのも唯の泣き真似だしな。

 我が姉の迫真の泣き真似に騙され、これまで散々扱き使われた俺に通用するはずがない。


「ショータさん……」

…………(じーー)


 が、俺には通用しなくても、別の人間には通用したらしい。

 心優しいアレク君とベルの二人は、彼女達の泣き真似に絆されたようだ。

 二人して訴えかけるような目で俺を見つめてくる。


 くっ、なんて騙されやすいんだ。

 君達はもうちょっと人を疑う事を覚えたほうがいい、と心配になってくる。

 だからこそクレアがリーダーとして表に立っているんだけどな。


 ネコミミ姉妹の泣き真似には絆されるような俺では無かったのだが、純真な二人の視線には耐えきれなかったようだ。

 渋々ながらもマジックバッグからケチャップの入った壺を取り出す。


「にゃ!? それはもしかして……?」

「あぁ、コレもケチャップだな」


 これは小分けしておいた分ではなく大元の分であり、ボーリング玉サイズの壺のため内容量としては数キロはある。

 この量であれば業務用として使っても暫くは持つだろうし、無くなる頃にはサンドロさん辺りが新しいケチャップを仕入れてくる事だろう。


 もし仕入れて来なかった場合は、諦めてもらうしかない。

 さすがに行きずりの俺達では、そこまで面倒は見切れないしな。


 当然の事だがレシピも渡したりはしない。

 レシピはアレク君の努力の結晶であり、ウルザラ村の生命線でもある。

 そんな大事なモノを軽々しく渡してしまう程、俺は考え無しでは無いのだ。


 もっとも、現物からレシピを逆予想されてしまうのは防ぎようがない。

 アレク君がナポリタンのソースからケチャップを完成したのだし、同じことを彼女達もするやもしれん。

 まぁ、彼女達がそこまでするかは分からんし、分かったところで肝心のトマトが手に入るかも微妙だろうが。


「これはこれは、ありがたいにゃ!」


 シャノワさんの手が伸びてくるが、そこはピシャリと抑える。

 もちろんタダでは渡さないよ?


「これが欲しければ、ソーセージと交換だ」

「にゃにゃ!? ソーセージはもう無いにゃ!」

「今日の分は……だろ? 今日の分は無くなっても、明日以降の分はまだ残ってるよな?」


 ソーセージってのは割と保存の効く食品だった覚えがある。

 であれば今日の分だけでなく、ある程度纏まった量を作っているはずだ。


「にゃうぅぅ……」


 シャノワさんとシャティーさんの視線が壺に釘付けになる。

 ジッと壺を見ていた二人は、やがて顔を突き合わせると何やら相談し始める。


(ソーセージの在庫はまだあるにゃよね?)

(あとちょっとだけニャ……明日の分まで食べられたニャ……)

(にゃんと……でもこのチャンスを逃したくはにゃいにゃ)

(そうニャね。あんな量を提供してくれるニャんて、この人はすごく良い人のはずニャ)

(そうにゃ! ニャーたちの泣き真似にアッサリと騙されてくれたにゃ! とってもチョロい奴にゃ!)

(それに、これだけあればソーセージがもっと売れる筈ニャ)

(にゃ? それはだめにゃ! これ以上はニャーの身がもたにゃいにゃ!)


 そんなようなヒソヒソ話が漏れ聞こえてくる。

 聞き耳を立てているわけでは無いが、目の前で相談されれば否が応でも聞こえてきてしまう。


 わざわざ声を抑えたくせに、そんな事にも気づかない程、相談に集中しているのか。

 あるいはソレすらも後の取引を見据えた計算のうちなのか。

 真相は彼女達にしか分からないが、なんとなく考え無しでやってそうではある。


 漏れ聞こえた話でちょっと気になったのは、これ以上ソーセージの売り上げがアップしてもシャノワさんの負担が増えるだけって事か。

 そういえばサンドロさんが頼み込んでも増産をOKしなかったな。

 何か事情でもあるのだろうか。

「~にゃ」がシャノワ(姉)で、「~ニャ」がシャティー(妹)って事にします。

にゃーにゃー言い合ってると、どっちがどっちか分からんのでw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ